英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。

By Alterego [GFDL or CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
第331回の今日はこの言葉です。
“Elementary, my dear Watson.”「基本だよ、ワトソン君」
という意味です。
これはイギリスの小説家アーサー・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle, 1859-1930)の推理小説『シャーロック・ホームズシリーズ』の主人公、名探偵シャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)の言葉です。
「ワトソン君」とはホームズの友人である医師で作家でもあるジョン・H・ワトソン(John H. Watson)のことです。シリーズのほとんどの作品はワトソンが語り手になっており、作品を執筆したのもワトソンという設定です。

ワトソン(左)とホームズ
シドニー・パジェットによる挿し絵
『ギリシャ語通訳(The Greek Interpreter)』(1893年)より
By Sidney Paget (1860-1908) (Strand Magazine) [Public domain], via Wikimedia Commons
作者のアーサー・コナン・ドイルはスコットランドの古都エジンバラの出身です。「コナン・ドイル」とはフルネームではなく複合姓で、ファーストネームはアーサーです。
アーサーはアイルランド系のカトリック教徒で、エジンバラ大学医学部を出て医師となりますが、医師としては成功しません。患者を待つ暇な時間に小説を執筆して雑誌社に投稿するようになり、1884年にシャーロック・ホームズを主人公とする長編小説『
そして1890年にシャーロック・ホームズシリーズ第二作の長編小説『四つの署名(The Sign of Four)』を発表します。

アーサー・コナン・ドイル(1893年撮影)
By Herbert Rose Barraud (1845 - c1896) (Bonhams) [Public domain], via Wikimedia Commons
1891年、コナン・ドイルは32歳の時に診療所を閉めて執筆に専念することに決め、大衆向けの月刊雑誌『ストランド・マガジン(The Strand Magazine)』でシャーロック・ホームズの短編小説の読切連載を始めます。
このシリーズは爆発的な人気となり、本格的な推理小説の原型となります。
なお、後の恐竜SFジャンルの小説の原型となったSF小説『失われた世界(The Lost World)』(1912年)を執筆したのもこのコナン・ドイルです。
『失われた世界』も素晴らしい作品で僕も大好きですが、やはり『シャーロック・ホームズ』シリーズがコナン・ドイルの代表作と言えましょう。コナン・ドイルは長編4作、短編56作の計60作を発表しています。

アーサー・コナン・ドイル(1914年撮影)
Arnold Genthe [Public domain], via Wikimedia Commons
物語の舞台は19世紀末のロンドン。ビクトリア朝時代のイギリスは産業革命で経済の絶頂期を迎えますが、ロンドンは急速な都市化で人口が急増、スモッグなどの公害やコレラなどの伝染病の発生に加え、犯罪も多発するようになってしまいます。
現代でも家賃がとても高いことで悪名高いこの街で、医師であるジョン・ワトソンはルームシェアの相手を探していて探偵シャーロック・ホームズと出会います。ホームズはワトソンを一目見ただけで第二次アフガン戦争(Second Anglo-Afghan War, 1878-1880)の復員兵だと見抜いて、ワトソンを驚かせます。
二人はベーカー街221B(221B Baker Street)にある下宿で共同生活を始め、ワトソンはホームズが様々な難事件を次々に解決するのを目の当たりにするのです。

ホームズ(中央)とワトソン(右)
『赤毛組合(The Red-Headed League)』(1891年)より
By Sidney Paget (1860 - 1908) (Strand Magazine) [Public domain], via Wikimedia Commons
シャーロック・ホームズは長身で痩せており、とがった鼻と角ばったあごの持ち主です。常に冷静沈着ながらいざという時には行動力もあり、事件を解決する情熱ははかり知れず、体力的にも優れています。
その鋭い観察眼はどんな小さな手がかりも見逃さず、発見した手がかりを膨大な知識と経験に照らし合わせて分析し、事件の現場で何が起きたかを正確に推測します。ヴァイオリンが上手な一方でボクシングやフェンシングもこなし、拳銃やステッキ、乗馬の鞭などで悪党をやっつけることもあります。

『唇のねじれた男(The Man with the Twisted Lip)』(1891年)より
Sidney Paget [Public domain], via Wikimedia Commons
医師で博士でもあるワトソンも決して
そんなワトソンに対してホームズが言ったのが、今日の言葉です。
“Elementary, my dear Watson.”
「基本だよ、ワトソン君」

『白銀号事件(Silver Blaze)』(1892年)より
By Sidney Paget (1860-1908) (Strand Magazine) [Public domain], via Wikimedia Commons
実はこのフレーズ、このままの形ではコナン・ドイルの小説には登場しません。
ただ2作目の短編集『シャーロック・ホームズの思い出(The Memoirs of Sherlock Holmes)』(1893年)に収録されている『背中の曲がった男(The Crooked Man)』の冒頭にこんな場面があります。
結婚してベーカー街の下宿を出たワトソンの家を、ホームズが真夜中に訪れた時のことです。
ワトソンの仕事が忙しそうだとズバリ言い当てたホームズに、ワトソンがなぜわかったのか訊ねます。
するとホームズは答えるのです。
“I have the advantage of knowing your habits, my dear Watson.”そしてホームズは推理の過程を披露し、それを賞賛したワトソンとホームズのやりとりが続きます。
「ワトソン君、僕は君の習慣を知っているという点で有利だ」
“Excellent!” I cried.この前後のセリフがつながって、
“Elementary,” said he.
「素晴らしい!」 私は叫んだ。
「基本だよ」 彼は言った。
“Elementary, my dear Watson.”になったのかもしれません。
「基本だよ、ワトソン君」
【動画】“Elementary My Dear Watson - One of the most famous lines in the history of cinema (基本だよワトソン君 - 映画の歴史で最も有名なフレーズの一つ)”, by HangTheDJ16, YouTube, 2010/01/21
このフレーズそのままを初めて使ったのは、舞台でホームズを演じたアメリカの俳優ウィリアム・ジレット(William Hooker Gillette, 1853-1937)だと言われています。
そしてその舞台を映画化した映画『The Adventures of Sherlock Holmes』(1939年アメリカ、日本未公開)にもこのフレーズが登場します。ホームズを演じたのはトランスヴァール共和国(今の南アフリカ共和国北部)出身の俳優ベイジル・ラスボーン(Basil Rathbone, 1892-1967)です。
そして続編映画でもラスボーン演じるホームズが多用し、ホームズの決めゼリフのようになったそうです。

