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2017年02月06日

第405回:“History repeats itself.”―「歴史は繰り返す」(ことわざ、クルティウスほか)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。

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Gage Skidmore [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

第405回の今日はこの言葉です。
“History repeats itself.”

「歴史は繰り返す」
という意味のことわざです。
これは紀元1世紀のクラウディウス帝(Claudius)の時代に生きた古代ローマの歴史家クルティウス・ルフス(Curtius Rufus)の言葉であると言われていますが、さだかではありません。
また、プロイセン王国(今のドイツ)出身の思想家・革命家カール・マルクス(Karl Marx, 1818-1883)がこの言葉にさらに言葉をつけ足したとも言われています。
“History repeats itself, first as tragedy, second as farce.”
「歴史は繰り返す。1回目は悲劇として、2回目は喜劇として」
なるほどなるほど、なかなか含蓄がある言葉ですね。

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カール・マルクス(1875年撮影)
John Jabez Edwin Mayall [Public domain], via Wikimedia Commons

しかし、これも実情はちょっと違うようです。
「松本博文ブログ」の記事では、ドイツの哲学者ヘーゲル(Georg Wilhelm Friedrich Hegel, 1770-1831)の次のような言葉が紹介されています。
・そもそも国家の大変革というものは、それが二度くりかえされるとき、いわば人びとに正しいものとして公認されるようになるのです。ナポレオンが二度敗北したり、ブルボン家が二度追放されたりしたのも、その例です。最初はたんなる偶然ないし可能性と思えていたことが、くりかえされることによって、たしかな現実となるのです。
(ヘーゲル『歴史哲学講義』長谷川宏訳)

【参考】“歴史は繰り返す”, 松本博文ブログ, 2013年7月11日
なるほど、「歴史は繰り返すものだ」ということわざ的な話とはちょっと違って、ある出来事が二度繰り返された時に初めて正しいものとして公認されるという文脈でヘーゲルは語っています。

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ヘーゲル
(1831年の肖像画)
By Jakob Schlesinger (1792-1855) (Unknown) [Public domain], via Wikimedia Commons

「松本博文ブログ」の記事ではそのヘーゲルの言葉をふまえた上で、マルクスの言葉が紹介されています。
・ヘーゲルはどこかで、すべての偉大な世界史的事実と世界史的人物はいわば二度現れる、と述べている。彼はこう付け加えるのを忘れた。一度は偉大な悲劇として、もう一度はみじめな笑劇として。
(中略)
(カール・マルクス『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』植村邦彦訳)

【参考】“歴史は繰り返す”, 松本博文ブログ, 2013年7月11日
したがって、ヘーゲルを引用しているマルクスが悲劇と笑劇というエッセンスを付け加えたのも、二度繰り返してこそ偶然ではなく歴史的必然なのだという意味の方で、「歴史は繰り返す」という一般的な意味とは少し違ったものだったようです。

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カール・マルクス
(1882年撮影)
By original unknown ; edited by de:Benutzer:Tets [Public domain], via Wikimedia Commons

歴史に関しては、ドイツの政治家オットー・フォン・ビスマルク(Otto von Bismarck, 1815-1898)が有名な言葉を残しています。
“Fools learn from experience. I prefer to learn from the experience of others.”
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
という言葉です。
歴史に学ぶ。大事ですよね。自分の経験だけでなく、悠久の歴史で人類が築いてきた歴史から学ぶことができれば、大きな過ちは避けることができるかもしれません。

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ビスマルク(1881年撮影)
Bundesarchiv, Bild 146-1990-023-06A / CC-BY-SA, 1881 [CC-BY-SA-3.0-de], via Wikimedia Commons

しかし、なかなかそうはいきません。
スペイン出身のアメリカの哲学者で詩人でもあるジョージ・サンタヤーナ(George Santayana, 1863-1952)は次のような言葉を残しています。
“Those who don't know history are doomed to repeat it.”
「歴史を知らない人は歴史を繰り返す運命にある」
歴史から学べないどころか、歴史を知らない人が多すぎるのです。だから歴史は繰り返すのです。しかも良い形ではなく悪い形で。

