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こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉をご紹介しています。

Photo by Matthew Yohe, at the 2010 Worldwide Developers Conference [CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0) or GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)], via Wikimedia Commons
第79回の今日はこの言葉です。
“Stay hungry. Stay foolish.”「常にハングリーであれ。常に愚かであれ。」
という意味です。
“stay+形容詞”で「〜であり続ける」「常に〜である」という意味となります。
これはアメリカの実業家で、アップル社(Apple Inc.)の設立者でもあるスティーブ・ジョブズ(Steven Paul "Steve" Jobs、1955-2011)の言葉です。
スティーブ・ジョブズ(Steven Paul "Steve" Jobs、1955-2011)
『スティーブ・ジョブズ I [ハードカバー]』,ウォルター・アイザックソン(著), 井口耕二 (訳), 講談社 (2011/10/25)
スティーブ・ジョブズは1976年に、高校時代からの友人だったスティーブ・ウォズニアック(ウォズ, Stephen Gary "Steve" Wozniak, "Woz" 1950-)らと『アップルI(Apple I)』というコンピュータを実家のガレージで開発します。回路基板として販売されたので、木製の筐体で仕上げた人もいたようです。
当時コンピュータは企業や大学の研究機関向けのものでした。しかしジョブズらは個人向けのホームコンピュータという新しいコンセプトを創り出したのです。

スティーブ・ウォズニアック(ウォズ, Stephen Gary "Steve" Wozniak, "Woz" 1950-)
Attribution: Steve Wozniak, Photo taken by Al Luckow (Homepage of Steve Wozniak) , 10 June 2005, cropped by Jim Saeki on 24 August 2013 [Steve Wozniak allows anyone to use this photo for any purpose], via Wikimedia Commons

アップルI(Apple I, 1976)
Photo by Ed Uthman, 28 March 2003, On display at the Smithsonian (originally posted to Flickr as Apple I Computer) [CC-BY-SA-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)], via Wikimedia Commons
ジョブズらはアップルIの利益を元手にアップル社を立ち上げ、『アップルII(Apple II)』で大成功をおさめます。
ジョブズは20代の半ばにして名声と巨額の富を手にするのです。

アップルII(Apple II, 1977)
http://www.allaboutapple.com/ [CC-BY-SA-2.5-it (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.5/it/deed.en), GFDL (www.gnu.org/copyleft/fdl.html), CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/), CC-BY-SA-2.5-it (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.5/it/deed.en) or CC-BY-SA-2.5-it (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.5/it/deed.en)], from Wikimedia Commons
企業向けコンピュータの雄、IBMも1981年に『IBM PC』というパーソナルコンピュータで反撃に出ます。ジョブズらは対抗して、マウスを使った画期的な操作性を持つ『マッキントッシュ(Macintosh, "Mac")』を開発します。
開発は難航しましたが、マッキントッシュは1984年1月に発売されます。
【動画】“1983 Apple Keynote ジョブズのスピーチ(字幕付き)とCM「1984」”, by taro tobu, YouTube, 2011/02/21
しかしジョブズは需要予測を見誤り、マッキントッシュの過剰在庫を抱えたアップルは創業以来初めての営業赤字に陥ってしまいます。
当時アップル社はジョブズが招いたジョン・スカリー(John Sculley, 1939-)が最高経営責任者(CEO)を務めていました。スカリーは、ジョブズのこだわりによるマッキントッシュの開発遅延や需要の見誤りなどがアップルの経営を混乱させているとして、ジョブズをアップルから追放します。1985年のことです。
アップルを設立して10年もたたずに、ジョブズは自ら設立した会社を追われてしまったのです。

初代マッキントッシュ(Macintosh 128,1984)
Photo by Schlaier (Own work), 2010.07.11. in the design-collection of the Pinakothek der Moderne in Munich, cropped by Jim Saeki on 24 August 2013 [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons
失意のジョブズは、それでも立ち止まりません。
彼はビジネスや研究向けのワークステーションを開発すべく、1985年にネクスト社(NeXT, Inc.)を設立します。
ネクスト社は1988年に最初の製品『ネクストキューブ(NeXTcube)』を、そして1990年に小型化した『ネクストステーション(NeXTstation)』を発売します。
高価だったため売上はそれほどありませんでしたが、オブジェクト指向型オペレーティングシステム『ネクストステップ(NeXTSTEP)』は非常に革新的なものでした。
実はネクストキューブは、1990年12月に開発された世界初のウェブサーバにも使われます。
スイスのジュネーヴ郊外にある欧州原子核研究機構(CERN)のティム・バーナーズ=リー(Sir Timothy John "Tim" Berners-Lee, 1955-)らによるものです。

