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2017年12月03日

第480回:“The customer is always right.” ―「お客様は神様です」(セザール・リッツ)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。

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Image by Bloomberg / Contributor [Rights-managed], via Getty Images

第480回の今日はこの言葉です。
“The customer is always right.”

「お客様は常に正しい」
というのが文字通りの意味です。
「お客様は神様です」
といったところでしょうか。これはスイス出身の実業家セザール・リッツ(César Ritz, 1850-1918)の言葉です。
オテル・リッツ・パリ(Hôtel Ritz Paris)リッツ・ロンドン(The Ritz London)などの高級ホテルの経営で大成功をおさめ、「ホテル王」と呼ばれます。英語では、
“king of hoteliers, and hotelier to kings”
「ホテルマンの王にして、王たちのホテルマン」
と呼ばれた人物です。

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セザール・リッツ
By unbekannt, upload by Adrian Michael (www.bad-bad.de), cropped by Jim Saeki in 2017 [Public domain], via Wikimedia Commons

1850年、セザール・リッツはスイス南部のヴァリス州にあるニーダーヴァルト(Niederwald)という山村に生まれます。15歳の頃からブリーク(Brig)という町のホテルでソムリエの見習いとして働きますが解雇され、17歳の頃にはパリの万国博覧会(1867 Universal Exhibition)のスイス館で軽食のウェイターとして働きます。その後もパリのビストロや定食屋でウェイターや雑用係として働き、やがてレストランの給仕長や店長を任されます。そしてパリの有名な高級レストラン「ヴワゾン(Voisin)」で働くようになります。お店には若き日の女優サラ・ベルナール(Sarah Bernhardt)や晩年の作家アレクサンドル・デュマ(Alexandre Dumas)など常連の有名人たちが訪れます。

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サラ・ベルナール(1864年撮影)
Nadar, cropped by Jim Saeki in 2017 [Public domain], via Wikimedia Commons

フランスはナポレオン3世(Napoléon III)による第二帝政の時代です。やがて宰相ビスマルク(Otto von Bismarck)が率いるプロイセン及びドイツ諸国とフランスとの間で戦争が始まります。普仏戦争(Franco-Prussian War, 1870-1871)です。プロイセン軍は破竹の進撃でフランスに侵攻し、フランス帝国軍は連戦連敗。パリは包囲されて深刻な食料不足となります。リッツは動物園から買い付けた象の肉を使った料理を提供したりします。やがてフランスは敗北し、勝利したプロイセンはドイツ諸邦と共に統一ドイツ帝国を成立させます。パリでは戦災と戦後の混乱、労働者を虐げる政策などに対する民衆の不満が爆発し、民衆と国民軍が決起して労働者革命が成立します。パリ・コミューン(Paris Commune, 1871)です。国防政府はいったんパリを撤退してヴェルサイユに退きますが、プロイセンの支援を得て一週間かけてコミューンを鎮圧します。「血の一週間(The Bloody Week)」と呼ばれます。

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パリ・コミューンでバリケードを作る人々
Bruno Braquehais [Public domain], via Wikimedia Commons

パリ・コミューンがあった翌年の1872年、リッツはパリのホテル・スプレンディド(Hôtel Splendide)でフロア・ウェイターとして働きます。当時のヨーロッパでも最高級のホテルで、リッツは多くのアメリカ人の新興の富裕層と交流して影響を受けます。翌1873年、リッツはパリを離れてウィーンの万国博覧会のスイス館で働きます。
間もなくリッツは南仏ニース(Nice)グランド・ホテル(Grand Hôtel)のレストランの運営を任されます。やがてスイスのルツェルン(Lucern)にあるグランド・ホテル・ナショナル(Grand Hôtel National)の支配人となり、モナコ(Monaco)モンテカルロ(Monte Carlo)にあるグランド・ホテル(Grand Hôtel)の支配人にも就任します。
リッツはルツェルンのホテルで同い年のフランス人シェフ、オーギュスト・エスコフィエ(Auguste Escoffier)と出会います。後に近代フランス料理の父と言われたエスコフィエです。二人は意気投合し、エスコフィエはリッツと一緒に夏はスイス、冬は南仏のホテルで働きます。

