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2013年10月22日

第113回:“Writing a novel is like having a dream.”―「小説を書くことは夢を見るようなものだ」(村上春樹)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉をご紹介しています。

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Image courtesy of Kenneth Cratty, published on 07 February 2010 / FreeDigitalPhotos.net

第113回の今日はこの言葉です。
“Writing a novel is like having a dream.”
「小説を書くことは夢を見るようなものだ。」
という意味です。
これも前回に引き続き、小説家の村上春樹(Haruki Murakami, 1949-)の言葉です。

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村上春樹(Haruki Murakami, 1949-)
By Galoren.com (Own work), 9-8-2009 [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons

村上春樹は京都に生まれ、兵庫県の西宮市で育ちました。両親とも国語教師だったので小さい頃から本に親しみ、近所の書店で「ツケ」で本を買うことができたそうです。一方で両親が日本文学について話すのにうんざりして、反抗心もあって欧米の翻訳文学に親しむことになります。そして自宅にあった「世界の文学」と「世界の歴史」を繰り返し呼んで中学と高校の10代を過ごします。
神戸高校を卒業したあと1年の浪人生活を経て、1968年(昭和43年)に早稲田大学の第一文学部に入学します。
住まいは文京区の目白台にある和敬塾という学生寮に入りますが、肌に合わずに一年もたたずに引っ越します。このあたりは大ヒット作『ノルウェイの森』(1987年)に詳しく描かれています。フィクション作品ですのでどこまで本当かわかりませんが。

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和敬塾本館(旧細川侯爵邸)
和敬塾の敷地内にあるが、現在は学生寮ではなく講演会場や結婚式場などに使用
By Trystan a at en.wikipedia, 23 February 2006 [Public domain], via Wikimedia Commons

世の中には学生運動の嵐が吹き荒れますが、村上春樹は学生運動とは一線を画します。
しかし大学にはほとんど行かず、レコード屋でアルバイトをしたり映画を見たりジャズ喫茶に入り浸ったりします。
在学中に結婚し、しばらく奥さんの実家に間借りした後、国分寺でジャズ喫茶「ピーター・キャット」を開業します。大学卒業後は「ピーター・キャット」を千駄ヶ谷へ移します。

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地下にかつて村上春樹のジャズ喫茶「ピーター・キャット」があった国分寺の雑居ビル
By Jim Saeki, 2012

1979年、店の近くの神宮球場でヤクルト戦の野球の試合を観戦中に村上春樹は小説を書こうと思い立ちます。29歳か30歳の頃です。ジャズ喫茶を経営しながら、深夜仕事が終わった後に店のキッチン・テーブルでビールを飲みながら作品を執筆します。
その年に中編小説『風の歌を聴け』が第22回群像新人文学賞を受賞して作家デビューします。芥川賞候補にもなりますが惜しくも受賞を逃がします。
翌1980年、『1973年のピンボール』を発表します。
1982年に専業作家になることを決意して店を人に譲ります。同年、初めての本格長編小説『羊をめぐる冒険』を発表し、第4回野間文芸新人賞を受賞します。


風の歌を聴け (講談社文庫), 村上 春樹 (著)

1985年には、「私」と「僕」が一人称で語る2つの物語が交互に同時進行する大作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を発表します。
1986年にギリシャやローマ、シチリアへ長期滞在します。
滞在中に執筆した『ノルウェイの森』(1987年)は上下430万部を売る大ベストセラーとなり、村上春樹は一躍国民的作家となります。


ノルウェイの森 上 (講談社文庫), 村上 春樹 (著)

1991年に、村上春樹はアメリカのプリンストン大学の客員研究員に招聘され、渡米します。ちょうど湾岸戦争が起こった時期です。
アメリカ滞在中の翌1992年から連載を始めた『ねじまき鳥クロニクル(The Wind-Up Bird Chronicle)』は1995年に完結します。それまでの最長作品で、一人称の中に手紙や回想が挿入される作品です。


ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫), 村上 春樹 (著)

1995年には大きな事件が立て続けに起こります。1月に起こった阪神淡路大震災と3月に起こった地下鉄サリン事件です。アメリカ滞在中の村上春樹も大きな衝撃をうけます。
村上春樹は日本へ帰国し、1997年に地下鉄サリン事件の被害者へのインタビューをまとめた『アンダーグラウンド』を、1999年に続編としてオウム真理教信者へのインタビューをまとめた『約束された場所で』を、それぞれ発表します。
翌2000年、阪神淡路大震災をテーマにした連作短編集『神の子どもたちはみな踊る』を発表します。
彼にしては珍しく社会性の強い作品を続けて発表したのは、それだけこれらの事件に対して大きな衝撃を受けたからだと思います。


アンダーグラウンド (講談社文庫), 村上 春樹 (著)

2002年、少年を主人公にした長編『海辺のカフカ』を発表します。一人称の「僕」が現在形で語る物語と三人称の「ナカタさん」が過去形で語られる物語が交互に同時進行する、村上春樹が得意とする作風です。
2006年にこの作品はチェコの文学賞であるフランツ・カフカ賞(Franz Kafka Prize)を受賞。
村上春樹はノーベル文学賞の有力候補として話題となります。


