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こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉をご紹介しています。

By NASA, ESA, J. Hester and A. Loll (Arizona State University) (HubbleSite: gallery, release.) , 1 December 2005 [Public domain], via Wikimedia Commons
第71回の今日はこの言葉です。
“We are made of starstuff.”「私たちは星の材料でできている。」
これはアメリカの天文学者でコーネル大学(Cornell University)の教授だったカール・セーガン(Carl Edward Sagan, 1934-1996)の言葉です。
彼は作家としても有名で、宇宙の歴史や生命の起源などを解説した『コスモス(Cosmos)』(1980)はテレビシリーズ『コスモス(宇宙)(Cosmos: A Personal Voyage)』(1980)にもなりました。

カール・セーガン(Carl Edward Sagan, 1934-1996)
By NASA/JPL, 1980 [Public domain], via Wikimedia Commons
僕たちが星の材料でできているなんて、いかにも天文学者らしい言葉ですね。
でもどういう意味なのでしょうか。
彼の言葉を借りて説明しましょう。
代表作である『コスモス』の中で、カール・セーガンは次のように述べています。
“The nitrogen in our DNA, the calcium in our teeth,
the iron in our blood, the carbon in our apple pies
were made in the interiors of collapsing stars.
We are made of starstuff.”
「私たちのDNAに含まれる窒素も、歯のなかにあるカルシウムも、
血に含まれる鉄分も、アップルパイの炭素も、
崩壊する星々の内部で作られたものです。
私たちは星の材料でできているのです。」
『COSMOS 上 (朝日選書) [単行本]』, 朝日新聞出版(2013/6/11)
なるほど、そういうことを言っていたのですね。
でもまだよくわかりませんね。
もう少し解説します。
僕も詳しくはわかりませんが、宇宙には最初あまり複雑な元素はなかったらしいのです。
原始の宇宙では、存在する物質はほとんどが原子番号1の水素“H”(hydrogen,ハイドロジェン)と原子番号2のヘリウム“He”(helium, ヒーリアム)だったそうなのです。
つまり軽くて単純な物質しかなかったということです。
(上記のヘリウムのように、元素の英語名と発音は僕たちが学校で習う名前とかなりちがいます。以下でもご参考までに英語名と発音を載せておきますね。)
それでは、ほかの元素はどうやって作られたのか。
星の内部の核融合(nuclear fusion)という反応によって作られました。
例えば太陽の中心部では超高温と超高圧により水素の原子核どうしが融合してヘリウム原子核が作られ、膨大な光と熱のエネルギーが生まれています。
現在の太陽はこの段階です。
あの膨大な太陽エネルギーは、水素の核融合だけで生み出されているのです。

燃えさかる太陽(X線撮影)
By NASA Goddard Laboratory for Atmospheres [Public domain], via Wikimedia Commons
水素を使い尽くした星の中心部ではヘリウムの核融合が始まり、より重い元素が作られます。
例えばヘリウム原子2つから原子番号4のベリリウム“Be”(beryllium, ベリリアム)が合成されますが、この元素は不安定ですぐ崩壊してしまいます。
しかし崩壊する前にヘリウム原子がもう一つ融合すると原子番号6の炭素“C”(carbon, カーボン)になります。
さらに炭素とヘリウムが合成すると、原子番号8の酸素“O”(oxygen, オクスィジェン)ができます。
炭素どうしが合成すると原子番号7の窒素“N”(nitrogen, ナイトロジェン)とヘリウムになります。これはより重い元素が不安定で崩壊したことによります。
このようにして水素とヘリウムに加え、炭素と酸素と窒素ができました。
これで役者が揃ったことになります。
僕たちの体の70%は水でできています。水はご存じのとおり“H2O”、水素と酸素の化合物です。
皮膚や筋肉などの細胞は主にタンパク質からできています。
タンパク質は水素と酸素に加え、炭素や窒素などでできた20種類のアミノ酸が鎖のように複雑に組み合わさってできた高分子化合物です。

Image courtesy of marin, published on 04 August 2013 / FreeDigitalPhotos.net
タンパク質と並ぶ栄養素である炭水化物は炭素と水素、酸素からなる有機化合物です。
カール・セーガンが“the carbon in our apple pies”(アップルパイの炭素も)と言っているのは、炭水化物のことかもしれません。

Image Copyright by Joshua Resnick, Used under license from Links Co., Ltd.
三大栄養素のもう一つである脂肪も、基本的には炭素、水素、酸素の組合せです。
材料となる元素が同じなのですから、炭水化物と脂肪は親戚のようなものです。
ごはんを食べ過ぎるとおなかに脂肪がついてしまうのも納得できるような気がしませんか。

