スポンサーリンク / Sponsored Link


2015年12月23日

第268回:“Bah, humbug!”―「ふん、くだらん!」(スクルージ)(ディケンズ『クリスマス・キャロル』より)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。


クリスマス・キャロル―A Christmas carol 【講談社英語文庫】

第268回の今日はこの言葉です。
“Bah, humbug!”
「ふん、くだらん!」
という意味です。
“Bah!”とは「ばかばかしい!」とか「ふん!」とかいう悪態の言葉です。
“Humbug!”も「ばかなこと」「大ウソ」などという意味です。
“Bah, humbug!”で「くだらん」「つまんねえ」「全然楽しくない」という意味になる決まり文句です。
これはイギリスの文豪チャールズ・ディケンズ(Charles John Huffam Dickens, 1812-1870)の小説『クリスマス・キャロル(A Christmas Carol)』(1843年)に出てくる言葉です。
19世紀のお話ですから古い表現で、しかもあまり上品な言葉ではありません。
しかし、イギリスでは誰もが知っている国民的な作品ですから、引用のようにして現代でも日常会話で使われることがあります。

0268-charles_dickens_by_rischgitz_c1860s.jpg
チャールズ・ディケンズ(1860年代頃撮影)
By Rischgitz (Daily Mirror) [Public domain], via Wikimedia Commons

『クリスマス・キャロル』の物語の舞台はロンドン。
主人公はスクルージ(Scrooge)という初老の商人です。スクルージは冷酷、無慈悲、エゴイスト、強欲、守銭奴を絵に描いたような人物で、人の心の温かみや愛情などとはまったく無縁の日々を送っています。
当然、クリスマスなどを祝ったりする気はまったくありません。

0268-francis_alexander_charles_dickens_1842.jpg
『クリスマス・キャロル』執筆当時のディケンズ(1842年の肖像画)
By Francis Alexander (1800-1880) ([1]) [Public domain], via Wikimedia Commons

クリスマス前日の夕方、スクルージの甥がスクルージを食事に誘いにやってきます。
午後3時を過ぎたばかりなのに、あたりはすっかり暗くなっています。
そう、イギリスの冬ってこうなんですよね。
甥はスクルージにクリスマスの挨拶をします。
“A merry Christmas, uncle! God save you!”
「クリスマスおめでとう、おじさん! 神のご加護を!」
嫌われ者のスクルージでも、誘ってくれる優しい親類がいるのです。
しかしスクルージの答えはひどいものです。
“Bah, humbug!”
「ふん、くだらん!」
ばっさり。瞬殺です。
甥はそれでもスクルージに食い下がって、なだめたり、クリスマスの素晴らしさを説いたりします。
しかしスクルージには取りつく島もありません。

0268-charles_dickens_a_christmas_carol_cloth_first_edition_1843.jpg
『クリスマス・キャロル』初版の表紙
By Charles Dickens, Photographer: Heritage Auctions, Inc. Dallas, Texas [Public domain], via Wikimedia Commons

0268-charles_dickens_a_christmas_carol_title_page_first_edition_1843.jpg
『クリスマス・キャロル』初版のタイトルページと挿し絵
John Leech [Public domain], via Wikimedia Commons

スクルージが一人で食事を済ませて家に帰ると、7年前に亡くなったかつての共同経営者、マーレイ(Marley)の亡霊が現れます。
マーレイの亡霊は、わがままで強欲な人間がいかに悲惨な運命となるか、スクルージに語るのです。
そして、スクルージが悲惨な最期を迎えないように生き方を変えるために、三人の精霊(Spirits)がスクルージを訪問することを予告します。
なかなか優しくて、おせっかいなほどに親切な幽霊たちですね。

0268-marleys_ghost_a_christmas_carol_(1843)_opposite_25_bl.jpg
スクルージの前に現れたマーレイの幽霊
John Leech, provided by the British Library from its digital collections [CC0], via Wikimedia Commons

その夜おそく、予告通り3人の精霊がやってきます。
第一の精霊は「クリスマスの過去の幽霊」。
“The Ghost of Christmas Past”です。
スクルージの少年時代や青年時代の姿を見せて、幼き日の夢や若き日の純粋な心、純粋な故のつらい想い出などを思い起こさせてます。
第二の精霊は「クリスマスの現在の幽霊」。
“The Ghost of Christmas Present”です。
スクルージが冷たく当たっている周囲の人たちがいかに温かい心を持っているか、いかにつらい運命に耐えているかを知らしめます。ちなみにこの精霊、「クリスマス・プレゼントの幽霊」とダブル・ミーニングになっています。
第三の精霊は「クリスマスの未来の幽霊」。
“The Ghost of Christmas Yet to Come”です。
そこでスクルージは、このまま自分が変わらなかった場合の未来がどうなるかを見ることになるのです。

0268-johnleechhimself.jpg
『クリスマス・キャロル』の挿絵を描いたジョン・リーチ(John Leech, 1817-1864)の自画像
John Leech [Public domain], via Wikimedia Commons

