英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。

Image courtesy of digidreamgrafix, published on 01 April 2013 / FreeDigitalPhotos.net
第147回の今日はこの言葉です。
“Christmas is a time of great joy and an occasion for deep reflection.”「クリスマスはとても楽しいが、同時に深く内省すべき時でもある。」
これは第265代ローマ教皇(Pope)のベネディクト16世(Benedict XVI, 1927-)の言葉です。ラテン語ではベネディクトゥス16世(Benedictus XVI)となります。
ローマ教皇は日本の報道などでは「ローマ法王」と呼ばれたりもしますが、ローマカトリック教会の最上位に立つ司教として、中世から続いている存在です。日本のカトリック中央協議会は「ローマ教皇」と表記することを推奨しています。
ベネディクト16世は2005年にローマ教皇につきましたが2013年に退位し、現在は名誉教皇となっています。

ベネディクト16世(Benedict XVI, 1927-)
By djsacche (Flickr), 7 June 2006 [CC-BY-SA-2.0], via Wikimedia Commons
ベネディクト16世は本名ヨーゼフ・ラツィンガー(Joseph Alois Ratzinger)、1927年にドイツ南部、バイエルン州にある小さな町に生まれました。父親は警察官でした。
ヨーゼフは小さい頃から司祭になることを夢見ていましたが、ドイツが戦争一色になると14歳でヒトラーユーゲントという青少年団に入ります。当時の10歳から18歳までの青少年はヒトラーユーゲントに入ることが義務づけられていたのです。2度動員されて対空防衛と歩兵の訓練を受け、ドイツ降伏後は捕虜収容所に入れられますが、間もなく解放されます。
戦後ラツィンガーは兄と共に神学校に入り、24歳の頃に念願の司祭になります。2年後に神学博士号を取得し、さらに4年後に大学教授の資格を得て、ボン大学やミュンヘン大学などで教鞭をとります。

ベネディクト16世(ヨーゼフ・ラツィンガー)の生家
By Alexander Z. (Own work), 23 April 2005 [GFDL or CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
1972年、ラツィンガーはミュンヘンとフライジングの大司教(Archbishop)に任命され、同年に枢機卿(Cardinal)に上げられます。彼は1993年に司教枢機卿となり、2002年にはローマカトリック教会で教皇に次ぐ地位である主席枢機卿(Dean of the College of Cardinals)につきます。
2005年4月に時のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世(John Paul II, 1920-2005)が亡くなります。新教皇を選出する選挙「コンクラーヴェ(Conclave)」の2日目、前教皇の側近であり実質的に教皇庁をとりしきっていたラツィンガーが選ばれ、新教皇ベネディクト16世となります。78歳での選出でした。

枢機卿時代のベネディクト16世(写真中央)。左奥の人物は現教皇のフランシスコ
By Muu-karhu, May 10, 2003 [CC-BY-2.0], via Wikimedia Commons
ベネディクト16世は精力的に海外各国の訪問を行います。2006年のポーランド訪問ではアウシュビッツ強制収容所を訪れ、2007年にはイスラム教国であるトルコを訪問します。2008年のアメリカ訪問では同時多発テロの標的となった世界貿易センタービルの跡地グラウンド・ゼロを訪れます。2010年にはローマカトリック教会との断絶が続いていたイギリスへローマ教皇として初めて訪問し、女王エリザベス2世と会談します。2011年のドイツ訪問では、宗教改革を推進したマルティン・ルターが500年前に修行したというアウグスティーナ修道院を訪れ、ドイツ・プロテスタント教会の幹部と会談します。