欧州原子核研究機構(CERN)がネクストキューブを使って開発した世界初のウェブサーバ
Photo by Coolcaesar at the English language Wikipedia, August 10, 2005 [GFDL (www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/)], via Wikimedia Commons

ティム・バーナーズ=リー(Sir Timothy John "Tim" Berners-Lee, 1955-)
By Enrique Dans from Madrid, Spain (Con Tim Berners-Lee), 20 April 2009, cropped by Jim Saeki on 24 August 2013 [CC-BY-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons
ジョブズの活躍はそれだけではありません。
1986年にはルーカスフィルム(Lucasfilm Limited)のコンピュータ・アニメーション部門を買収して、ピクサー・アニメーション・スタジオ(Pixar Animation Studios)を設立します。
ピクサーは1988年に発表した5分の短編CGアニメ『ティン・トイ(Tin Toy)』を発表します。これは短編ながら素晴らしい出来で、アカデミー賞で短編アニメ賞を受賞しました。
そして1995年、ディズニーとの共同制作による世界初のフル3DCGによる長編アニメ『トイ・ストーリー(Toy Story)』が公開されます。
この作品の素晴らしさについては以前も熱く語ってしまいました。
また、その後の作品の素晴らしさについても言うまでもありません。
【関連記事】第68回:“To infinity, and beyond!”―「無限のかなたへ!」(トイ・ストーリー)(2013年08月04日)
トイ・ストーリー スペシャル・エディション [DVD], ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社(2010/05/21)
1996年、アップルでは次期OSの開発が暗礁に乗り上げ、次期OSを外部に求めていました。ジョブズ追放からこの時期まで、アップルの業績は低迷を続けています。
ジョブズは退任後11年ぶりにアップルを訪れ、NeXTで開発したOS「NeXTSTEP」を売り込みます。
マイクロソフトやサン・マイクロシステムズなども売り込みをかけますが、アップルはNeXTSTEPの採用を決め、NeXT社の買収を発表します。
そしてジョブズは非常勤顧問という形でアップルに復帰することになります。
復帰後ただちにジョブズは社内を掌握し、役員の刷新やマイクロソフトとの提携などを決定します。さらに矢継ぎ早に改革を進め、アップルの業績を回復させます。
1997年からアップル社は、
“Think different.”というスローガンを使った広告キャンペーンを開始します。
これはIBMの初代社長トーマス・ワトソン(Thomas John Watson, Sr., 1874-1956)
のスローガン、
“Think.”をもじったものです。
「考えろ」

トーマス・ワトソン(Thomas John Watson, Sr., 1874-1956)
Attribution: IBM, circa 1920s [CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0) or GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)], from Wikimedia Commons
【動画】“アップルCM「Think Different.」(声:スティーブ・ジョブズ)[日本語字幕]”, by Keiji K, YouTube, 2014/01/14
トーマス・ワトソンのシンプルな言葉も素晴らしいですが、
“Think different.”
もいいですね。
「人とは違うように考えろ」
ということです。
「発想を変えろ」
とも読みとれますね。
スティーブ・ジョブズの精神がよく表れている言葉ですね。

アップルのロゴマークと“Think different.”が描かれた腕時計
(時刻の並びが“different”になっている)
By V4711 (Own work), 15 January 2013 [CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons
そして1998年、それまでのPCやマックのイメージを覆す、カラフルな半透明の筐体を持つ『アイマック(iMac)』を発売します。
この革新的なデザインを持つiMacは大ヒットとなり、他社PCだけでなく周辺機器や別の製品にまで影響を与えました。
まさにアップル大復活です。

