(本文4012文字、読み終わるまでの目安:10分02秒)
こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉をご紹介しています。

By Georges Biard, 2007 [CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons
第55回の今日はこの言葉です。
“Life comes with many challenges.”「人生に困難はつきものだ。」
という意味です。
“challenge”という言葉は「挑戦」という意味もありますが、「困難」「課題」などという意味もあります。
ことわざになるまでもない人生の真実ですが、実はこれ、ある世界的な大スターが語った言葉なのです。

アンジェリーナ・ジョリー(Angelina Jolie, 1975-)
By Gage Skidmore, 22 July 2010 [CC-BY-SA-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)], via Wikimedia Commons
そう、アメリカの女優で、ファッション・モデルや映画監督・プロデューサーでもあるアンジェリーナ・ジョリー(Angelina Jolie, 1975-)の言葉です。アンジー(Angie)の愛称でもおなじみですね。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所, Office of the United Nations High Commissioner for Refugees)の親善大使(Goodwill Ambassador)だったことも有名です。今は特別公使(Special Envoy)として活躍しているそうです。

UNHCR親善大使時代のアンジェリーナ・ジョリー
スイスのダヴォス(Davos)で開催された世界経済フォーラム(World Economic Forum)にて、コフィー・アナン国連事務総長(Kofi Annan, 1938-, Secretary-General, United Nations [1997-2006])らと
By World Economic Forum from Cologny, Switzerland (World Economic Forum Annual Meeting Davos 2006) [CC-BY-SA-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)], via Wikimedia Commons
彼女は映画『トゥームレイダー(Lara Croft: Tomb Raider)』(2001年アメリカ)などでトレジャー・ハンター(Treasure hunter, 宝探し)である主人公ララ・クラフト(Lara Croft)を演じて世界的なトップ・スターになりました。『Mr.&Mrs. スミス(Mr. & Mrs. Smith)』(2005年アメリカ)で共演した俳優ブラッド・ピット(Brad Pitt, 1963-)とは、この映画での共演がきっかけで親しくなり、後に婚約しました。
【動画】“Mr. & Mrs. Smith (2005) - TRAILER (Mr.&Mrs. スミス (2005) - 予告編)”, by thecultbox, YouTube, 2011/01/15
本日の言葉は、アンジェリーナ・ジョリーが今年の5月に「ニューヨーク・タイムズ紙(The New York Times)」に寄稿した『私の医療の選択(My Medical Choice)』(May 14, 2013)という手記の結びで使われたものです。
アンジェリーナ・ジョリーは乳がんを予防するために両乳房を切除する手術を秘密裏に受けました。上記の記事では、彼女が手術を受けたことを自ら告白し、その理由と手術の内容、その後の経過についてを、彼女自身の言葉で語っています。

“My Medical Choice”, By ANGELINA JOLIE, THE NEW YORK TIMES, May 14, 2013
記事によると、アンジェリーナ・ジョリーはお母さんをがんにより56歳の若さで亡くしました。
アンジー自身も遺伝子検査(Genetic testing)の結果、BRCA1という遺伝子に変異が見つかり、乳がんの生涯発症リスクが87%だと診断されたそうです。アメリカ人の平均値である12%と比較するとかなり高い数字です。
なお、乳がんと卵巣がんの抑制遺伝子であるBRCA1やBRCA2に変異がある人は、アメリカ人全体の1%未満だそうです。また、乳がん患者の中でこの遺伝子に変異がある人は5〜10%だそうです。
彼女は、がんになる確率を少しでも低くするために、両方の乳房を切除する手術を受けることを決意します。
彼女は2月の半ばに手術を受けました。手記では手術のことを“preventive double mastectomy”と言っています。
“preventive”とは「予防を目的とした」という意味です。乳がんの予防のことです。
“mastectomy”とは「乳房切除術」という術式をあらわす医学用語です。
そして“double”とありますので、両方の乳房を切除したということです。