海辺のカフカ (上) (新潮文庫), 村上 春樹 (著)

2009年初頭にエルサレム賞を受賞。
授賞式で有名な「壁と卵」のスピーチをしたのは前回の記事でご紹介したとおりです。
同2009年、長編『1Q84』のBOOK 1とBOOK 2を、翌2010年にBOOK3をそれぞれ発表し、これまた大ベストセラーとなります。それまでの村上ワールドの世界観を保ちつつ、『アンダーグラウンド』や『約束された場所で』などのノンフィクションで取材したカルト教団の闇という新しい要素も描いています。これまでとはテイストが違うエンディングも話題となります。僕としてはこういう変化は大歓迎です。
今のところの最新作は、今年の2月に発表された『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(2013年)です。


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 [単行本], 村上 春樹 (著), 文藝春秋

“Writing a novel is like having a dream.”
「小説を書くことは夢を見るようなものだ」

これは村上春樹が海外メディアのインタビューに答えた時の言葉です。
彼は日本メディアのインタビューにはほとんど応じませんが、海外メディアのインタビューにはわりと応えています。
『海辺のカフカ』の英語版“Kafka on the Shore”が発表されたのが2005年、米ニューヨーク・タイムズ紙(The New York Times)の「2005年ベストブック10冊(10 Best Books of 2005)」と世界幻想文学対象(World Fantasy Award)に選出されたのが同年10月です。
インタビューの内容を読む限り、この年にアメリカ人によって行われたインタビューのように思われます。

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“The 10 Best Books of 2005(2005年ベストブック10冊)”, The New York Times , December 11, 2005
(村上春樹の『海辺のカフカ(Kafka on the Shore)』がまっ先に挙げられている)

インタビューでは、作品とエディプス神話との関係、ポストモダニズムやフランツ・カフカとの関連性、なぜ多くの作品にネコが登場するのか、作品に登場する音楽についてなど、多岐にわたる質問が提示されます。村上春樹は一つ一つにていねいに答えています。
聞き手も言っているように、アメリカにも村上春樹のファンがとても多いそうです。また質問のマニアックさを見ても、聞き手自身が村上春樹の作品を好きで相当読みこんでいることがわかります。

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Image courtesy of dan, published on 03 March 2013 / FreeDigitalPhotos.net

インタビューで、『海辺のカフカ』にも顕著な夢のようなファンタジー要素が作品に多いのはなぜかという質問があります。
そこで村上春樹が答えたのが今日の言葉です。
“For me, writing a novel is like having a dream. ”
「僕にとって、小説を書くことは夢を見るようなものだ。」

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Image courtesy of Ambro, published on 15 March 2012 / FreeDigitalPhotos.net

村上春樹はさらにこう続けます。

“Writing a novel lets me intentionally dream while I'm still awake.
 I can continue yesterday's dream today,
 something you can't normally do in everyday life.
 It's also a way of descending deep into my own consciousness.
 So while I see it as dreamlike, it's not fantasy.
 For me the dreamlike is very real. ”


「小説を書くことで、起きている時でも意図的に夢を見るんだ。
 僕は昨日見た夢の続きを今日見ることができる。
 日常生活で、普通はそんなことはできないよね。
 これは僕自身の意識の中に深く降りていく方法でもあるのさ。
 だから僕が物事を『夢のように』見る時、それは幻想ではない。
 僕にとって『夢のような』こととは、まさに現実そのものなんだ。」

いかがでしょうか。なんだかとても難しいですね。
しかし、なかなか聞くことができない村上春樹の創作の秘密を垣間見ることができたような気がします。

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Image courtesy of marin, published on 11 November 2012 / FreeDigitalPhotos.net

“Writing a novel is like having a dream.”
小説を書くことは夢を見るようなものだ。

夢のようなファンタジー性が大きな魅力の一つである村上春樹の作品。
これからもたくさん夢を見てもらって、新たな作品で僕たちを楽しませてほしいものです。
それでは、
“Sweet dreams!”
よい夢を!

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Image courtesy of papaija2008, published on 19 August 2012 / FreeDigitalPhotos.net

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第112回:“I will always stand on the side of the egg.”―「僕はいつだって卵の側に立つ」(村上春樹), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年10月20日
【関連記事】第35回:“Go ahead, make my day.”―「さあやれよ、俺を喜ばせてくれ」(クリント・イーストウッド), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年06月08日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“The 10 Best Books of 2005(2005年ベストブック10冊)”, The New York Times , December 11, 2005
【参考】“An Interview with Haruki Murakami(村上春樹インタビュー)”, originally published at HarukiMurakami.com, reproduced at BookBrowse by permission of the Knopf Publishing
【参考】“Haruki Murakami, The Art of Fiction No. 182(村上春樹、創作の技術 No.182)”, Interviewed by John Wray, the PARIS REVIEW, Summer 2004, No. 170
【参考】HarukiMurakami.com, 村上春樹公式サイト




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posted by ジム佐伯 at 12:00 | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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