アイマック(iMac, 1998)
Photo by Marcin Wichary from San Francisco, U.S.A. (iMac Uploaded by clusternote), 4 January 2008, Google NY office computer museum [CC-BY-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons
2000年、ジョブズは満を持してアップルのCEO(最高経営責任者)に就任します。
2001年、NeXTとアップルの技術を融合させた新しいオペレーティングシステム『Mac OS X』を発表します。
同年、アップルは携帯音楽プレーヤー『iPod』を発売して音楽業界に参入します。
『iPod』の元祖ともいえるソニーの『ウォークマン(Walkman)』(1979年発売)は、人々の音楽の楽しみ方に革命を起こしました。
そしてiPodは、音楽再生・管理ソフトiTunesや音楽配信サービスiTunes Storeと連携することで、CD販売中心だった音楽流通の仕組みそのものに革命を起こします。

初代iPod(2001)
By Aaron Logan (Cropped from Image:Lightmatter_ipodvsmini.jpg) [CC-BY-2.5 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.5)], via Wikimedia Commons
2007年、スマートフォン『iPhone』が発売されます。
2010年、タブレット『iPad』が発売されます。
iPhoneが携帯電話の歴史を変え、iPadがタブレット型PCの歴史を変えたことは、説明するまでもありません。
【動画】“iPhone を発表するスティーブ・ジョブス(日本語字幕)”, by komeinavi, YouTube, 2011/04/20

初代iPadを発表するスティーブ・ジョブズ(2010年)
Photo by matt buchanan (originally posted to Flickr as Apple iPad Event), 27 January 2010 [CC-BY-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons
しかしジョブズの体は病魔に蝕まれてしまっていました。
彼は2003年に膵臓癌の診断を受け、摘出手術をうけました。
その後も肝臓移植を受けるなど治療を続けましたが、2011年8月にCEOを辞任しました。
この時アップルは、株式時価総額でエクソンモービルを抜き、世界最大の企業となっていました。
そして2011年10月5日、家族に看取られながらパロアルトの自宅で亡くなりました。56歳でした。

ジョブズの死を悼んで寄せられたメッセージと花束(2011年10月6日, パロアルトのアップルストア前)
(ろうそくの火はiPadの動画で捧げられている)
By Aislinn Dewey (individual), 6 October 2011 [CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons
2005年6月、ジョブズはスタンフォード大学(Stanford University)の卒業式に招かれてスピーチをしました。
このスピーチはとても素晴らしいものでした。
短いスピーチの中に彼の人生の軌跡、考え方や死生観などが凝縮されています。
下記サイトに字幕付きの動画があります。ぜひご覧になって下さい。
【動画】“スティーブ・ジョブス 伝説の卒業式スピーチ(日本語字幕)”, by timers55, YouTube, 2011/10/06
【参考】『スティーブ・ジョブズの感動スピーチ(翻訳)字幕動画』, 小野晃司, 我ら、地域の仕掛け人!―地域の未来を経済人の視点から考えてみるブログ, 2005年10月29日
英語の全文はスタンフォード大学のサイトに掲載されています。
個人による日本語訳もあります。
【参考】“'You've got to find what you love,' Jobs says(ジョブズは言った。「君たちは自分が愛するものを見つけなければならない」)”, Stanford Report, June 14, 2005
(スタンフォード大学卒業式でのジョブズのスピーチ全文:英語)
【参考】“Stay hungry, stay foolish. [和訳] スティーブ・ジョブズ スタンフォード大学卒業式でのスピーチ”, 笹部 雅弘, 翻訳:市村佐登美, stayfoolish.jp
【参考】“スティーブ・ジョブズの感動スピーチ(翻訳)字幕動画”, 我ら、地域の仕掛け人!―地域の未来を経済人の視点から考えてみるブログ, 小野晃司, 2005年10月29日
このスピーチの締めくくりの言葉が、
“Stay hungry. Stay foolish.”
という言葉です。
これをどう訳すかはなかなか難しいです。
「ハングリーであれ。馬鹿であれ。」
では、アントニオ猪木(Antonio-Inoki, 1943-)の名言「馬鹿になれ」みたいです。
「満たされるな。分別くさくなるな。」
としたら言いたいことはよくわかりますが、ちょっと訳しすぎという感じがします。
ジョブズはスピーチの中でこうも言っています。
“Keep looking. Don't settle.”これは2度繰り返されます。
「探し続けよう。落ち着いてはいけない。」
なんだか同じことを言っているようですよね。
“Stay hungry. Stay foolish.”
僕は上記【参考】のリンク先にある小野晃司氏の訳などにある、
「貪欲であれ。愚直であれ。」
という言葉がいちばんしっくり来るように思います。
スピーチにもあるように、これはもともとスティーブ・ジョブズの言葉ではありません。
これは『全地球カタログ(Whole Earth Catalog)』(1968-1974)という雑誌の最終号の裏表紙に書かれた言葉です。
この雑誌はスチュアート・ブランド(Stewart Brand, 1938-)によって1968年に創刊されたヒッピー(Hippie)向けの雑誌です。
ジョブズが言っているように、当時の若者たちのバイブルでした。
ヒッピーは基本的に近代文明を否定する立場にあり、自給自足を良しとします。
この雑誌では木工工具などのDIY用具が、哲学書や科学書、様々な写真と一緒に紹介されています。
その一環で、個人向けのコンピュータ機器も特集を組まれて紹介されています。
スティーブ・ジョブズも随分と影響と受けたことがうかがえます。
この雑誌、今でも電子版を読むことができるのですが、混沌としていますが、情報の宝庫です。

