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2018年02月01日

第495回:“I don't have time for dying.” ―「死んでるひまなんてないのさ」(IKEA創業者イングヴァル・カンプラード)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。



第495回の今日はこの言葉です。
“I don't have time for dying.”

「死んでるひまなんてないのさ」
という意味です。これはスウェーデンの実業家イングヴァル・カンプラード(Ingvar Kamprad, 1926-2018)の言葉です。世界的な家具小売りチェーン店であるイケア(IKEA)の創業者です。
つい先日(2018年1月27日)、カンプラードが亡くなったことが報道されました。イギリスでも大きなニュースとなりました。

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イングヴァル・カンプラード(2006年撮影)
Photo by Mark Cuthbert / Contributor [Rights-managed], via Getty Images

イングヴァル・カンプラードは1926年にスウェーデン南部のスモーランド地方(Småland)にあるエルムタリッド(Elmtaryd)という農場で生まれ、近くのアグナリッド(Agunnaryd)という農場で育ちます。
貧しい家庭に育ったイングヴァルは5歳の頃からマッチを売り始めます。彼は『マッチ売りの少女』ならぬ「マッチ売りの少年」だったのです。デンマークのハンス・クリスチャン・アンデルセン(Hans Christian Andersen)の童話『マッチ売りの少女(The Little Match Girl)』が書かれたのは1848年ですが、お隣りスウェーデンでは20世紀に入ってからも、イングヴァルはマッチを売っていたのです。


The Little Match Girl(『マッチ売りの少女』) (Picture Puffin Books) (英語) ペーパーバック - Hans Christian Andersen (著)

しかしイングヴァルのマッチ売りにはアンデルセン童話の少女のような悲惨さはありません。7歳の頃には自転車で広い範囲に売り歩きます。そしてストックホルムでマッチを大量に安く仕入れることで、お客には安く売りながらも結構な利益を得ます。その後もイングヴァルはマッチだけでなく、魚、クリスマスツリー装飾品、植物の種、 ボールペンや鉛筆などを売って事業を拡大します。
1943年、17歳のイングヴァルはIKEAを設立します。店名の由来はイングヴァル・カンプラード(Ingvar Kamprad)のイニシャルI・Kと、生まれ育ったエルムタリッド(Elmtaryd)とアグナリッド(Agunnaryd)の2つの農場の名前の頭文字EとAをつなげたものです。
最初は通信販売を利用した安売り雑貨店で、需要があれば何でも扱います。家具についてはおじのエルンスト(Ernst)が作ったキッチンテーブルのレプリカを販売したりします。
カンプラードが21歳の時、地元の家具店と契約して格安販売を開始するとこれが大当たりして、1951年以降は完全に家具販売に集中します。そして1958年、「メーベル・イケア(Möbel-IKEA)」(イケア家具店)という最初のお店をスモーランドのエルムフルト(Älmhult)に開店します。IKEAの1号店です。カンプラードが32歳の頃です。

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IKEAの1号店の店長ハンス・アックス(Hans Ax)とカンプラード(右)
Photo by Unknown [Public domain], via Wikimedia Commons

IKEAは順調に売り上げを伸ばしますが、同業他社との価格競争に巻き込まれたり、ライバルの圧力で家具メーカーから商品の供給を停止されたりと、何度も苦難に遭います。
しかしカンプラードはこの逆境をバネにして、自社専門のデザイナーによって企画・製造・販売まで一気通貫で行い、センスのよい家具や生活雑貨を安く供給するというイケア独自のスタイルを誕生させます。
“The temples of design in places like Milan or God knows where overflow with beautiful, original furniture that costs extortionate amounts of money. The vast majority of people don’t have six figure amounts in the bank and don’t live in enormous apartments…”
「ミラノみたいなデザインの聖地では美しくて個性的な家具にあふれているが、それはどれもバカ高い。大多数の人たちは銀行に6桁のお金(何千万円も)は持っていないし、豪華なアパートにも住んでいない」
後にカンプラードが語った言葉です。
“It is for just such people that I created Ikea. For everybody who wants a comfortable house in which to live well. A need that crosses all countries, races and religions.”
「そんな人たちのために私はIKEAを作ったんだ。快適な家に住みたいすべての人たちのためにね。それは世界中どこの国のどの人種のどの宗教の人たちにとっても代わらないニーズなんだ。」