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オーギュスト・エスコフィエ(1914年撮影)
By Self, uncredited, cropped by Jim Saeki in 2017 [Public domain], via Wikimedia Commons

1889年からリッツとエスコフィエはロンドンのサヴォイ・ホテル(Savoy Hotel)という高級ホテルに招かれ、支配人と料理長として働きます。リッツの指揮とエスコフィエの料理により、サヴォイ・ホテルは成功します。リッツは世界中の裕福な顧客たちとの人脈を獲得します。ヴィクトリア女王(Victoria)の息子エドワード皇太子(Edward, Prince of Wales)もその一人です。

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サヴォイ・ホテル(2013年撮影)
Stephen Richards [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons

サヴォイ・ホテルで8年ほど働いた後、リッツはパリの中心部である1区のヴァンドーム広場に土地を購入してホテルを建設します。ヨーロッパで初めて全室に浴室と電気を備え、超一流のインテリア・デザイナーが家具からグラスまでを特注でデザインします。そして1898年、リッツはホテル・リッツ(Hôtel Ritz, フランス語読みでオテル・リッツ)をオープンします。ホテルはその贅沢さと共同経営者のエスコフィエが料理長をつとめるレストランで話題となり、王侯貴族や政治家、作家、映画スター、歌手や実業家などの裕福な顧客がつめかけて愛用します。

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ホテル・リッツ・パリ(2009年撮影)
By MarkusMark (Own work) [Public domain], via Wikimedia Commons

リッツがホテル・リッツで徹底させたのは、
“The customer is always right.”
「お客様は神様です」
の精神です。
“See all without looking; hear all without listening; be attentive without being servile; anticipate without being presumptuous. If a diner complains about a dish or the wine, immediately remove it and replace it, no questions asked.”
「敢えて見ずともすべてが見えているようにしろ。敢えて訊かずともすべてが聴こえているようにしろ。卑屈にならずに親切丁寧であれ。差し出がましくならずに先を見越して物を言え。ディナーの客が料理やワインに苦情を言ったら何も訊ねずに直ちに下げて別の物をお出ししろ。」
というものです。

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ホテル・リッツ・パリのエントランス(2009年撮影)
By 1la (Flickr) [CC BY 1.0], via Wikimedia Commons

この精神は、日本にも脈々と息づいています。日本を訪問した外国人が日本のサービスレベルの高さに感動する話はよく耳にします。
また、演歌歌手の三波春夫(Haruo Minami)
「お客様は神様です」
というフレーズはとても有名です。これは英語に直訳すると、
“The customer is a god.”
となります。日本は八百万やおよろずの神々が住まう多神教の国ですから、「神様」は“the God”ではなく“a god”になります。



ここで注意すべきなのは、リッツの言葉もそうなのですが、「お客様」の方には“the customer”“the”がついていることです。お客様とは不特定多数ではなく、特定の「上客」のことなのです。
日本ではそこがあまり理解されておらず、「お客様が神様です」の言葉を文字通りに受け取って傲慢にふるまったり、無理難題を押し付けたりする迷惑客、いわゆる「モンスター・カスタマー」や「クレーマー」が残念ながら少数ですが存在します。そういう人は既に「お客様」ではありませんから、正しくもありませんし神様でもないため、サービスをする対象としなくてもよいのです。
また、そういう一部の人への対策のために全体のサービスレベルが下がってしまうのは何とも情けない話です。



話をパリのホテル・リッツに戻します。このホテルは様々な有名人に愛用されます。
ファッション・デザイナーのココ・シャネル(Coco Chanel)が35年間このホテルのスイートに住んだことは有名です。
アメリカ人の作家アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)もこのホテルを愛して長期滞在し、お気に入りだったバーは現在「バー・ヘミングウェイ(Bar Hemingway)」と呼ばれています。カクテルのブラッディ・マリー(Bloody Mary)は彼のために生み出されたものだと言う説もあります。
ヘミングウェイの小説『日はまた昇る(The Sun Also Rises)』(1926年)にはこのホテルが登場します。ほかにもこのホテルは数多くの小説や映画に登場します。

