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2013年09月15日

第92回:“There wasn't ever a dry eye.”―「いつも涙が出そうになった」(トレイシー・コールドウェル)

(本文3088文字、読み終わるまでの目安:7分43秒)


こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉をご紹介しています。

0092-tracy_coldwell_dyson_in_cupola_iss.jpg
By NASA / Tracy Caldwell Dyson, 11 September 2010 [Public domain], via Wikimedia Commons

第92回の今日はこの言葉です。
“There wasn't ever a dry eye.”
「ドライアイになったことは一度もなかった」
というのが、文字通りの意味です。
それにしても、上の写真はとても素敵ですね。まるでSF映画の1シーンのようです。
今日の言葉とどんな関係があるのでしょうか。

“dry eye”(ドライアイ)とは角膜乾燥症とも呼ばれ、涙が不足することによって眼球の表面が乾燥し、傷や障害などをおこす病気のことです。
しかし、この言葉はドライアイを語ったものではありません。
ドライアイの原因である「涙が不足すること」を言っているのです。
「涙が不足したことは一度もなかった」
婉曲な言い回しですから、涙が止まらないほど号泣していたわけではありません。
「いつも涙があふれそうになった」
「いつも目頭が熱くなった」

といったところでしょうか。

これは、アメリカの宇宙飛行士で化学者でもあるトレイシー・コールドウェル(Tracy Caldwell Dyson, 1969-)の言葉です。
彼女は1969年8月14日の生まれです。
本人いわく、アポロ11号による人類初の月面着陸(1969年7月20日)よりも後に生まれた最初の宇宙飛行士なのだそうです。

0092-tracy_coldwell_portrait.jpg
トレイシー・コールドウェル(Tracy Caldwell Dyson, 1969-)
By NASA [Public domain], via Wikimedia Commons

トレイシー・コールドウェルはカリフォルニア州アルカディア(Arcadia)で生まれ、中学と高校に通うために同州リバーサイド(Riverside)の近郊のボーモント(Beaumont)という町に移住しました。
アメリカの公立学校は学区制ですので、子供をレベルの高い学校に通わせるために引っ越すことがよくあります。
トレイシーはカリフォルニア州立大学フラトン校(CSUフラトン, California State University, Fullerton)で化学を学び、陸上競技の選手として、短距離と走り幅跳びの競技にも打ちこみました。
彼女はこの時期に、父親が経営している電機会社で電気技師としても働いており、電源や配線の修理の実践的な経験を積みました。
彼女はカリフォルニア大学デービス校(UCデービス、University of California, Davis)で博士号を取得し、カリフォルニア大学アーバイン校(UCアーバイン、University of California, Irvine)での特別研究員の研究費を得て大気化学の研究を続けます。
スポーツウーマンにして、大学のアカデミックな世界でのバリバリの研究者だったのです。

UCアーバインに移った翌年の1998年、トレイシー・コールドウェルはアメリカ航空宇宙局(NASA, National Aeronautics and Space Administration)の宇宙飛行士選抜試験に合格します。
宇宙飛行士の選抜や訓練のドラマや映画を見たことがある方はご存じと思いますが、単にペーパーテストの成績がよくても宇宙飛行士にはなれません。
知力、体力、精神力、強い意志、安定した性格、コミュニケーション能力、危機対処能力、ストレス耐性など、あらゆる面で抜きん出て優れた人が選ばれます。
選抜された後も、高度な教育や厳しい訓練をこなして初めて宇宙に行けるのです。

コールドウェルは2007年にスペースシャトル「エンデバー(Endeavour)」に搭乗し、ケネディ宇宙センター(John F. Kennedy Space Center)から国際宇宙ステーション(ISS: International Space Station)へ向かいました。
彼女はミッションスペシャリスト(Mission Specialist)として任務につき、電子装置の取り付けや起動などに成功しました。
飛行は12日間にわたり、トレイシーは宇宙で誕生日をむかえました。

0092-sts-118_endeavour_launch.jpg
ミッション「STS-118」で宇宙に飛び立つスペースシャトル「エンデバー」
By NASA / John Kechele, Scott Haun, Tom Farrar, 8 August 2007 [Public domain], via Wikimedia Commons

この飛行でエンデバーは、打上げの際に外部燃料タンクからはがれ落ちた断熱フォームが衝突して、機体下面の耐熱タイルに小さな損傷穴ができてしまいました。
2003年に起きたスペースシャトル「コロンビア(Columbia)」の空中分解事故を誰もが想像し、同じような事故が起きるのではと心配されましたが、幸い損傷は軽微で、問題なく帰還しました。

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コールドウェルが参加したミッション「STS-118」の乗組員
(コールドウェルは向かって右から3番目)
By NASA, 8 August 2007 [Public domain], via Wikimedia Commons