“Whole Earth Catalog(全地球カタログ)”公式ウェブサイト
(創刊号の表紙の地球の写真や、“Stay hungry. Stay foolish.”という文字が見える)
“Stay hungry. Stay foolish.”
貪欲であれ。愚直であれ。
もともとはヒッピー雑誌の休刊メッセージですが、不思議な説得力がある言葉です。
スティーブ・ジョブズの不朽の名スピーチに引用されたことによって、さらに多くの人たちの心に刻まれることになりました。
僕もついついハングリーな心を忘れたり、小利口になって何でもわかったようなつもりになったりしてしまいます。
この言葉だけでなく、スピーチのすべての言葉を心に刻み、限りある命を意識しながら日々を大切に過ごしたいものです。

スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツ(右, William Henry "Bill" Gates III、1955-)(2007年撮影)
By Joi Ito from Inbamura, Japan (Steve Jobs and Bill Gates on Flickr), 31 May 2007 [CC-BY-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons
それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。
【関連記事】第68回:“To infinity, and beyond!”―「無限のかなたへ!」(トイ・ストーリー), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年08月04日
【関連記事】第8回:“Simple is best.”―「シンプルが一番」(ことわざ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年04月30日
【関連記事】第7回:“If you can dream it, you can do it.”―「夢があればそれは叶う」(ウォルト・ディズニー), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年04月29日
【関連記事】第73回:“An apple a day keeps a doctor away.”―「一日に一個のリンゴで医者いらず」(ことわざ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年08月13日
【参考】Wikipedia(日本語版,英語版)
【参考】“スティーブ・ジョブズの感動スピーチ(翻訳)字幕動画”, 我ら、地域の仕掛け人!―地域の未来を経済人の視点から考えてみるブログ, 小野晃司, 2005年10月29日
【参考】“'You've got to find what you love,' Jobs says(ジョブズは言った。「君たちは自分が愛するものを見つけなければならない」)”, Stanford Report, June 14, 2005
(スタンフォード大学卒業式でのジョブズのスピーチ全文:英語)
【参考】“Stay hungry, stay foolish. [和訳] スティーブ・ジョブズ スタンフォード大学卒業式でのスピーチ”, 笹部 雅弘, 翻訳:市村佐登美, stayfoolish.jp
【参考】“ジョブズStay hungry, Stay foolishの意味とは?”, 野村尚義, All About, 2013年04月30日
【参考】“『実務翻訳のあれこれ』第三十四回:Stay hungry, stay foolishの訳は「ハングリーであれ、愚かであれ」なのか?”, 成田 あゆみ, 通訳・翻訳トレンド情報, 株式会社アイエスエス
【参考】“Whole Earth Catalog”公式ウェブサイト
【動画】“1983 Apple Keynote ジョブズのスピーチ(字幕付き)とCM「1984」”, by taro tobu, YouTube, 2011/02/21
【動画】“アップルCM「Think Different.」(声:スティーブ・ジョブズ)[日本語字幕]”, by Keiji K, YouTube, 2014/01/14
【動画】“iPhone を発表するスティーブ・ジョブス(日本語字幕)”, by komeinavi, YouTube, 2011/04/20
【動画】“スティーブ・ジョブス 伝説の卒業式スピーチ(日本語字幕)”, by timers55, YouTube, 2011/10/06
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