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2018年03月01日

第503回:“A smile is the most powerful weapon.” ―「笑顔は最強の武器である」(ニック・バーリー)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。



第503回の今日はこの言葉です。
“A smile is the most powerful weapon.”

「笑顔は最強の武器である」
という意味です。
これはイギリスの戦略的コンサルタント、ニック・バーリー(Nick Varley)の言葉です。
2012年のロンドンオリンピックの招致に参画して成功した後に2016年リオデジャネイロオリンピックと2020年の東京オリンピックの招致にも戦略的アドバイザーとして参加し、3大会連続の招致に成功した人物として知られています。


ニック・バーリー(2015年撮影)

2012年夏季オリンピックの開催地の選考は2003年に始まり、9都市が開催地に立候補します。
翌2004年にIOC(国際オリンピック委員会 / International Olympic Committee)は書類審査で候補地を5都市に絞り込み、「正式立候補都市(official candidate cities)」に指定します。候補に残ったのは書類審査の点数が高い順にパリ、マドリード、ロンドン、ニューヨーク、モスクワです。そしてIOC評価委員会による各都市4日間ずつの視察を経て、2005年7月にシンガポールで開催された第117次IOC総会(117th IOC Session)で開催地の最終選考が行われます。

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第117次IOC総会にて(2005年撮影)
Photo by John Gichigi / Staff, 03 July, 2005 [Rights-managed], via Getty Images

視察の報告書によると、パリが最も高い評価を受け、これに並ぶ形でロンドンも高い評価を得ています。ロンドンは書類審査から1つ順位を上げた2番手につけています。
選考ではまず各都市1時間ずつのプレゼンと30分ずつの質疑応答時間が与えられ、その後に評価委員による投票が行われます。投票のプロセスは特徴的で、一回の投票ごとに最下位の都市を落選させて最後の一都市が決まるまで投票を繰り返す方式です。

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プレゼンに臨むロンドン招致団(2005年撮影)
Photo by Jonathan Drake (Bloomberg) / Contributor, 06 July, 2005 [Rights-managed], via Getty Images

ロンドン招致団は過去のプレゼンテーションのビデオをすべて見て、良いプレゼンとはどういうものかを徹底的に研究します。スピーチライターとして招致団に入っていたニック・バーリーはスピーチを執筆して推敲を重ねます。そしてストーリー展開や発表スタイル、観客の反応などを熟考して、プレゼンターたちに入念なトレーニングを施します。
そしてプレゼンターたちは、それぞれ素晴らしいプレゼンを行うのです。

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プレゼンをするロンドン招致委員長のセバスチャン・コー(Sebastian Coe)(2005年撮影)
Photo by Andrew Wong (Getty Images) / Staff, 06 July, 2005 [Rights-managed], via Getty Images

1回目の投票の結果、ロンドンが首位となり、モスクワが落選します。
2回目の投票ではマドリードが首位となり、ニューヨークが落選します。
3回目の投票ではロンドンが首位となり、マドリードが落選します。
そして4回目の投票。ロンドンとパリの決戦投票は54対50の僅差でパリが落選し、ロンドンが開催地に決まります。

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ロンドンが開催地に決まって喜ぶ招致団(2005年撮影)
Photo by Jonathan Drake (Bloomberg) / Contributor, 06 July, 2005 [Rights-managed], via Getty Images

招致決定後、ニック・バーリーは五輪開催チームには残らず、「セブン46(Seven46)」という会社を設立します。オリンピックやワールドカップなどの大規模国際イベントの招致のコンサルティングを請け負う会社です。セブン46という社名はシンガポールでのIOC総会の最終プレゼンでロンドン開催が決まった7時46分にちなんだものです。
バーリーは2016年オリンピックのリオデジャネイロ招致団にコンサルタントとして参加します。2016年のオリンピックには7都市が開催地に立候補して4都市が最終選考に残ります。書類審査の評価が高い順に東京、マドリード、シカゴ、リオです。
最終選考は2009年10月にデンマークの首都コペンハーゲンで開催された第121次IOC総会(121st IOC session)で行われます。日本からは鳩山由紀夫首相(Yukio Hatoyama)石原慎太郎東京都知事(Shintaro Ishihara)らが出席します。

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五輪招致のプレゼンをする鳩山由紀夫首相(2009年撮影)
Photo by John Gichigi (Getty Images) / Staff, 02 October, 2009 [Rights-managed], via Getty Images