Image courtesy of いしだひでヲ / 写真素材足成 ASHINARI Japanese style Material
先ほど言ったように、太陽の内部ではまだ水素の核融合反応しか起きていません。ということは、太陽の内部で作られたものは現状ヘリウムしかありません。
太陽は地球の生命を育てた母なる存在です。それは間違いありません。しかし僕たちの体をつくっている元素自体は、太陽で作られたものではなく、遠い昔にどこか別の星の内部で作られたものなのです。
そう考えると、何だかとても不思議な気持ちになりますね。
太陽の10倍以上の大きな星では、さらに核融合が連鎖的に進みます。
原子番号10のネオン“Ne”(neon, ニーアン)、
原子番号12のマグネシウム“Mg”(magnesium, マグニーズィアム)、
原子番号14のケイ素“Si”(silicon, スィリコン)、
原子番号26の鉄“Fe”(iron, アイアン, 元素記号はラテン語のferrumから)
などが作られます。
しかしケイ素や鉄は安定しており、これ以上核融合が進むことはありません。
ここまでの反応で元素が作られることを、「恒星内元素合成(stellar nucleosynthesis)」といいます。
ケイ素や鉄が合成できるほど核融合が進むのは、膨大な質量を持つ巨大な恒星に限られます。
そんな巨星の生涯は、これだけでは終わりません。
その後の反応の過程で中心部の圧力が下がり、星は 一気に収縮するのです。
これを重力崩壊(gravitational collapse)と言います。
重力崩壊が起きると、巨大な恒星の内部の物質が急激に中心付近に落ち込み、衝撃波で恒星全体が吹き飛びます。
これを超新星爆発(supernova, スーパーノヴァ)と言います。

「ケプラーの超新星 (SN 1604)」の残骸(Kepler's supernova remnant)
By NASA/ESA/JHU/R.Sankrit & W.Blair [Public domain], via Wikimedia Commons
超新星爆発の瞬間、通常の恒星の中心部とは比較にならない超高温・超高圧の環境が発生します。
ここで核融合の暴走が起こり、様々な元素が合成されるのです。
これを「超新星元素合成(supernova nucleosynthesis)」といいます。
ここではケイ素、鉄に加え、以下の元素が合成されます。
原子番号11:ナトリウム“Na”(sodium, ソディアム)(Natriumはドイツ語)
原子番号16:硫黄“S”(sulfur, サルファ)
原子番号17:塩素“Cl”(chlorine, クローリン)
原子番号18:アルゴン“Ar”(argon, アーゴン)
原子番号19:カリウム“K”(potassium, ポタスィアム)(Kaliumはドイツ語)
原子番号20:カルシウム“Ca”(calcium, キャルスィアム)
原子番号21:スカンジウム“Sc”(scandium, スキャンディアム)
原子番号22:チタン“Ti”(titanium, タイテイニアム)
原子番号23:バナジウム“V”(vanadium, ヴァネイディアム)
原子番号24:クロム“Cr”(chromium, クロウミアム)
原子番号25:マンガン“Mn”(manganese, マンガニーズ)
原子番号27:コバルト“Co”(cobalt, コウボールト)
原子番号28:ニッケル“Ni”(nickel, ニクル)
生命維持に欠かせない塩は塩素とナトリウムの化合物ですし、骨の主成分はリン酸カルシウムです。
我々の体にあるこのような成分は、いつかどこかの星の超新星爆発で作られたものなのです。
カール・セーガンが“collapsing stars”(崩壊する星々)で作られたと言ったのはこういうことです。
超新星爆発では、ほかにも様々な重金属が合成されます。
原子番号98のカリホルニウム“Cf”(californium, キャリフォーニアム)まで合成されるそうですから、世の中にあるほとんどの元素が恒星内の核融合と超新星爆発でできたことになります。

大マゼラン銀河(LMC, Large Magellanic Cloud)にある超新星の残骸
By NASA (http://www.eyehook.com/free/index.html), taken with the Hubble Space Telescope [Public domain], via Wikimedia Commons
カール・セーガンは数多くの目覚ましい業績を残しています。
核戦争が「核の冬(Nuclear winter)」を引き起こすことを初めて指摘したのもセーガンです。
人間が他の惑星にも住めるように惑星の環境を変化させる「テラフォーミング(terraforming)」の論文も書いています。
長い宇宙の歴史を1年に置き換えた「宇宙カレンダー(Cosmic Calender)」もカール・セーガンが提唱したものです。
この宇宙の始まりとされる150億年前のビックバンを1月1日の午前0時とする宇宙カレンダーによると、
4月上旬 銀河系の誕生
9月 9日 太陽系の誕生
9月14日 地球の誕生(45億年前)
10月 9日 生命(細菌)の発生(38億年前)
11月12日 植物の発生
12月19日 魚類の発生
12月21日 昆虫の発生
12月22日 両生類の発生
12月23日 爬虫類の発生
12月24日 恐竜の発生
12月25日 哺乳類の発生
12月27日 鳥類の発生
12月28日 恐竜の絶滅
12月31日23時58分 人類の誕生
ということになります。

