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2018年01月20日

第492回:“Maji manji (Seriously, swastika)” ―「マジ卍」(女子中高生)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。



第492回の今日はこの言葉です。
“Maji manji”

なんでしょう、これ。
「マジ卍」
をローマ字で書いたものです。呪文みたいですね。
今さらですが、マジ卍です。ネットやSNSなどで女子中高生などによく使われている言葉です。
無理矢理に英語に直訳すると、
“Seriously, swastika”
(シリアスリー、スワスティカ)
となります。おっ、なんだか恰好よくなりましたね。

0492-asakusa_sensoji_cropped.jpg
東京・浅草寺の本堂(2013年撮影)
By ElHeineken (Own work), cropped by Jim Saeki in 2018 [CC BY 4.0], via Wikimedia Commons

「マジ卍」や「まじ卍」、2016年から2017年にかけてネットやSNSで話題になりました。
2017年の年末には三省堂辞書の編集委員らが選ぶ2017年の「今年の新語」の候補になり、JCJK調査隊が選ぶ「JC・JK流行語大賞2017」では「コトバ部門」で4位にランクインしました。
はっきり言って意味はありません。語感とノリと勢いで使われています。
日刊スポーツの記事では
「かわいい、おいしい、調子が良いなどの感情、状態を形容する。意味、用法、使用場面いずれも曖昧で感覚的」
と説明されています。また、毎日新聞の記事では
「ところが流行の起こりは不明で、意味すらよく分からず、専門家たちは頭を抱えている。」
と書かれています。面白いですね。
LINEが製作した動画では、「マジ卍!」に字幕で「信じられない!」との「訳」がつけられています。
「卍からの卍」などのバリエーションもあるようです。


【動画】“ワンチャンワンドキ!JK用語でJKの1日を再現してみた”, by LINE Japan, YouTube, 2017/09/06

まんじはもともとヒンドゥー教や仏教で用いられる吉祥きっしょう(めでたいこと、幸先の良いこと)を表す印です。左卍と右卐があり、現代の日本では左卍が多く用いられています。日本では仏教を象徴する記号として知られており、寺社を表す地図記号にもなっています。漢字の一つでもあり、家紋(family crest)のデザインにもなっています。

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日本の家紋の一つ「丸に左万字」
蜂須賀氏が用いたことから「蜂須賀万字」「蜂須賀卍」とも呼ばれる
By Mukai (Mukai's file) [GFDL or CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

この印、かつては洋の東西を問わず幸運のシンボルとして用いられました。最も古い卍は新石器時代のインドで見られました。またドイツのハインリッヒ・シュリーマン(Heinrich Schliemann)はギリシア神話にも登場するトロイ(Troy)の遺跡で卍を発見しました。シュリーマンはこの発見によって卍がインド・ヨーロッパ語族に共通した宗教的シンボルであると考えました。

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インダス文明の印章(大英博物館蔵)(2005年撮影)
Before My Ken [GFDL or CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons

ヒンドゥー教の卍は、独特の飾りや点がついた右卐が多いようです。ヒンドゥー教ではヴィシュヌ神(Vishnu)の胸の旋毛つむじが由来となっています。インドでは今でも吉祥の印として日常的によく使われています。
日本では建物の竣工式や安全祈願などでは神職の祭司が祭事を行いますが、インドでもヒンドゥー教のバラモン祭司が似たような目的で祭事を行います。この時に吉祥の卍が水で溶いたサフラン色の顔料で描かれる風習があります。

0492-hinduswastika.png
ヒンドゥー教万字
Public domain, via Wikimedia Commons

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交通安全の御祈祷を受けたインドの新車(2009年撮影)
By Miya.m (Own work) [GFDL or CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

中国にはインドから仏典を通して卍が伝わります。仏教では釈迦(Buddha)の胸の瑞相が由来であるとされています。このあたり、ヒンドゥー教から伝わった時に瑞相の由来も変わっているのが面白いです。
卍は中国から朝鮮半島へ、さらに日本へ伝わります。韓国や台湾の寺の建物や仏塔にも卍が使われている例があります。また台湾では仏教つながりで「台湾素食」と呼ばれる精進料理のレストランを表すマークとして街中の看板などに見られます。
日本では奈良時代の薬師寺の本尊である薬師如来の掌と足の裏に描かれたものが現存最古の例とされます。日本では神仏混交の時代があったこともあり、仏教の寺に限らず神社でも卍が彫られた石碑があったりします。

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秋田県男鹿市の真山しんざん神社
By ウィキ太郎 Wiki Taro (Own work) [Public domain or CC0], via Wikimedia Commons

日本では、「卍」のマークは寺院を表す地図記号としてもおなじみです。
しかしこれを初めて見た外国人観光客はギョッとするそうです。ナチスの使ったかぎ十字、「ハーケンクロイツ(Hakenkreuz)」とよく似ているからです。日本の地図記号は正方形で左卍、ナチスの鍵十字はひし型で右卐という違いはあります。しかし、特に城下町によくある寺町てらまち(防御のために寺院を集中的に配置した地域)などの地図に卍が密集しているたりするのは西欧人にとっては衝撃的なようです。
しかし学校でも習った地図記号が日本ローカルのものだったとは驚きですね。僕も海外に暮らして初めて知った時はびっくりしました。

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長野・善光寺の本堂(2016年撮影)
By G41rn8 (Own work) [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons