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イングヴァル・カンプラード(2010年撮影)
By Ministry of Enterprise, Energy and Communications of Sweden/Sandra Baqirjazid (Haparanda Midnight Ministerial June 2010) [CC BY 2.0], via Wikimedia Commons

カンプラードのこの考えは世界中で受け入れられます。IKEAは1963年からスウェーデン国外に積極的に進出し、ヨーロッパで絶大な人気を誇るようになります。
日本では1972年(昭和47年)という比較的早い時期に名古屋の名鉄百貨店と東京の東急百貨店がIKEAの家具を導入し、人気となりましたが値段が高かったため売上が伸びず、間もなく撤退します。そして1974年(昭和49年)に船橋市と神戸市にIKEAが出店し、小売と卸を行います。しかし1986年(昭和61年)に再び撤退します。
アメリカへの進出は1985年、イギリスへの進出は1987年と、比較的遅い時期でした。
日本へは2006年に再進出し、船橋市のららぽーとスキードームSSAWS(ザウス)の跡地に復帰1号店を出店します。
今やIKEAは世界49ヶ国に411の店舗を展開しています。

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再進出1号店の開店イベント(2006年撮影)
Photo by Kurita KAKU / Contributor [Rights-managed], via Getty Images

ところで、日本ではIKEAは「ケア」と呼ばれます。これはカンプラードの母国スウェーデンでの発音「イーア」に近い発音です。
アメリカやイギリスでは英語読みで「イキア」と発音されます。日本式の呼び方に慣れていると、店内アナウンスを初めて聞いた時はちょっと戸惑います。
またIKEAのお店の外観は世界中わりとどこでも似ており、スウェーデンの国旗のカラーの青と黄色を基調としています。お店の壁面には青地に黄色い文字で大きく“IKEA”と書かれています。
ロシアではロシア語で“ИКЕА”と書かれ、中国では“IKEA”の下に“宜家家居”(イーチャー・チャーチ― = イケア・ホーム)と書かれています。

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ロシアのIKEA(2011年撮影)
Photo by Bloomberg / Contributor [Rights-managed], via Getty Images

IKEAで買い物をする時には、まず入り口でショッピングカートか黄色いショッピングバッグを確保して下さい。入口で店員さんがショッピングバッグを渡してくれる時もあります。
ショッピングカートは店内にもいくつかほかの場所にも置かれていますので、何も持たずに手ぶらで店内に入っても構いません。

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IKEAの入口(2017年撮影)
Photo by Bloomberg / Contributor [Rights-managed], via Getty Images

店内に入ると、まず巨大なショールームを通ることになります。ここでは単に家具を種類別に並べているのではなく、小さな間取りに区切られたキッチンや寝室、子供部屋などテーマ別のモデルルームに家具や小物をセンスよくトータルコーディネートして展示しています。ちょっとしたテーマパークのようで楽しいです。
店内は一見迷路のように見えますが実は順路は一筆書きで、床の矢印に沿って歩くと全体をくまなく見て回れるようになっています。
また、ところどころにショートカットできる通路がありますので、慣れてくると目的の場所に最短距離で行くこともできます。

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IKEAのショールーム(2010年撮影)
By Albertyanks - Albert Jankowski (Own work) [Public domain], via Wikimedia Commons

ショールームにある家具や小物は基本的にすべてIKEAの商品で、お店で買うことができます。しかしショールームからはレジへ持っていくことは普通しません。商品にはすべてタグがついており、家具も小物も番号をメモしたり写真をとっておけば、後でピックアップすることができるのです。
ちなみにメモ用紙とメモ用の鉛筆は店内に備えてあるものを無料で使うことができます。これらもIKEAデザインでかわいいです。

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IKEAの店内に置いてあるメモ用の鉛筆(2005年撮影)
By McLeod (Own work) [GFDL, CC-BY-SA-3.0 or CC BY-SA 2.5-2.0-1.0], via Wikimedia Commons

お店に小さな子供を連れて行った場合には、子供用の遊具が置いているスモーランド(Småland)という遊び場に子供を無料で預けることができます。相撲ランドじゃありませんよ。カンプラードの生まれ故郷であるスモーランドです。
また、店内は広いので、見るのに時間がかかります。そして、歩き回るのでのどが渇いたりおなかが空いたりします。
ちょっと疲れたなと思ったちょうどよい頃、経路の途中に大きなレストランがあります。
レストランといっても気どったものではなく、セルフで食事をトレイに乗せてレジで精算するカフェテリア方式のフードコートです。