By Philipp von Ostau (Own work), 2010 [FAL, GFDL 1.2 (http://www.gnu.org/licenses/old-licenses/fdl-1.2.html), GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons
手術は8時間かかりました。手術が終わった後、胸にはチューブが何本もつながれ、まるでSF映画のようだったそうです。しかし数日後には日常生活ができるようになります。
胸には仮の詰め物が入れられ、9週間後の4月後半には乳房再建手術(reconstruction of the breasts)が行われました。乳首も温存される術式です。この分野のこの数年の技術の進歩には目覚ましいものがあるそうです。術後の経過は良好で、外見上は小さな傷しかわからないそうです。
彼女は手記で次のように書いています。
“I do not feel any less of a woman.”この言葉は乳がんとその可能性に悩む多くの女性を勇気づけたのではないでしょうか。
「女性としての欠如はまったく感じていません。」
これで彼女が乳がんになる可能性は5%未満に下がったそうです。
婚約者であるブラッド・ピットも、すべての手術に立ち会ってアンジーのそばを片時も離れなかったそうです。これで二人の絆がいっそう深まったと彼女は書いています。

ブラッド・ピット(Brad Pitt, 1963-)
At the 81st Academy Awards, Photo by Chrisa Hickey, February 22, 2009 [CC-BY-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/3.0)], via Wikimedia Commons
アンジーは、世間に知られることなくこの手術を受け、仕事も続けました。しかし敢えて彼女は乳房切除と再建という極めてプライベートな事実を公表することを決意します。
その理由は、遺伝子検査で乳がんや子宮がんのリスクことや、予防的切除という選択肢があることを世界中の女性に広く知ってほしいと思ったからなのだそうです。
WHO(世界保健機関, World Health Organization)によると、世界で年間45万8千人の女性が乳がんで亡くなっているそうです。
BRCA1とBRCA2の遺伝子検査の費用はアメリカで3,000ドルを超えており、多くの女性にとって高額な費用が障壁となっていることも、アンジーは指摘しています。
また、手術以外にも様々な選択肢があることにも言及しています。
【動画】“Inside Angelina Jolie's Double Mastectomy Decision (アンジェリーナ・ジョリーが両乳病切除を決めた内情)”, by ABC News, YouTube, 2013/05/14
スタイル抜群のセクシー女優であるアンジェリーナ・ジョリーが、女性の象徴の一つである乳房を両方とも切除したというショッキングな告白は、世界中に大きな反響と議論を巻き起こしました。
また、遺伝子検査の技術を持っているミリアド・ジェネティクス社(Myriad Genetics)の株が急騰したりもしました。この会社が持っている遺伝子検査に関する特許の有効性については、まもなくアメリカの最高裁判所(Supreme Court of the United States)が判断を下す予定だそうです。
これらの背景や影響をふまえ、アンジーのこの告白のことを、
“A well-planned corporate P.R. campaign” (周到に計画された会社PRキャンペーン)
だという報道もありました。

“EXPOSED: Angelina Jolie part of a clever corporate scheme to protect billions in BRCA gene patents, influence Supreme Court decision (opinion)”, by Mike Adams, NaturalNews.com, May 16, 2013
しかし最も大きな衝撃を受けたのは、世の中のすべての女性だったと思います。
「ニューズウィーク日本版(Newsweek Japan)」の記事によると、アメリカは8人に1人が乳がんになる「乳がん大国」だそうです。乳がんは他人事ではないのです。
日本人は16人に1人だそうですが、女性にとっては数字の大小には関係なく心配な事だと思います。

『アンジーが開けた遺伝子という「パンドラの箱」』, 小暮聡子(ニューヨーク), ニューズウィーク日本版, 2013年05月22日
ニューズウィークの記事によると、アメリカ国立癌研究所(NCI, National Cancer Institute)は、次の条件に該当する女性にはBRCA1/2の遺伝子検査を受けるべきとしているそうです。
・自身が乳がんや卵巣がんだと診断された人
・BRCA1/2の遺伝子検査で異常が診断された人の親族
・親・娘・姉妹に乳がん患者が2人以上いて、そのうち1人以上が50歳以下で発症している人
・親・娘・姉妹・祖母・叔母に3人以上の乳癌患者がいる人
・親・娘・姉妹のうち1人以上が両乳房に乳癌を発症した人
・親・娘・姉妹・ 祖母・叔母に2人以上の卵巣癌患者がいる人
また、同記事では
『BRCA1/2遺伝子検査を受けるべきか迷っている人は、まずは医療機関で「遺伝カウンセリング」を受け、相談してみてはいかがだろう。』と書いています。
では異常があると診断された人はどうするかです。
「タイム誌(TIME)」の記事によると、アメリカでは乳がんの可能性を指摘された女性のうち36%は両方の乳房切除手術を選ぶそうです。