2010年にコールドウェルは国際宇宙ステーションへの2度目の宇宙飛行に飛び立ちます。
第24次長期滞在(Expedition 24)のフライトエンジニアとしての任務でした。
今回はロシアのバイコヌール宇宙基地(Baikonur Cosmodrome)から、ソユーズTMA-18(Soyuz TMA-18)という宇宙船での出発です。
船長を含む3人がロシア連邦宇宙局(RSA)の宇宙飛行士、コールドウェルを含む3人がNASAの宇宙飛行士でした。
第23次長期滞在(Expedition 23)の乗組員と合流した翌日に第23次のチームは地球へ帰還。
その後4ヶ月近く国際宇宙ステーションに滞在しました。

0092-soyuz_tma-18_launch.jpg
第24次長期滞在に出発するソユーズTMA-18宇宙船の発射
By NASA TV, 04-02-2010 [Public domain], via Wikimedia Commons

ちなみに英語で宇宙飛行士のことを“astronaut”(アストロノート)と言います。
ロシアでは「コスモナウト」と呼びます。英語にすると“cosmonaut”(コスモノート)です。
旧ソ連の時代からの伝統です。
もし英文の記事などで“astronaut”“cosmonaut”が混在していた場合は、“astronaut”は西側諸国の宇宙飛行士、“cosmonaut”は旧ソ連やロシアの宇宙飛行士を意味します。
宇宙開発に詳しい記者は、そこを敢えて書き分けるのです。

0092-expedition_24_crew_portrait.jpg
第24次長期滞在の乗組員
(コールドウェルは向かって左から2番目)
By NASA [Public domain], via Wikimedia Commons

コールドウェルは滞在中に、故障した宇宙ステーションの冷却液ポンプを修理するために3度の宇宙遊泳(space walk)を行います。
1回目の宇宙遊泳は8時間3分で、NASAによると宇宙ステーションでの船外活動(EVA: Extra Vehicle Activity)の最長記録になったそうです。
トレイシーは父親の会社で電気技師としても働いた時の経験がとても役にたったと語りました。

宇宙での長期滞在中は、宇宙科学や医学の実験、装置の修理や点検などでとても急がしい毎日でした。
貴重な自由時間には、トレイシーは窓から星々を眺めていたそうです。
国際宇宙ステーションには、地球や宇宙を観測するための、大きな窓で囲まれた「キューポラ(Cupola, 丸屋根)」という観測モジュールがあります。
トレイシーはそこでぼんやりと星々や地球や月を眺めたそうです。
冒頭にも載せた素晴らしい写真は、その時のものだったのです。

0092-tracy_coldwell_dyson_in_cupola_iss.jpg
国際宇宙ステーションでくつろぐトレイシー・コールドウェル
By NASA / Tracy Caldwell Dyson, 11 September 2010 [Public domain], via Wikimedia Commons

トレイシーはこう語っています。
“There wasn't ever a dry eye when I got nestled in the cupola.”
「キューポラで横になると、いつも涙が出そうになったわ。」

“With the lights out and the station quiet,
 seeing the moon out and the Earth below gave me a feeling of
 being just astonished that I was living there.”

「灯りが消えて宇宙ステーションが静かになって、
 外の月と下の地球を眺めていると、
 私があそこで暮らしていたのが信じられない気持ちになるの」

0092-crescent_moon_from_space.jpg
第24次長期滞在のクルーが撮影した地球と月
By NASA, 9 April 2011 [Public domain], via Wikimedia Commons

“There wasn't ever a dry eye.”
いつも涙が出そうになった。

まさに、涙が出そうになるほど素晴らしい眺めなのでしょうね。
トレイシーもとてもいい表情をしています。
僕がもし国際宇宙ステーションに滞在したら、毎日でもこの部屋に行きたいものです。

0092-sts-128_iss_separation.jpg
国際宇宙ステーション
By NASA, 9 September 2009 [Public domain], via Wikimedia Commons

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第5回:“One small step for (a) man, one giant leap for mankind.”―「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」(アームストロング), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年04月27日
【関連記事】第56回:“NASA encourages you to keep reaching for the stars!”―「NASAは君が星を目指し続けることを応援する!」(NASAよりデクスター少年へ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年07月14日
【関連記事】第80回:“Information wants to be free.”―「情報は自由になりたがっている」(スチュアート・ブランド), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年08月25日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“まるでSF小説の挿絵みたい…宇宙から地球を眺める女性飛行士の写真が感動的”, らばQ, 2013年09月06日
【参考】“BEAUMONT: Astronaut talks about her space adventure, return(ボーモント:宇宙飛行士が宇宙の冒険を語る)”, By GAIL WESSON, THE PRESS-ENTERPRISE, October 18, 2010



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posted by ジム佐伯 at 07:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 宇宙 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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