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IKEAのレストラン(2015年撮影)
Photo by William Van Hecke / Contributor [Rights-managed], via Getty Images

ここでの目玉はなんといっても典型的なスウェーデン料理であるスウェディッシュ・ミートボール(Swedish meatballs)です。サイドにマッシュトポテトを選んでミートボールと一緒にクリームソースをたっぷりかけてもらって食べるのが僕は好きです。
世界中どこでもほぼ同じ味で、日本人にとっても「はずれ」がないので、海外旅行などで口に合うものがなくて困った時でも安心して食べることができます。
また、ミートボールもクリームソースもお店で買うことができます。このあたりは徹底しています。カンプラードのこだわりが感じられます。

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IKEAのレストランのスウェディッシュ・ミートボール(2009年撮影)
By miss eskimo-la-la from Stockholm, Sweden (Lunch at IKEA, part 2) [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons

そして順路は商品の種類別の売り場を通ります。
ここでショールームでとった写真やメモをたよりに目的の商品を探します。
どこに置いてあるかわからない場合は、黄色いユニフォームを着たIKEAの店員さんに尋ねると教えてもらえます。
小物はそのまま黄色いショッピングバッグやカートに入れればよいですが、家具はここでも持ち出せませんのでメモを無くさないようにして下さい。商品別のエリアで比較検討して買うものを決めてからメモをとってもよいでしょう。

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IKEAの商品別の売り場(2015年撮影)
Photo by Bloomberg / Contributor [Rights-managed], via Getty Images

途中フロアが変わっていろいろな製品別売り場を通り過ぎると、ウェアハウス(warehouse)と呼ばれる巨大な倉庫にたどり着きます。倉庫には組み立て前の家具が並んでいます。お客はメモをたよりに倉庫から目的の家具を探し、レジへ自分で持っていくのです。ここには家具を運びやすいようにさらに大きなカートが用意されています。
商品はフラットパック(flatpack」と呼ばれる、できる限り薄く小さな梱包にまとめられており、よほどの大物でない限りは、お客が自家用車のトランクに入れて持ち帰ることができます。
そして持ち帰った家具はお客が自分で組み立てます。組み立ても簡単で、基本的に文字が一切ない、イラストだけで描かれた説明書を見るだけで組み立てることができます。
これがIKEAのお店の最も大きな特徴で、IKEAのビジネスの鍵でもあります。家具販売で最も人手と手間がかかる商品の運搬と配送と組み立てを、すべてお客にやらせてしまうのです。これによってIKEAはコストを徹底的に削減することができ、その結果として圧倒的な価格競争力を持つに至っているのです。
また、頼めば配送や組み立てをIKEAの手配でやってくれるサービスもあります。ただし有料のサービスです。

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IKEA店内のウェアハウス(2012年撮影)
By Evan-Amos (Own work) [Public domain], via Wikimedia Commons

家具の組み立てまで書いてしまったので説明が前後しますが、買い物の最後にお客はレジ(チェックアウト)を通ります。無料のレジ袋は無く、青いIKEAバッグを購入して小物を入れます。前に買ったIKEAバッグを持参して使うこともできますし、レジ袋やエコバッグを持参して使っても構いません。
ただ欧米のレジの店員さんは日本と比べたら若干手際が悪いので、レジの列はなかなか進みません。そんな時にはセルフチェックアウト(self-checkout)が便利です。

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IKEAのセルフ・チェックアウト(2010年撮影)
Photo by Andreas Rentz / Staff [Rights-managed], via Getty Images

かつてカンプラードは次のように語ったと言います。
“We ought to have more women in various management positions, because women are the ones who decide almost everything in the home.”
「我々は様々な部署にもっと女性の管理職を登用すべきだ。なぜなら家のほとんどすべてのことを決めているのは女性だからだ」
なるほど、その通りですね。
実際IKEAでは多くの女性が重要な仕事を任されて活き活きと働いています。(もちろん男性も活き活きと働いてますが...)