書類選考で最下位だったリオからは、ブラジルのルラ大統領(Luiz Inácio "Lula" da Silva)や知名度抜群のサッカー王ペレ(Pelé)らが参加します。そしてバーリーの助言のもとで綿密に作戦をたてて準備した最終プレゼンに臨むのです。
投票の結果、シカゴと東京が順に落選し、リオとスペインのマドリードが残ります。そして決戦投票の結果、66対32の大差でリオデジャネイロが開催地に決定します。
バーリーは見事に2大会連続のオリンピック招致に成功するのです。

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開催が決まって喜ぶリオデジャネイロ招致団(2009年撮影)
Photo by Charles Dharapak / Pool, 02 October, 2009 [Rights-managed], via Getty Images

そして2011年、2020年オリンピックの開催地選考が始まります。6都市が立候補し、その中のローマは2010年のユーロ危機(European debt crisis)に伴う財政悪化を理由に立候補を辞退します。残る5都市は前回のリベンジを狙う東京とマドリード、前回書類選考落ちのカタールのドーハとアゼルバイジャンのバクーも今回また立候補しています。そして新たに立候補したのはトルコのイスタンブールです。
オリンピック招致請負人のニック・バーリーには5都市すべてからコンサルティングのアプローチを受けます。東京は5都市の中ではあまり有力視されていませんでしたが、バーリーは東京からの依頼を受けることに決めます。日本文化と東京に対する個人的な憧れや、実際に会ってみた東京の招致団のメンバーとの個人的な相性の良さもあったそうです。しかし最大の決め手は、バーリーが前回の招致キャンペーンを見て、東京は魅力的な素材と優秀な実行計画があったのに売り出し方が失敗したために招致に失敗したのだと思ったことです。バーリーは、東京はプレゼンをうまくやれば勝算は十分にあると確信したのです。

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ニック・バーリー(2015年撮影)
Photo by Francois Nel (Getty Image) / Staff, 18 November, 2015 [Rights-managed], via Getty Images

書類選考の結果、東京とマドリードとイスタンブールの3都市が最終候補に残ります。
今回は公平性を保つため、選考の途中順位は発表されません。3都市はどこも決定的な優位を確保できないまま招致レースは最終局面までもつれこみます。
そして2013年9月、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開催された第125次IOC総会(125th IOC Session)で最終選考が行われます。

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総会の前に会見をするジャック・ロゲ(Jacques Rogge)IOC会長(2013年撮影)
Photo by Ian Walton (Getty Images) / Staff, 04 September, 2013 [Rights-managed], via Getty Images

東京の招致チームは、ニック・バーリーの助言のもとで徹底的に作戦を練り、日本人が苦手とされてきたプレゼンテーションに練習に練習を重ねて臨みます。
招致メンバーに先立って、まず冒頭に高円宮たかまどのみや久子ひさこさま(Hisako, Princess Takamado)がご挨拶に立たれます。久子さまは流暢なフランス語とイギリス留学で磨かれた英語でご挨拶をされ、東日本大震災の復興支援への謝意を伝えられます。そして中立的な立場の皇室が招致スピーチをするわけにはいきませんから、東京への投票を呼びかける言葉はなく、東京招致団を紹介してスピーチを閉じられます。

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ご挨拶をされる高円宮妃久子さま(2013年撮影)
Photo by Ian Walton (Getty Images) / Staff, 07 September, 2013 [Rights-managed], via Getty Images

そして招致チームのトップバッターとして、陸上競技のパラリンピック選手、佐藤真海さん(Mami Sato)がプレゼンをします。彼女のスピーチのテーマは「スポーツのパワー」です。佐藤さんは病気で自らが右足を失った苦しみからスポーツで立ち直ったことや、東日本大震災で被災した故郷の気仙沼を含む被災地をスポーツ活動を通して支援した経験などを語ります。

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佐藤真海氏のプレゼン(2013年撮影)
Photo by Ian Walton (Getty Images) / Staff, 07 September, 2013 [Rights-managed], via Getty Images

続いて招致映像の上映を挟み、招致委員会理事長の竹田恆和つねかず氏(Tsunekazu Takeda)がプレゼンをします。竹田理事長のスピーチのテーマは「ビジョン」です。日本が101年前の1912年のストックホルム大会への初参加以来、オリンピックとパラリンピックでドーピング違反をした日本選手が一人もいない事実を語ります。また東京の強さとして、「デリバリー(Delivery)」(運営能力)、「セレブレーション(Celebration)」(祝祭)、「イノベーション(Innovation)」(革新)の3つを強調します。