ベイジル・ラスボーン演じるホームズ(1930年頃)
Courtesy of the New York Public Library Digital Collection [Public domain], via Wikimedia Commons
ホームズは何度もテレビや映画で映像化されます。
特にイギリスの俳優ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett, 1933-1995)がテレビドラマ『シャーロック・ホームズの冒険(Sherlock Holmes)』(1984-94年イギリス)で演じたホームズは評判が高く、史上最高であると言われています。ドラマも原作に忠実で、ワトソン博士も愚鈍な引き立て役でなく、原作通り信頼できる英国紳士として描かれています。
【動画】“Sherlock Holmes DVD - Trailer (『シャーロック・ホームズの冒険』DVD - 予告編)”, by Malavasi Editore, YouTube, 2007/12/20
面白いのはガイ・リッチー(Guy Ritchie, 1968-)が監督した映画『シャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)』(2009年アメリカ)です。『アイアンマン(Iron Man)』(2008年アメリカ)でもおなじみのアメリカの俳優ロバート・ダウニー・ジュニア(Robert Downey, Jr., 1965-)がホームズを演じ、まさかのアクション満載の映画に仕上がっています。
【動画】“Sherlock Holmes Trailer # 1 (『シャーロック・ホームズ』予告編 #1)”, by Warner Bros. Pictures, YouTube, 2009/06/11
そして最近ではイギリスのBBCが制作したドラマ『SHERLOCK(シャーロック)』(2010年-)が人気となります。イギリスの俳優ベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch,CBE, 1976-)が若々しいホームズを演じます。物語の舞台を21世紀の現代に置き換えて、ホームズがスマホやネットを駆使して事件を解決する活躍が描かれます。ホームズの視野に現れる人物や証拠品が字幕で示される映像演出も面白いです。
【動画】“BBC Sherlock (Season 1) Official Trailer (BBC『シャーロック』(シーズン1)公式予告編)”, by TheSterling7's channel, YouTube, 2011/11/02
さらに、物語の舞台を現代アメリカのニューヨークシティに置き換えた『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY(Elementary)』(2012-)も始まりました。ホームズを演じるのはイギリスの俳優ジョニー・リー・ミラー(Jonny Lee Miller, 1972-)、ワトソンを演じるのはなんとアメリカの女優ルーシー・リュー(Lucy Liu, 1968-)です。ルーシー・リューの役名はジョン・ワトソンではなく、ジョーン・ワトソン(Joan Watson)という女性名になっています。原題の“Elementary”はもちろんホームズの名セリフからとられたものです。
【動画】“Elementary - Exclusive Preview (『エレメンタリー』特別プレビュー)”, by CBS, YouTube, 2012/05/25
“Elementary, my dear Watson.”
基本だよ、ワトソン君。
この言葉も決してワトソンを小馬鹿にしているわけではなく、感嘆したワトソンに対して照れ隠しで言っているようです。
冷静な観察眼と明敏な推理だけでなく、意外に熱いところやダメなところ、ツンデレなところも魅力のホームズ。
探偵小説の原型となった古い原作が、今でも多彩な映像作品で僕たちを楽しませてくれているのは凄いことだと思います。
物語が素晴らしいだけでなく、ホームズとワトソンのキャラクターが魅力的だからなのです。

ロンドンのベーカー街221Bにあるシャーロック・ホームズ博物館
(実際の番地は237-241)
By Jordan 1972 [Public domain], via Wikimedia Commons
それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。
【関連記事】第326回:“What is a weekend?” ―「週末って何?」(ヴァイオレット先代伯爵夫人)(『ダウントン・アビー』より), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年06月05日
【参考】Wikipedia(日本語版,英語版)
【参考】“「初歩的なことだよ、ワトソンくん」の起源について”, by kuratanさん, togetter, 2010年4月29日
【動画】“Elementary My Dear Watson - One of the most famous lines in the history of cinema (基本だよワトソン君 - 映画の歴史で最も有名なフレーズの一つ)”, by HangTheDJ16, YouTube, 2010/01/21
【動画】“Sherlock Holmes DVD - Trailer (『シャーロック・ホームズの冒険』DVD - 予告編)”, by Malavasi Editore, YouTube, 2007/12/20
【動画】“Sherlock Holmes Trailer # 1 (『シャーロック・ホームズ』予告編 #1)”, by Warner Bros. Pictures, YouTube, 2009/06/11
【動画】“BBC Sherlock (Season 1) Official Trailer (BBC『シャーロック』(シーズン1)公式予告編)”, by TheSterling7's channel, YouTube, 2011/11/02
【動画】“Elementary - Exclusive Preview (『エレメンタリー』特別プレビュー)”, by CBS, YouTube, 2012/05/25
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