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Photo by Bloomberg / Contributor [Rights-managed], via Getty Images

2006年、80歳を迎える時にカンプラードは次のように語ります。
“I'm not afraid of turning 80 and I have lots of things to do. I don't have time for dying.”
「80になることを恐れてはいない。することがたくさんあるから。死んでるひまなんてないのさ」
こういう考え方、成功したビジネスマンには何か共通しているものがあるようですね。

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スウェーデンのベクショー大学(Växjö university)で講演するカンプラード(2005年撮影)
Copyrighted free use, Link

“I don't have time for dying.”
死んでるひまなんてないのさ。

子供の頃のマッチ売りから商売を始めて、センスのいい家具を低価格で販売するIKEAを創業したイングヴァル・カンプラード。
その陰には徹底した合理化と数々の工夫がありました。
僕もIKEAの家具を毎日愛用していますし、IKEAに買い物に行くのも大好きです。
これほど世界中の人に愛されているお店もないかも知れません。
死んでるひまなどないと豪語したカンプラード。
しかし冒頭にも書いたように、つい先日の2008年1月27日に帰らぬ人となりました。91歳でした。

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カンプラード死去の報を受けて半旗を掲げるIKEAの店舗(2018年撮影)
Photo by Bloomberg / Contributor [Rights-managed], via Getty Images

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。


【動画】“Ikea founder Ingvar Kamprad: Five things to know - BBC News (イケアの創業者イングヴァル・カンプラード:知っておくべき5つのこと)”, by BBC News, YouTube, 2018/01/29


【動画】“Japanese IKEA 日本のIKEA・イケア”, by Rachel & Jun, YouTube, 2015/08/24

【関連記事】第298回:“I'm still alive... obviously.” ―「僕はまだ生きている。明らかにね」(マーク・ワトニー)(『オデッセイ』より), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年04月04日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“THE IKEA CONCEPT - Doing it a different way (IKEAのコンセプト - 違うようにやってみる)” , IKEA公式サイト(http://www.ikea.com/

【動画】“Ikea founder Ingvar Kamprad: Five things to know - BBC News (イケアの創業者イングヴァル・カンプラード:知っておくべき5つのこと)”, by BBC News, YouTube, 2018/01/29
【動画】“Japanese IKEA 日本のIKEA・イケア”, by Rachel & Jun, YouTube, 2015/08/24




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posted by ジム佐伯 at 07:00 | ロンドン ☁ | Comment(2) | 実業家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
のざわさん、こんにちは。ジム佐伯です。コメントありがとうございます。そしていつもブログをご覧になって頂きありがとうございます。イケアの店内や商品は世界ほぼ共通ですから、日本のお店でもヨーロッパへ行ったような気持ちになりますよね。特にショールームの部分やレジ手前の倉庫の部分は日本の家具屋さんとは全く違って面白いですよね。レストランも美味しく、行くこと自体が楽しいお店だと思います。また、80歳を過ぎても現役で教育に打ち込まれるお兄様、素晴らしいですね。ますますのご健康とご活躍をお祈りします。コメントとても励みになります。これからもよろしくお願い致します。
Posted by ジム佐伯 at 2018年02月04日 05:31
ジム佐伯様、こんばんは。大変興味深く拝読しました。イケアはデンマークと日本の店に行きました。ミートボールも食べました。ジャムもおいしいですね。(ミートボールにジャムというのはちょっと不思議な食べ方ですがおいしいです)日本のイケアに息子が連れて行ってくれました。息子たちは結婚する前から北欧家具にあこがれていたみたいです。イケアの店内に度肝を抜かれました。広い店内に確かにコースがあって、例えば子供部屋のモデルに二段ベッドとかいろいろセットされて、ショールームがいくつもある感じでした。
さて創業者のイングヴァル・カンプラード氏は、廉価でおしゃれな家具を作ることに徹して、海外にも出店し、大成功を収めたのですね。庶民が求めているものは安くてよい物。彼は素晴らしい考えだと思いました。マッチ売りの少女のような時代があったことも興味深いです。でも悲惨さはないのですね。I don't have time for dying.この言葉を私の兄にプレゼントしようと思います。というのは兄は80歳を過ぎましたが、今も現役である学校の校長先生をしています。生涯現役を貫いている姿は素晴らしいです。
Posted by のざわ at 2018年02月03日 20:48
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