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ジョージ・サンタヤーナ
(1936年の肖像画)
By Artist: Samuel Johnson Woolf (1880-1948). Time magazine. [Public domain], via Wikimedia Commons

アメリカの作家マーク・トウェイン(Mark Twain, 1835-1910)は面白いことを言っています。
“History doesn't exactly repeat itself, but it does rhyme.”
「歴史はまったく同じ通りには繰り返すわけではない。しかし歴史は韻を踏む」
確かにそうですね。まったく同じようには展開しませんが、細部は違ってもなんとなく似た展開となる。それが韻を踏んだ詩のようなものだということです。

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マーク・トウェイン
(1907年撮影)
by A.F. Bradley, New York (steamboattimes.com) [Public domain], via Wikimedia Commons

それでは、「歴史は繰り返す」の具体的な例にはどのようなものがあるでしょうか。
ヘーゲルも挙げている「ナポレオンの二度の敗北」「ブルボン家の二度の追放」は、語られている文脈が少し違うものの「歴史は繰り返す」の一つの例ですね。フランス革命以降のフランスの政治体制が絶対王政から共和制、ナポレオンの第一帝政、復古王政、第二共和政、ナポレオン3世の第二帝政のように、王政→共和政→帝政を二度繰り返したことも「歴史は繰り返す」という例の一つです。

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ナポレオン
(1812年の肖像画)
Jacques-Louis David, 1812 [Public domain], via Wikimedia Commons

しかし最もわかりやすい例は、「ナポレオンのロシア侵攻(1812年)」「ナチスドイツのソ連侵攻(1941年)」だと思います。
1812年6月、フランス皇帝ナポレオンはロシアへ侵攻します。侵攻兵力70万の大軍です。対するロシア軍は、広大なロシアの国土面積を利用して戦わずにひたすら後退し、フランス軍の進路にある物資や食料をすべて焼き払う「焦土戦術」をとります。フランスは物資の補給に苦しみながら前進し、兵力が3分の1になりながらも9月にモスクワに入城します。しかしロシア軍はモスクワにも火をつけてその火は3日3晩燃え続け、モスクワは焼け野原になってしまいます。

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燃え上がるモスクワの街とナポレオン
By Viktor Mazurovsky (1859–1923) ([1]) [Public domain], via Wikimedia Commons

物資の補給ができないフランス軍は撤退を決めますが、そこに満を持したロシア軍が襲いかかります。兵力を温存していたコサック兵の襲撃と厳しい寒さの「冬将軍」により、フランス軍は徹底的に叩きのめされ、ロシア国境まで生還したフランス軍は全軍の1%以下のわずか5千人でした。
ふつう軍事常識では部隊の3割を喪失すると組織的抵抗ができなくなり「全滅」と定義されます。99%以上の戦力喪失がいかに完膚なきまでの大敗北かわかります。この大敗北はナポレオン失脚につながり、第一帝政は崩壊します。

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ロシアから退却するナポレオンとフランス軍
By Adolph Northen (1828–1876), cropped by Jim Saeki on 7 September 2013 [Public domain], via Wikimedia Commons


【動画】“NAPOLEON, THE RUSSIAN CAMPAIGN Teaser US (『ナポレオン、ロシア戦役』予告編)”, by Fabrice Hourlier, YouTube, 2015/03/21

そして129年後の1941年6月、ナチスドイツは突然ソ連へ侵攻します。「バルバロッサ作戦(Operation Barbarossa)」と呼ばれる、侵攻兵力400万という空前の大作戦です。ドイツ軍は制空権を確保しながら戦車機甲師団の電撃戦で各地の戦闘を有利に進め、9月に首都モスクワに迫ります。
しかし例年より早い冬によって発生した泥濘と降雪が進撃の足を止め、戦闘は持久戦となります。ソ連軍はナポレオンの時代と同様に焦土戦術をとったため、ドイツ軍は物資や食料の現地調達ができません。補給線が伸びきったドイツ軍は冬季装備も満足に得られず、各地で進撃の足が止まります。ソ連軍は12月から冬季の大反攻を開始して、ドイツ軍をモスクワ付近から後退させます。皮肉にもドイツと同盟を組んでいた日本がハワイの真珠湾などを攻撃してアメリカやイギリスと開戦したのとちょうど同じ頃です。