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竹田恆和氏のプレゼン(2013年撮影)
Photo by Ian Walton (Getty Images) / Staff, 07 September, 2013 [Rights-managed], via Getty Images

そして招致委員会理事長で専務理事の水野正人氏(Masato Mizuno)がプレゼンをします。水野氏は「オポチュニティー(Opportunity)」(機会)という言葉を強調した上で、東京が「広大で若いアジア大陸への玄関口」であると語ります。また企業のスポンサーも順調に獲得しており財政面でも心配が少ないと話し、さらに2016年の招致で作った開催計画をさらに改善してきたことを具体例を挙げて説明します。
そして途中から英語からフランス語に切り替えてIOC委員への感謝を述べてプレゼンを締めくくり、続けて動画で競技会場の計画が紹介されます。

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水野正人氏のプレゼン(2013年撮影)
Photo by Ian Walton (Getty Images) / Staff, 07 September, 2013 [Rights-managed], via Getty Images

動画の後には、招致委員長の猪瀬直樹東京都知事(Naoki Inose)がプレゼンをします。猪瀬都知事のスピーチのテーマは「東京の信頼性」です。猪瀬氏は東京がダイナミックでありながら平和で安定した都市であることを強調し、都市インフラの充実や財源の確実さを語ります。中でも45億ドル(約4500億円)もの大会開催準備基金があることを具体的に語ります。通常は五輪の招致が決まったあとで予算を組んで費用を捻出しますから、これは大きな強みです。

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猪瀬直樹都知事のプレゼン(2013年撮影)
Photo by Ian Walton (Getty Images) / Staff, 07 September, 2013 [Rights-managed], via Getty Images

そして登場したのフリーアナウンサーの滝川クリステルさん(Christel Takigawa)です。彼女のスピーチのテーマは「Cool Tokyo(クールな東京)」です。全文フランス語で日本の「おもてなし」の精神を紹介し、東京が世界一安全で快適な大都市であることを語ります。そして伝統文化やショッピング、レストランなどに関しても大きな魅力のある都市であることを語るのです。「お・も・て・な・し」と一音ずつ区切って紹介した彼女のスピーチは話題となり、後に『2013 ユーキャン新語・流行語大賞』の年間大賞にも選ばれます。

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滝川クリステル氏のプレゼン(2013年撮影)
Photo by Ian Walton (Getty Images) / Staff, 07 September, 2013 [Rights-managed], via Getty Images

続くはフェンシング選手の太田雄貴さん(Yuki Ota)です。彼のスピーチのテーマは「アスリートの視点」です。太田氏は何度も「イマジン(Imagine)」と語りかけます。東京オリンピックが開催されて東京を訪れていることを「想像してみて下さい」というのです。そして2012年のロンドンオリンピックから帰国した選手たちのパレードに50万人もの人たちが詰めかけたことを紹介します。アスリートの立場で語ったプレゼンは、2008年北京五輪の個人と2012年のロンドン五輪の団体で銀メダルを獲った太田さんなだけに説得力があります。

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太田雄貴氏のプレゼン(2013年撮影)
Photo by Ian Walton (Getty Images) / Staff, 07 September, 2013 [Rights-managed], via Getty Images

続いてプレゼンをするのは、安倍晋三内閣総理大臣(Shinzo Abe)です。安倍首相のスピーチは官邸が用意したものですが、官邸はニック・バーリーら招致チームと何度も議論をしてスピーチを準備したそうです。安倍首相がスピーチで触れた最も難しい話題は福島の原発事故です。安倍首相は一番最初に福島のことを語ります。
“Some may have concerns about Fukushima. Let me assure you the situation is under control.”
「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証を致します。状況は、統御されています。」
懸念材料に一番最初に率直に触れるのは危機管理のテクニックとして重要です。安倍首相はそれを実践したのです。

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安倍晋三首相のプレゼン(2013年撮影)
Photo by Ian Walton (Getty Images) / Staff, 07 September, 2013 [Rights-managed], via Getty Images

そして最後は再び竹田理事長がスピーチをします。竹田理事長ははっきりと自分の立場を表明します。
“Our case today is simple. Vote for Tokyo.”
「本日の私の立場はシンプルです。東京に投票してください」
これは慎み深い竹田理事長をよく知る人はきっと驚くであろう直球ど真ん中の強いメッセージです。武田理事長は、
“Vote for Tokyo.”
に続く説明を変えながらこの言葉を3度繰り返します。
そして選考の結果はご存じの通り、東京が決戦投票でイスタンブールを60対36で破り、2020年オリンピックの招致に成功します。

