英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。
第332回の今日はこの言葉です。
“Oh Watson, your Japanese is very good.”「ワトソン、日本語上手だね」
という意味です。
これは日本の俳優、渡辺謙(Ken Watanabe, 1959-)がIBMのテレビコマーシャルで口にした言葉です。渡辺謙が話しかけたワトソンとはいったい誰のことなのでしょうか。

渡辺謙(2007年撮影)
By Thore Siebrands from Germany (Ken Watanabe), cropped by Jim Saeki on 19 June 2016 [CC BY 2.0], via Wikimedia Commons
実はこれ、渡辺謙がIBMのコンピューター『ワトソン(Watson)』に話しかけた言葉なのです。
コマーシャルではまずワトソンが日本語で渡辺謙に話しかけます。
「ケンさん、世界中で大活躍ですね。」それを聞いた渡辺謙がワトソンに英語で答えます。
“Oh Watson, your Japanese is very good.”するとワトソンは
「ワトソン、日本語上手だね」
「あなたの英語もすばらしいです。」と答えます。
そして顧客対応やゲノム研究をサポートするために世界の言語やそのニュアンスを学習中だと話すのです。
【リンク先の動画が削除されていまいました】
別バージョンのコマーシャルでは、ワトソンは男性の声です。
こちらでは小売りソリューションからネットバンキング、サイバーセキュリティまでをサポートするために言語を学習中だと語ります。
やるじゃん、ワトソン。
僕もCM中の渡辺謙と同じ感想を持ちました。
【動画】“Ken Watanabe IBM Watson on Communication(渡辺謙とIBM Watsonとの対話)”, by Sonia Baratas Alves, YouTube, 2016/07/26
ワトソンは「人工知能(AI : Artificial Intelligence)」と紹介されることもありますが、IBMはワトソンを『コグニティブ・コンピューティング・システム(Cognitive Computing System)』と定義しています。なんだか舌を噛みそうな耳慣れない言葉ですが、人間の言葉を理解・学習して人間の意思決定を支援するという意味がこめられています。
ワトソンはもともと質問応答システムとして開発されます。アメリカの人気クイズ番組『ジョパディ!(Jeopardy!)』に挑戦すると2009年に発表され、開発が進められます。
クイズに勝つには質問の文章の意味や文脈を理解して、大量の情報の中から適切な答えを選び組み合わせて回答する必要があります。
ちなみに「ワトソン」という名前はIBMの初代社長だったトーマス・J・ワトソン(Thomas John Watson, Sr., 1874-1956)からとられたものです。

トーマス・J・ワトソン(1920年頃撮影)
IBM [CC BY-SA 3.0 or GFDL], via Wikimedia Commons
ワトソンは10台のサーバーの2880個のプロセッサ・コアを接続し、Linux上で80テラFLOPSの演算速度を実現します。1996年にチェスで世界チャンピオンのガルリ・カスパロフ(Garry Kasparov, 1963-)を破ったIBMのディープ・ブルー(Deep Blue)の演算速度は11.38ギガFLOPSでしたから、単純比較でディープ・ブルーの7000倍の演算速度を持っています。
ネットには接続せず、百科事典や書籍など2億ページ分の文章データ(約100万冊分)を保存して学習に使います。

展示会でのワトソンのデモ(2011年撮影)
By Raysonho @ Open Grid Scheduler / Grid Engine (Own work) [CC BY 3.0], via Wikimedia Commons
2011年、ワトソンは『ジョパディ!』に出演します。
迎え撃つのは最多連勝記録を持つケン・ジェニングス(Ken Jennings, 1974-)と最多賞金獲得記録を持つブラッド・ルッター(Brad Rutter, 1978-)。
音声認識機能を持たなかったワトソンに問題は文字で与えられ、ワトソンは専用のシリンダーで押しボタンを押して回答します。
2日間にわたる対戦で、ワトソンは見事2人に勝って優勝し、賞金100万ドルを獲得します。
【動画】“Watson and the Jeopardy! Challenge (ワトソンと『ジョパディ!』への挑戦)”, by IBM Research, YouTube, 2013/11/06
ワトソンの改良はその後も続きます。
2015年に、IBMはワトソンを料理に応用した「シェフ・ワトソン(Chef Watson)」を発表します。シェフ・ワトソンはプロが作った9000以上の世界の料理のレシピと成分データ、評価データを蓄積し、食品の香りや組み合わせ、人の好みに関する心理的なデータを解析します。そして食材と調理法、その時の気分などを入力すると、ワトソンがお勧めするレシピがお勧め順に表示されます。
今まで考え付かなかった食材の組合せのレシピがを提案してくれて、しかもちゃんと美味しいと話題になっています。料理本まで出版されました。
Cognitive Cooking With Chef Watson: Recipes for Innovation from IBM & the Institute of Culinary Education
“Oh Watson, your Japanese is very good.”
ワトソン、日本語上手だね。
たしかに日本語がとても上手なワトソン。
料理のレシピを考えるのも上手なワトソン。
顧客対応やゲノム研究のサポートを目指しているワトソン。
さらにIBMはワトソンを医療にも活用することを目指しています。
『コグニティブ・コンピューティング』という耳慣れない言葉が普通に使われる日が来るかもしれませんね。
【動画】“Watsonとコグニティブ・コンピューティングの将来【日本語字幕付】”, by IBMJapanChannel, YouTube, 2016/07/13
それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。
【関連記事】第79回:“Stay hungry. Stay foolish.”―「貪欲であれ。愚直であれ」(スティーブ・ジョブズ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年08月24日
【関連記事】第331回:“Elementary, my dear Watson.” ―「基本だよ、ワトソン君」(シャーロック・ホームズ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年06月20日
【参考】Wikipedia(日本語版,英語版)
【参考】“クイズ王に勝ったコンピューター - IBMが開発した「Watson」、その技術は幅広い応用に期待”, by 八木 玲子=日経パソコン, 日経パソコン 2011年4月11日号, PConline, 2011年5月17日
【参考】“IBM Chef Watson (IBM シェフ・ワトソン)公式サイト”, by IBM
【参考】“IBM「シェフ・ワトソン」は何がスゴイのか - 最強レシピが示す、「コンピュータの未来像」”, by 本田 雅一, 東洋経済, 2014年12月09日
【動画】“Ken Watanabe IBM Watson on Communication(渡辺謙とIBM Watsonとの対話)”, by Sonia Baratas Alves, YouTube, 2016/07/26
【動画】“Watson and the Jeopardy! Challenge (ワトソンと『ジョパディ!』への挑戦)”, by IBM Research, YouTube, 2013/11/06
【動画】“Watsonとコグニティブ・コンピューティングの将来【日本語字幕付】”, by IBMJapanChannel, YouTube, 2016/07/13
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