アウシュビッツ強制収容所を訪れるベネディクト16世。手前はポーランドのカチンスキ大統領
By Archiwum Kancelarii Prezydenta RP (www.prezydent.pl), 28 May 2006 [GFDL 1.2], via Wikimedia Commons
ベネディクト16世は一般の人々との距離をより縮めたいという思いを強く持っていたようです。教皇の一般謁見では「パパモビル(Papamobile)」と呼ばれる専用車が使われます。1978年まで使われていた御輿(みこし)の玉座(sedia gestatoria)の自動車版で、“Papa”とは「教皇」を表すイタリア語です。英語で“Pope”ですよね。
国外訪問では装甲が強化されたベンツの改造車などが使われ、防弾ガラスに覆われた部屋から謁見を行います。しかしバチカンのサン・ピエトロ広場での一般謁見では、フィアット・カンパニョーラを改造したオープンカータイプのパパモビルなどがよく使われました。民衆からよく見え、握手や抱擁を交わしやすくするためです。
ちなみにパパモビルのナンバープレートには“SCV 1”と書かれていますが、“SCV”とはイタリア語で「バチカン市国」を表す“Stato della Città del Vaticano” の略です。

メルセデス・ベンツML430を改装したパパモビル。ブラジル・サンパウロにて
By Caiodovalle at de.wikipedia (Original text : Caio do Valle), 11 May 2007 [Public domain], from Wikimedia Commons

オープンカー型式のパパモビル(フィアット・カンパニョーラ改)。サン・ピエトロ広場にて
By Nitro101, 31 March 2007, cropped by Jim Saeki on 21 December 2013 [CC-BY-2.0], via Wikimedia Commons
ベネディクト16世はメディアにも積極的に関わり、単なるニュース映像以外でテレビに出演した初めてのローマ教皇となります。
2011年4月に出演したイタリアのカトリック教会のテレビ番組で、ベネディクト16世は市民から寄せられた7つの質問に答えます。千葉県と結ばれた中継を通して、東日本大震災で被災した日本の7歳の少女が
「なんでこんなに悲しいことにならないといけないの?」と日本語で質問したところ、ベネディクト16世はイタリア語で次のように答えました。
「我々は答えを持っていませんが、罪なきキリストがあなた方と同じく苦しまれたということは知っています」
「真実なる神は我々と共にいるのです」そして、
「悲しみの中にあっても、たとえすべての答えを知らないとしても、神は我々の側におられ、我々を助けてくださいます」と少女を励ましたそうです。

【参考】“教皇「答えはわからないが、神が共に」 7歳の被災少女に回答”, CHRISTIAN TODAY, 2011年04月23日
そして今からちょうど1年前の2012年12月、ベネディクト16世はツイッターのアカウントを9言語で取得します。そしてツイッターを「福音を世界に宣べ伝える新しい窓」と位置付けてツイートを開始します。その後ラテン語や日本語などのアカウントも開設します。教皇が公式アカウントに直接つぶやくのではなく、バチカン関係者が執筆して教皇が承認したものが発信されるのだそうです。
下の画面では、名前は「ベネディクト16世」でツイートもそのままですが、顔写真は現教皇のフランシスのものが使われています。ベネディクト16世個人のツイッターアカウントではなく、どうやらローマ教皇で継続して使うアカウントのようです。そのうちフランシスのツイートが始まるのでしょう。英語版では既に“Pope Francis”(教皇フランシスコ)のツイートになっています。

【参考】“ベネディクト16世公式ツイッター(日本語版) @Pontifexjp1”
【参考】“ローマ教皇公式ツイッター(英語版) @Pontifex”
同じ2012年12月、ベネディクト16世はイギリス経済紙フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times)に意見記事を寄稿します。教皇が経済紙に寄稿するのは非常に異例なのだそうです。
“A time for Christians to engage with the world”と題された記事でベネディクト16世はキリストとカエサルの逸話などを紹介した上で、今回の冒頭でご紹介した言葉を述べます。原文は少し長いです。
「キリスト教徒が世界とつながる時」
“While Christmas is undoubtedly a time of great joy,ベネディクト16世は少し前にもサン・ピエトロ広場で行われた「お告げの祈り」でも、
it is also an occasion for deep reflection,
even an examination of conscience.”
「クリスマスは疑いの余地なく大いなる喜びの時である一方で、
深い熟察の機会であり、
良心の究明の機会でもあります。」
「現代の消費社会の中で、この時期が商業主義に『汚染』されているのは残念なこと。」
「降誕祭の精神とは精神の集中と落ち着きと喜びであり、内面的なものであって外面的なものではない。」などと懸念を表明しています。
【参考】“A time for Christians to engage with the world”, By Pope Benedict XVI, December 19, Opinion, The Financial Times, December 19, 2012
【参考】“キリスト者にとって世界と取り組む時”[PDF], ベネディクト16世―ヨゼフ・ラツィンガー, ファイナンシャル・タイムズ寄稿記事, 2012年12月20日
【参考】“教皇ベネディクト十六世の2005年12月11日の「お告げの祈り」のことば”, ベネディクト十六世, 日本語訳:カトリック中央協議会 司教協議会秘書室研究企画, 2005.12.12