“The Angelina Effect: TIME’s New Cover Image Revealed”, By Jeffrey Kluger, TIME, May 15, 2013
しかし、日本経済新聞の記事によると、アメリカでも乳房切除手術は“barbaric”(野蛮、荒っぽい)な対処法とする医者が少なくないそうです。切除を選ばない女性は、検査の頻度や種類を最適化して早期発見・早期治療で対応するのだそうです。
また、パリでは切除手術を望む女性は0%だそうです。同じヨーロッパでも北欧になると逆にほぼ100%に近い人が手術を選ぶらしいです。このあたりの考え方は、国や文化によって大きく異なるようですね。

『アンジェリーナ・ジョリーが受けた乳房切除とは』, (ニューヨーク=原真子), 日本経済新聞, 2013/5/17
アンジェリーナ・ジョリーの手術を行ったビバリーヒルズ(Beverly Hills)にあるピンクロータス・ブレスト・センター(Pink Lotus Breast Center)は、彼女の手術についての情報を公式ウェブサイトで公開しています。しかし冒頭で「女性によって状況は異なるため、遺伝子変異を持つすべての女性に予防的切除を勧めるものではないし、ほかの治療の選択肢もありえる」と書いています。

“A Patient’s Journey: Angelina Jolie”, Dr. Kristi Funk, PINK LOTUS BREAST CENTER, May 14, 2013
日本では遺伝子検査も乳房切除術もその後の再建術も、健康保険がきかないためすべて自己負担になります。先のニューズウィークの記事によると、日本では検査料金は20〜30万円、両乳房の予防的切除と再建の手術にかかる費用は150〜200万円ほどになるそうです。
ニューヨーク・タイムズに寄せた手記の結びで、アンジーはこう書いています。
“Life comes with many challenges.”そしてアンジーはこう続けて結びます。
「人生に困難はつきものです。」
“The ones that should not scare us are the ones we can take on and take control of.”
「(しかし)私達が恐れるべきではない困難は、それを受け入れて、それをコントロールすることが出来るものなのです。」
大きな困難に直面して、予防的に戦うことを選択したアンジェリーナ・ジョリー。
術後の経過も良好で、6月の頭にはロンドンで行われたブラッド・ピットの最新映画のプレミアで術後はじめて公共の場に元気な姿を見せました。
アンジーのご健康と、今後ますますのご活躍を心からお祈りします。

By Suckfromthecan (Own work) [CC-BY-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/3.0)], via Wikimedia Commons
それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。
【ご注意】本ブログの筆者は医師ではありませんし、本記事は特定の検査や術式を薦めているわけでも否定しているわけでもありません。遺伝子検査の受診やその後の治療については必ず医療機関へご相談した上で判断して下さい。
【参考】Wikipedia(日本語版,英語版)
【参考】“My Medical Choice”, By ANGELINA JOLIE, THE NEW YORK TIMES, May 14, 2013
【参考】“EXPOSED: Angelina Jolie part of a clever corporate scheme to protect billions in BRCA gene patents, influence Supreme Court decision (opinion)”, by Mike Adams, NaturalNews.com, May 16, 2013
【参考】『アンジーが開けた遺伝子という「パンドラの箱」』, 小暮聡子(ニューヨーク), ニューズウィーク日本版, 2013年05月22日
【参考】“The Angelina Effect: TIME’s New Cover Image Revealed”, By Jeffrey Kluger, TIME, May 15, 2013
【参考】『アンジェリーナ・ジョリーが受けた乳房切除とは』, (ニューヨーク=原真子), 日本経済新聞, 2013/5/17
【参考】“A Patient’s Journey: Angelina Jolie”, Dr. Kristi Funk, PINK LOTUS BREAST CENTER, May 14, 2013
【動画】“Mr. & Mrs. Smith (2005) - TRAILER (Mr.&Mrs. スミス (2005) - 予告編)”, by thecultbox, YouTube, 2011/01/15
【動画】“Inside Angelina Jolie's Double Mastectomy Decision (アンジェリーナ・ジョリーが両乳病切除を決めた内情)”, by ABC News, YouTube, 2013/05/14
| ツイート |