Image courtesy of Keerati, published on 01 July 2013 / FreeDigitalPhotos.net
人類、登場するの遅すぎですね。
「紅白歌合戦」も終わって「行く年来る年」もひと通り各地の様子を映し、もうすぐ新年カウントダウン、という状態です。
年賀状なんて書いてる時間はありません。
悠久の宇宙の歴史に比べたら、人類の歴史のなんと短いことでしょう。
ほかにもいろいろなことを考えさせられるカレンダーですね。
『コンタクト [Blu-ray]』, ワーナー・ホーム・ビデオ(2010/04/21)
カール・セーガンの著作の最高傑作は『コスモス』だと思いますが、『コンタクト(Contact)』(1985)というSF作品も書かれています。
地球外の知的生命体の探査と遭遇を描いたこの作品は、ロバート・ゼメキス(Robert Zemeckis, 1952-)が監督して映画化され、ジョディ・フォスター(Jodie Foster, 1962-)が主演しました。(『コンタクト(Contact)』, 1997年アメリカ)
この映画もいろいろなことを考えさせられる作品です。
未見の方はぜひご覧になってみて下さい。
【動画】“"Contact" Theatrical Trailer (1997) (『コンタクト』劇場用予告編 (1997) )”, by CONTACT, YouTube, 2009/06/17
セーガンはNASAにおける惑星探査を指導し、無人惑星探査機計画の大半に関わりました。
これらの探査機は使命を終えても太陽系外への旅は続きます。
セーガンは地球外の知的生命によって探査機が発見されて解読されることを前提にして、彼らへのメッセージを搭載しました。
木星を探査したパイオニア10号(Pioneer 10)と木星・土星を探査した同11号(Pioneer 11)に取り付けられた金属板(Pioneer plaque)には、水素原子の遷移図と男女の姿、探査機の外形、太陽系の星と探査機のルート、出発時の時刻と場所がわかる銀河系内の14個のパルサーからの距離などが描かれました。

パイオニア探査機に搭載された金属板(Pioneer plaque)に描かれた絵
By Vectors by Oona Räisänen (Mysid); designed by Carl Sagan & Frank Drake; artwork by Linda Salzman Sagan [Public domain], via Wikimedia Commons
ボイジャー1号(Voyager 1)や同2号(Voyager 2)には“THE SOUNDS OF EARTH”というゴールデンレコード(Voyager Golden Record)が搭載されました。
これには115枚の画像と、波・風・雷・動物の鳴き声などの自然音、55種類の言語でのあいさつ、ロックやクラシックや民族音楽など27曲の音楽、モールス信号などが収録されています。
ちなみに収録されたロックはチャック・ベリー(Charles Edward Anderson "Chuck" Berry、1926-)の『ジョニー・B.グッド(Johnny B. Goode)』(1958)です。さすが大御所。

ボイジャー探査機に搭載されたゴールデン・レコード
By NASA (Great Images in NASA Description) [Public domain], via Wikimedia Commons
ガラスの瓶に手紙を入れて海へ流すメッセージ・イン・ア・ボトル(message in a bottle)のように、パイオニアやボイジャーは今も異星人へのメッセージを持って宇宙の大海を進んでいるのです。
何とも夢のある話ですね。

Image Copyright by Gina Sanders, Used under license from Links Co., Ltd.
“We are made of starstuff.”
私たちは星の材料でできている。
そう、僕たちは星の子供なのです。
母なる太陽に感謝するのはもちろんですが、夜空を見上げた時には母なる星々にも感謝しましょう。

By S. Brunier/ESO, 15 October 2010 [CC-BY-3.0], via Wikimedia Commons
それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。
【動画】“セーガン博士 『ペイル・ブルー・ドット』”, by yayat283, YouTube, 2013/05/13
【関連記事】第28回:“What is essential is invisible to the eye.”―「かんじんなことは、目に見えないんだよ」(サン=テグジュペリ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年05月26日
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【参考】Wikipedia(日本語版, 英語版)
【参考】『COSMOS 上 (朝日選書) [単行本]』, 朝日新聞出版(2013/6/11)
【参考】『COSMOS 下 (朝日選書) [単行本]』, 朝日新聞出版(2013/6/11)
【動画】“セーガン博士 『ペイル・ブルー・ドット』”, by yayat283, YouTube, 2013/05/13
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