英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。

By user:tsca (Own work), 2004 [GFDL or CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
第160回の今日はこの言葉です。
“It is I, Sea Gull.”
日本では
「私はカモメ。」
という言葉が有名です。
昨日ご紹介した人類初の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリン(Yuri Alekseyevich Gagarin, 1934-1968)の名言「地球は青かった」と同様、これもご存じの方が多い言葉だと思います。
これは女性初の宇宙飛行をおこなった旧ソビエト連邦の宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコワ(Валенти́на Влади́мировна Терешко́ва, Valentina Tereshkova, 1937-)の言葉です。

ワレンチナ・テレシコワ(Valentina Tereshkova, 1937-)(1969年撮影)
RIA Novosti archive, image #612748 / Alexander Mokletsov, 1 January 1969 [CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
ガガーリンが空軍のパイロットだったのに対して、テレシコワは軍人ではなく、織物工場で働きながら地元の飛行クラブで22歳の頃からスカイダイビングをやっていました。
24歳の時には共産党の青年組織コムソモールのリーダーになったと言いますから、行動力と統率力のある優秀な女性だったのでしょう。
翌1962年に女性宇宙飛行士候補に選ばれ、400人を超える候補の中から最終選抜の5人に残り、厳しい訓練の末に女性初の宇宙飛行士となります。当時このことは、家族にさえ打ち明けることを禁じられていたそうです。

(1963年撮影)
RIA Novosti archive, image #619131 / Alexander Mokletsov, 1 July 1963, cropped by Jim Saeki on 12 January 2014 [CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
テレシコワは1963年6月にボストーク6号(Vostok-6)に搭乗し、70時間50分で地球を48周する周回軌道飛行に成功します。
ソ連で6番目に宇宙を飛行し、米ソあわせても人類で10番目に宇宙を飛んだ人物になります。
女性としては初めてです。また、軍人以外で初めて宇宙を飛んだ飛行士でもあります。
国民的な英雄になったのはもちろん、世界的に有名となり人気者になります。

(1964年撮影)
RIA Novosti archive, image #16350 / V. Malyshev, 11 December 1964 [CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
テレシコワが宇宙飛行で無事に軌道に乗った後、最初に地球に呼びかけたのが今日の言葉です。
“It is I, Sea Gull.”
「私はカモメ。」と言うと何か夢見る可憐な乙女の言葉のように聞こえます。
実際日本ではそのようにイメージされている方も多いかもしれません。僕も実際そうでした。
しかし実際は、無線通信時のテレシコワのコールサインがカモメを表すロシア語の「チャイカ」だったのです。
ですから、
“It is I, Sea Gull.”
という言葉は、
「こちらチャイカ。私はチャイカです。」
という呼びかけだったのです。
ロシア語で言うと
“Я чайка”(ヤー・チャイカ)
です。
別に宇宙飛行のロマンチックな感想などではなく、きわめて事務的な呼びかけでした。

当時のソ連書記長ニキータ・フルシチョフ(向かって右端)と。左端はユーリ・ガガーリン
RIA Novosti archive, image #159271 / V. Malyshev, 22 June 1963 [CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
しかし26歳のロシア女性が宇宙で発した言葉として、世界中の多くの人がロマンチックな受け取り方をしました。
日本でもロシアの劇作家アントン・チェーホフ(Антон Павлович Чехов, Anton Pavlovich Chekhov, 1860-1904)の戯曲『かもめ(Чайка=チャイカ)』(1896)に出てくる
“Я чайка”(ヤー・チャイカ)
「私はかもめ」
という同じセリフと結びつけられて報道され、流行語にもなりました。

アントン・チェーホフ(Anton Pavlovich Chekhov, 1860-1904)
By unknown; derivative work by Brücke-Osteuropa (Own work), 1889 [Public domain], via Wikimedia Commons
しかし、ただのコールサインだったとはいえ、テレシコワに「チャイカ」というコールサインをつけたロシア人のセンスはなかなかのものだと思います。
「チャイカ」という言葉はロシアでは広く愛されており、様々なものの名称や愛称に使用されています。
例えば旧ソ連時代の自動車メーカーGAZ(ゴーリキー自動車工場)の高級車も「チャイカ」です。

チャイカ(GAZ M14 Chaika, 1977-1988年製造)
By Gerundiy at ru.wikipedia (Transferred from ru.wikipedia), 22 September 2007 [Public domain], from Wikimedia Commons
ただ、実際はテレシコワは宇宙酔いに苦しめられ、飛行中にパニックを起こすなど、ロマンチックどころではない大変な飛行だったようです。
その後ソ連では女性宇宙飛行士のミッションがしばらく敬遠された理由の一つにもなったと言われています。

テレビ番組に出演するソ連の宇宙飛行士たち(1963年撮影, 中央がテレシコワ、向かって左隣がガガーリン)
RIA Novosti archive, image #879591 / Khalip, 12 March 1963 [CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
“It is I, Sea Gull.”
私はカモメ。
有人宇宙開発の黎明期に26歳の若さで宇宙飛行に挑戦したテレシコワ。
危険なミッションは本当に命がけでした。彼女の勇気は賞賛に値すると思います。
21世紀の現在になっても、単独で宇宙ミッションを行った女性はいまだにテレシコワだけです。
彼女は2010年のロシア下院選にプーチン首相と同じ政権与党「統一ロシア(United Russia)」から出馬しました。見事当選をはたし、現在は下院議員を務めています。

2011年当時のロシア大統領ドミトリ・メドヴェージェフ(Dmitrii Medvedev, 1965-)と
Kremlin.ru, 12 April 2011 [CC-BY-3.0], via Wikimedia Commons
それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。
【動画】“Seagull in stars: 50 years after first female space flight(星界のカモメ:女性初の宇宙飛行から50年)”, by astrowatchnet, YouTube, 2013/06/16
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【参考】Wikipedia(日本語版,英語版)
【参考】“女性初の宇宙飛行から50年、ソ連崩壊で明らかになった苦難のミッション”, by Victoria Loguinova-Yakovleva, AFP BBNews, 17 June 2013
【参考】“ヤー・チャイカ!”, スペースサイト!
【動画】“Seagull in stars: 50 years after first female space flight(星界のカモメ:女性初の宇宙飛行から50年)”, by astrowatchnet, YouTube, 2013/06/16
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