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最終選考結果を発表するIOCのロゲ会長(2013年撮影)
Photo by Fabrice Coffrini / Pool, 07 September, 2013 [Rights-managed], via Getty Images

ニック・バーリーはプレゼンを成功させる戦略として以下の7つを挙げています。
戦略1: “DO THE MATH”「数字を押さえる」
戦略2: “KNOW YOUR AUDIENCE”「聴衆を理解する」
戦略3: “MAKE AN IMPACT”「インパクトを演出する」
戦略4: “KEEP MAKING IMPACT”「インパクトを持続させる」
戦略5: “BE VISUAL”「視覚に訴える」
戦略6: “BE A VISIONARY”「明確なビジョンを持つ」
戦略7: “PERFORM”「パフォーマンスをする」
どれも大切なものばかりですね。オリンピック招致だけではなく、仕事のプレゼンや学生の論文発表などにも使えます。
詳しくはニック・バーリーの著書『世界を動かすプレゼン力』(2014年)をお読みになってみて下さい。
東京招致チームはこれらの戦略をすべて押さえて準備と練習を重ねたからこそ、招致を獲得できたのでしょう。

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東京開催が決まって喜ぶ招致チームと安倍首相(2013年撮影)
Photo by Ian Walton (Getty Images) / Staff, 07 September, 2013 [Rights-managed], via Getty Images

“A smile is the most powerful weapon.”
笑顔は最強の武器である。

3大会連続のオリンピック招致に成功したニック・バーリー。
そして最高の笑顔で英語やフランス語のスピーチを行い、見事に2020年の東京開催を勝ち取った招致チーム。
綿密な作戦と何度も何度も繰り返した練習の賜物でもありました。
そして最後に勝負を決めたのは、プレゼンターやほかの招致メンバーのとびきりの笑顔でした。
笑顔には凄い力があるのです。最強の武器ウェポンなのです。
先日閉幕した2018年平昌ピョンチャンオリンピックもそうですよね。開催前には準備不足や運営能力、政治利用などいろいろな懸念があったこの大会、実際に始まってみると選手たちの頑張りと笑顔でそんな懸念は吹き飛ばされてしまいました。
2020年の東京オリンピックまであと2年あまりとなりました。選手やスタッフだけでなく、日本や世界の人たちの笑顔に溢れた大会となることを祈ります。


【動画】“滝川クリステルさんのプレゼンテーション IOC総会(13/09/08)”, by ANNnewsCH, 2013/09/07

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。


【動画】“[NHK出版]世界を動かすプレゼン力_info”, by NHKBOOKMOVIE, 2014/02/18

【関連記事】第100回:“I dare hope that our paths will cross again.”―「また皆さんとお会いできることを望みます」(高円宮妃久子さま), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年09月29日
【関連記事】第501回:“The moon that shone in Rio, lights the streets of Tokyo” ―「リオデジャネイロでながめた月が 今日は都の空照らす」(石川さゆりほか『東京五輪音頭 -2020-』), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2018年02月21日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“プレゼンの武器! 五輪招致請負人”, by レンフロ比佐子, 知らないとコワイ...文化のちがい編, 英語イイネ!, 神田外語グループ
【参考】“オリンピック東京プレゼン全文、安倍首相や猪瀬知事は何を話した?(IOC総会・プレゼン内容)”, The Huffington Post, 2013年09月07日
【参考】“「東京五輪」呼び寄せた英国流プレゼンテーションの秘密”, by 木村正人 | 在英国債ジャーナリスト, Yahoo!Japanニュース, 2013/9/11
【参考】“【2013新語・流行語】年間大賞は史上最多4つ 「じぇじぇじぇ」「倍返し」など本命勢揃い”, ORICON NEWS, 2013-12-02
【参考】“世界を動かすプレゼンの7原則”, by 堀 正岳, Lifehacking.jp, 2014年2月24日
【参考】“五輪招致戦略コンサルタント、ニック・バーリー:「世界を動かすプレゼン力を伝授します」”, By Shogo Hagiwara, WIRED, 2014.03.08

【動画】“滝川クリステルさんのプレゼンテーション IOC総会(13/09/08)”, by ANNnewsCH, 2013/09/07
【動画】“[NHK出版]世界を動かすプレゼン力_info”, by NHKBOOKMOVIE, 2014/02/18



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posted by ジム佐伯 at 07:00 | ロンドン | Comment(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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