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ホテル・リッツのバー・ヘミングウェイ(2005年撮影)
By Pablo Sanchez (Flickr) [CC BY 2.0], via Wikimedia Commons

1906年、リッツはロンドンのピカデリー(Piccadilly)沿いにリッツ・ロンドン(The Ritz London)を開業します。ルイ16世調の華麗な外観と内装のホテルで、ホテルとして世界で初めて全客室に電話が装備されます。エレベーターや冷暖房も完備されるなど、最新の設備が特徴です。開業してしばらくはオーギュスト・エスコフィエがレストランの指揮をとります。
リッツ・ロンドンは今もイギリスを代表する高級ホテルの一つであり、イギリス王室御用達ごようたしという意味のロイヤル・ワラント(Royal Warrant)を受けている唯一のホテルです。

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リッツ・ロンドン(2011年撮影)
Image by Bloomberg / Contributor [Rights-managed], via Getty Images

1910年、リッツはスペインの首都マドリードにホテル・リッツ・マドリード(Hotel Ritz, Madrid)を開業します。大通りを挟んでプラド美術館(Prado Museum)の真向かいという絶好の立地にあるホテルです。
1918年、リッツはルツェルンの近くの療養所でなくなります。68歳でした。精神を病んだ末の孤独な死でした。

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ホテル・リッツ・マドリード(2011年撮影)
Luis García [GFDL or CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

“The customer is always right.”
お客様は神様です。

近代的な高級ホテルの原型を築いたセザール・リッツ。
豪華な設備や装飾や料理だけでなく、よいホテルには今でもこの「おもてなし」の心が息づいています。
しかしホテルと顧客はあくまで対等で、無理な要求はきっぱりと断り、相手にしません。
そんな毅然とした態度がモンスターカスタマーを生まない秘訣なのじゃないかと思います。


【動画】“Ritz | Official Trailer (Opening) (『リッツ』 | 公式予告編(オープニング))”, by First Hand Films, YouTube, 2012/05/23

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。


【動画】“THE RITZ HOTEL, LONDON - PROMOTIONAL FILM - VIDEO PRODUCTION LUXURY TRAVEL FILM (ザ・リッツ・ホテル・ロンドン - プロモーションフィルム)”, by VIP Worldwide, YouTube, 2014/05/29

【関連記事】第263回:“A woman should wear perfume wherever she would like to be kissed.”―「女はキスしてほしいところに香水をつけるのよ。」(ココ・シャネル), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2015年12月10日
【関連記事】第314回:“All modern American literature comes from Huckleberry Finn.” ―「すべての現代アメリカ文学は『ハックルベリー・フィン』から生まれた」(ヘミングウェイ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年05月12日
【関連記事】第10回:“Every day is a new day.”―「毎日が新しい日なんだ」(ヘミングウェイ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年05月02日
【関連記事】第455回:“I shall do my utmost to fulfil my duty towards my country.” ―「全力で国への義務を果たします」(ヴィクトリア女王), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2017年08月25日
【関連記事】第99回:“I'd like to be a queen in people's hearts.”―「人々の心の王妃でありたい」(ダイアナ妃), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年09月28日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“A Legend as Big as the Ritz (ホテル・リッツの大いなる遺産)”, by A. E. Hotchner, Vanity Fair, JULY 2012

【動画】“Ritz | Official Trailer (Opening) (『リッツ』 | 公式予告編(オープニング))”, by First Hand Films, YouTube, 2012/05/23
【動画】“THE RITZ HOTEL, LONDON - PROMOTIONAL FILM - VIDEO PRODUCTION LUXURY TRAVEL FILM (ザ・リッツ・ホテル・ロンドン - プロモーションフィルム)”, by VIP Worldwide, YouTube, 2014/05/29




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posted by ジム佐伯 at 07:00 | ロンドン | Comment(0) | 実業家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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