『クリスマス・キャロル』はディケンズの初めての書き下ろし小説です。
新聞記者から作家になって雑誌で小説を発表していたディケンズは、子供のころは貧乏で靴墨工場などで働かされ、とても苦労をしたそうです。
当時の19世紀のイギリスは産業革命の直後です。工業化や都市化が急速に進む一方で、失業者は増え、貧富の差が広がり、長時間労働や子供の労働など、現代にもつながる社会問題が世界に先駆けて大きくなっていました。
家族でクリスマスを祝うという古きよき風習は廃れはじめ、誰もがスクルージのようになりかけていたのです。
そんな中で発表された『クリスマス・キャロル』は人々の優しい心を目覚めさせ、大ベストセラーとなります。
僕はディケンズには根拠なくスクルージっぽいイメージを持っていたのですが、執筆当時は30歳そこそこ。年齢的にも心情的にも作品の序盤に登場する優しい甥に近い存在だったのですね。

0268-charles_dickens_sketch_1842.jpg
『クリスマス・キャロル』執筆当時のディケンズ(1842年のスケッチ)
Sketch by Unknown [Public domain], via Wikimedia Commons

本が売れただけではありません。クリスマス・シーズンの寄付は急増し、クリスマス・ディナーもかつて以上に大切にされるようになります。「メリー・クリスマス」という挨拶も流行します。
ちょうど同じ頃、ロンドンで世界初のクリスマス・カードが発売され、カードを送りあう習慣がイギリス発で始まります。
また、同時期にヴィクトリア女王(Victoria, 1819-1901)と結婚したドイツ生まれのアルバート公(Albert, Prince of Saxe-Coburg-Gotha, 1819-1861)は、ドイツの伝統だったクリスマス・ツリーを飾る習慣をイギリスへ紹介します。
この時期を境に、クリスマスの意義やこの時期の街の風景は一変するのです。

0268-trafalgar_square_christmas_tree9.jpg
ロンドン・トラファルガー広場のクリスマス・ツリー(2008年撮影)
By Anneke_B [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons

『クリスマス・キャロル』は何度も何度も映画化され、舞台化もされています。
映画での変わり種としては、ディズニーアニメの『ミッキーのクリスマスキャロル(Mickey's Christmas Carol)』(1983年アメリカ)や、現代の話としてアレンジした『3人のゴースト(Scrooged)』(1988年アメリカ)などがあります。
最近では、芸達者な俳優ジム・キャリー(Jim Carrey, 1962-)がスクルージの声を演じた3DCGアニメ『Disney's クリスマス・キャロル(A Christmas Carol)』(2009年アメリカ)が話題となりました。


【動画】“A Christmas Carol trailer(『クリスマス・キャロル』予告編)”, by Walt Disney Studios NL , YouTube, 2009/10/15

“Bah, humbug!”
ふん、くだらん!

傲慢で周囲が見えていなかったスクルージ。
強欲で金儲けだけに夢中になり、クリスマスの意義を忘れていたスクルージ。
そして近代化でスクルージのようにすさんでいた人の心をうれい、『クリスマス・キャロル』で優しさと温かい心の大切さを人々に思い出させたディケンズ。
この作品の前後でイギリスのクリスマスは大きく変わり、現代のクリスマスの原型が形づくられました。
『クリスマス・キャロル』は、今にも続くディケンズからの素晴らしいクリスマス・プレゼントだったのです。
僕たちもスクルージのようにならないよう、気をつけたいものです。
果たしてスクルージはどんな未来を見たのでしょうか。
そしてその未来を変えることはできたのでしょうか。
それは作品をご覧になって下さい。

0268-dickens_by_watkins_1858.jpg
執筆中のディケンズ(1858年撮影)
By George Herbert Watkins, born 1828 [Public domain], via Wikimedia Commons

それでは今日はこのへんで。どうぞよいクリスマス・シーズンをお過ごし下さい。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第149回:“You've really had a wonderful life.”―「君は本当に素晴らしい人生を歩んできたんだよ。」(素晴らしき哉、人生!), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年12月24日
【関連記事】第18回:“Be kind, for everyone you meet is fighting a harder battle.”―「優しくありなさい。あなたの出会う誰もが、より困難な戦いに挑んでいるのだから」(プラトン), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年05月10日
【関連記事】第146回:“Happy Holidays!”―「楽しい祝日を!」(アメリカの年末祝日の挨拶), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年12月21日
【関連記事】第266回:“War is over if you want it.”―「戦争は終わる。あなたが望めば」(ジョン・レノン&オノ・ヨーコ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2015年12月21日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“世界中のスクルージたちを改心させた チャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」がかけた魔法”, 英国ニュースダイジェスト, 特集, 19 November 2015
【参考】“楽しくないを英語でなんと言うか?”, by unotoruさん, オンライン英会話辞典 BRIDGE これを英語でなんと言うか? How do you say that in English?, 2012年2月23日

【動画】“A Christmas Carol trailer(『クリスマス・キャロル』予告編)”, by Walt Disney Studios NL , YouTube, 2009/10/15




このエントリーをはてなブックマークに追加
posted by ジム佐伯 at 07:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
スポンサーリンク / Sponsored Link

ブログパーツ
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。