By Pope_Benedict_XVI_Blessing.jpg: Rvin88 derivative work: Jüppsche (Pope_Benedict_XVI_Blessing.jpg), 12 October 2008 [CC-BY-3.0], via Wikimedia Commons
今年(2013年)の2月、ベネディクト16世は2月いっぱいで教皇を退位する決意を明らかにします。ローマ教皇が自分の意思で退位するは中世のケレスティヌス5世(Caelestinus V, 1210頃-1296)以来719年ぶり2度目のことであり、きわめて異例の事態です。
3月に行われたコンクラーヴェで、アルゼンチン出身のフランシスコ(Francis)が第266代ローマ教皇に選ばれました。

現ローマ教皇のフランシスコ(Francis)
By Presidência da Republica/Roberto Stuckert Filho (Agência Brasil) [CC-BY-3.0-br], via Wikimedia Commons
商業主義に汚染されたクリスマスに懸念を表明したベネディクト16世。
そんなに気難しい人物だったのでしょうか。
確かに優しそうな外見の元教皇ヨハネ・パウロ2世や現教皇のフランシスコと比べたら、ベネディクト16世のルックスは
しかし今日ご紹介した数々のエピソードを見る限り、とても温かく親しみ深い人であることがわかります。
ツイッター開設後3ヶ月足らずでベネディクト16世は退位しました。日本語アカウントもわずか18ツイートしかつぶやかれませんでした。しかし数少ないつぶやきの中にも、
「総選挙お疲れさまです。日本はこれからです。頑張ってください。」(2012年12月16日)
「明日は日本の高校3年生たちのほとんどが受ける重要な試験の日のようですね。みなさん、自分のやってきたことを信じ、また、実力以上のパフォーマンスが出来るよう、今日は身体を休め、明日に備えてください。」(2013年1月18日)などと温かい心づかいが見られます。

By Kancelaria Prezydenta RP (prezydent.pl), 17 October 2010 [GFDL 1.2], via Wikimedia Commons
“Christmas is a time of great joy and an occasion for deep reflection.”
クリスマスはとても楽しいが、同時に深く内省すべき時でもある。
確かにその通りですね。
楽しむことが悪いわけではありません。
しっかりと楽しんで、その上でしっかりと内省ができたら、きっととても有意義な時間になることでしょう。
みなさんもよい祝日をお過ごし下さい。

By Jeff Weese (Flickr: Nativity), 5 December 2009 [CC-BY-2.0], via Wikimedia Commons
それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。
【関連記事】第146回:“Happy Holidays!”―「楽しい祝日を!」(アメリカの年末祝日の挨拶), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年12月21日
【参考】Wikipedia(日本語版,英語版)
【参考】“教皇「答えはわからないが、神が共に」 7歳の被災少女に回答”, CHRISTIAN TODAY, 2011年04月23日
【参考】“ベネディクト16世公式ツイッター(日本語版) @Pontifexjp1”
【参考】“ローマ教皇公式ツイッター(英語版) @Pontifex”
【参考】“A time for Christians to engage with the world”, By Pope Benedict XVI, December 19, Opinion, The Financial Times, December 19, 2012
【参考】“キリスト者にとって世界と取り組む時”[PDF], ベネディクト16世―ヨゼフ・ラツィンガー, ファイナンシャル・タイムズ寄稿記事, 2012年12月20日
【参考】“教皇ベネディクト十六世の2005年12月11日の「お告げの祈り」のことば”, ベネディクト十六世, 日本語訳:カトリック中央協議会 司教協議会秘書室研究企画, 2005.12.12
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