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モスクワへ侵攻するドイツ軍の戦車
(1941年12月撮影)
Photo by Unknown [Public domain], via Wikimedia Commons

独ソ戦は第二次世界大戦の終盤まで続きますが、結果としてドイツ軍はソ連領内から駆逐され、何百万人もの将兵が戦死します。ソ連側の死者は民間人も併せてそれ以上と言われ、一千万人単位の人が亡くなります。
独ソ戦の大敗北でドイツは勝利の可能性を失い、ヒトラーは追い詰められて自殺し、ナチスドイツは無条件降伏します。
ドイツはまるで絵に描いたようにナポレオンの失敗を繰り返してしまったのです。

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反撃に出るソ連軍の戦車
by Ilya Kopalin (director) (https://archive.org/details/MoscowStrikesBack) [CC0], via Wikimedia Commons


【動画】“Operation Barbarossa (バルバロッサ作戦)”, by WorldWarInitiative, YouTube, 2013/03/03

ほかにも歴史が繰り返した例はいくつも挙げられます。
・リンカーン大統領の暗殺(1865年)とケネディ大統領の暗殺(1963年)
・アメリカのベトナム戦争からの撤退(1975年)とソ連のアフガニスタン紛争からの撤退(1985年)
・世界恐慌(1929年〜)とリーマンショック後の世界不況(2007年〜)

ほかにも、大帝国の勃興と衰退、中国の王朝の成立と衰退、疫病や大事故、大虐殺や大量殺人事件、大嵐や地震や津波などの自然災害などで、「歴史は繰り返す」ことがよく見られます。
東日本大震災(2011年)もそうです。明治三陸大津波(1896年)関東大震災(1923年)阪神・淡路大震災(1995年)など過去の大災害の教訓が十分活かしきれたとは言えない点も多くあり、歴史が繰り返してしまった例だと言えましょう。

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地震と津波の被害にあった仙台平野
(2011年撮影)
By U.S. Navy photo [Public domain], via Wikimedia Commons

“History repeats itself.”
歴史は繰り返す。

昨年(2016年)11月のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ(Donald Trump)が勝った時、僕は5ヶ月前の2016年6月にあったイギリスのEU離脱の国民投票で離脱派が勝った時のことを思い出しました。両陣営の言い分や事前予測の推移、予想を覆す急展開、結果判明後の呆然とした人々や混乱など、まさに絵に描いたようにそっくりでした。
どんなに科学技術が進んでも、歴史は繰り返してしまうのでしょうか。
いつになっても人類の英知はそれほど変わらないものなのかもしれませんね。
だからこそ謙虚に歴史を学んで、悪い歴史は繰り返さないようにしたいものです。

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By Dave Kellam (Flickr: Flagging Support), cropped by Jim Saeki on 24 June 2016 [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第209回:“Fools learn from experience. I prefer to learn from the experience of others.”−「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」(ビスマルク), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2014年04月03日
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【関連記事】第377回:“I will be president for all Americans.” ―「私はすべてのアメリカ人の大統領になる」(ドナルド・トランプ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年11月10日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“クルティウス・ルフス”
【参考】“歴史は繰り返す”, 松本博文ブログ, 2013年7月11日
【参考】“10 Worst Ways History Has Repeated Itself (歴史が繰り返した10の最悪な方法)”, by Clint Pumphrey, HowStuffWorks - CULTURE
【参考】“Trump’s win is history repeating itself (トランプの勝利は歴史の繰り返しだ)”, by Matt Qvortrup, Prospect, November 10, 2016

【動画】“NAPOLEON, THE RUSSIAN CAMPAIGN Teaser US (『ナポレオン、ロシア戦役』予告編)”, by Fabrice Hourlier, YouTube, 2015/03/21
【動画】“Operation Barbarossa (バルバロッサ作戦)”, by WorldWarInitiative, YouTube, 2013/03/03




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posted by ジム佐伯 at 07:00 | ロンドン | Comment(0) | TrackBack(0) | ことわざ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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