ナチスは党のシンボルとしてハーケンクロイツを使用しました。前述のとおりシュリーマンがトロイの遺跡で発見した卍がインド・ヨーロッパ語族に共通した宗教的シンボルと考えたことから、アーリア人優越のシンボルとして採用したのです。ナチスが政権を取った後、ハーケンクロイツ旗が事実上のドイツ第三帝国の国旗として使われました。
この時代のナチスのユダヤ人に対する残虐行為があまりにも酷かったため、ヨーロッパではナチスを想起させるシンボルの使用はタブーです。単なるタブーではなく、法律で禁止されている国も多いです。ドイツでは、学問的な理由を除き、ナチスのシンボルを公共の場で展示・使用することは民衆扇動罪で処罰されます。

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ナチスの鉤十字
左からアドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)、ヘルマン・ゲーリング(Hermann Göring)、ヨーゼフ・ゲッペルス(Joseph Goebbels)、ルドルフ・ヘス(Rudolf Hess)
By Unknown or not provided (U.S. National Archives and Records Administration) [Public domain], via Wikimedia Commons

「日本の卍は左卍だからナチスの鉤十字とは違う」と言って反論する人もいますが、その理屈はあまり通用しません。東洋でもそうでしたが、欧米でも右卐と左卍はあまり厳密に区別されていないからです。また、欅坂46(Keyakizaka46)のメンバーがハロウィンのイベントでナチス親衛隊の軍服に似た衣装を着て問題になったことがありました。日本ではナチスがどれほどタブーであるかあまり認識されていないので、似たような事例は時々発生します。
確信犯のネオナチだと思われる恐れもあります。単なる無知では済まされませんので、気をつけて下さい。


そんな事情もあり、2020年の東京オリンピックで外国人観光客が増える時期に先立って、地図記号を外国人にもわかりやすいものに変更しようと検討された時には、卍の地図記号が議論となりました。
ナチを想起させる卍に代わる地図記号として、仏閣をイメージしやすい三重の塔を図案化したものや、お寺の梵鐘を図案化したものが検討されます。はしかし結局それもわかりにくいという理由で、卍の変更は見送られます。
しかし今後の議論の経過によっては再度変更が検討される可能性もありそうです。


“Maji manji”
マジ卍。

古くから洋の東西を問わず幸運の象徴として使われ、日本では仏教の象徴としても親しまれてきた卍。
まさかのネット流行語として21世紀の若者に使われるようになりました。しかも「意味は特にない」というのが面白いです。
しかし今やテレビや新聞でも話題になっているということは、流行のピークはとっくに過ぎ去っているとも考えられます。かつて「女子高生社長」として話題となった、JCJK調査隊を率いる株式会社AMF社長の椎木里佳(Rika Shiiki)(現在は慶應大学在学中の「女子大生社長」)は、次のように語っています。
「たとえば去年流行した『すごい』『ヤバい』に近い意味を持つ『まじ卍(まんじ)』は、もう古くなりつつあります。 私も年上の知り合いに使われると、正直言って…ムカつきますね」
まあこの言葉は女子中高生にも最初からネタ的に使われているようですけどね。
まさに言葉は生き物です。マジ卍。


【動画】“卍ポーズ 高校生 プリクラ ポーズ 流行り 2017”, by JK TREND NEWS / JKトレンドニュース, YouTube, 2017/11/13

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第451回:“Seriously?” ―「まじで?」(日常会話), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2017年08月09日
【関連記事】第61回:“No kidding!”―「マジで?」(日常会話), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年07月23日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2017」”
【参考】“今年の新語 「忖度」が2冠達成 「卍」を巡って議論も”, by 大村健一/統合デジタル取材センター, 毎日新聞, 2017年12月3日
【参考】“女子大生社長・椎木里佳率いるJCJK調査隊が厳選!JCJK流行語大賞2017&2018年トレンド予測を発表”, by 株式会社AMF, PR TIMES, 2017年11月30日
【参考】“JC・JK流行語大賞に「まじ卍、かなしみ」など”, 日刊スポーツ, 2017年11月30日
【参考】“Trending Slang Among Japanese High School Girls in 2016 (2016年に日本の女子中高生に流行しているスラング)”, by Allison, FAST JAPAN, December 1, 2016
【参考】“まじ卍とはどういう意味?ネットで流行る不可解なまじ卍の使い方”, e-情報.com, 2017/05/20
【参考】“「マジ卍」どんな意味かわかる? 大人が知らない最新JK用語”, by 山崎 春奈, BuzzFeed, 2017/09/7
【参考】“卍 : Trending Japanese Slang (卍:流行中の日本のスラング)”, by krisfz, Cross-Cultural Collision - (mis)understanding Japan, December 17, 2017
【参考】“マジ卍 意味や流行の起こりは? 専門家も「?」”, by 大村健一, 毎日新聞, 2018年1月9日
【参考】“女子大生社長・椎木里佳さんが予測する今年のトレンドは「クールコリア」と「リバイバル」”, by 高柳哲人, 甲斐毅彦記者の「多事放論」, スポーツ報知, 2018年1月13日
【参考】“WHY ARE THERE SWASTIKAS IN JAPAN? (なぜ日本にはたくさん卍があるのか?)”, Words written by HASHI • Art by AYA FRANCISCO, TOFUGU, MARCH 21, 2012
【参考】“ナチスを想起? 地図記号 “卍” 変更案をどう思う? 海外ユーザーの声 「変更するよりも意味を教えたら?」「卍をナチスから取り返すチャンス」”, by 小千谷サチ, ロケットニュース24, 2016年1月22日
【参考】“Educate the people and keep the ‘manji’ (卍) on Japan’s maps (人々を啓蒙して日本の地図の「卍」を守ろう)”, by Helen A. Langford-Matsui, The Japan Times, FEB 10, 2016
【参考】“欅坂46の衣装が「ナチスそっくり」 Twitter炎上、英紙も報道”, by 中野渉,The Huffington Post, 2016年11月02日
【参考】“外国人向け地図記号15種類が決定! 「卍」を三重の塔にする案は採用せず”, by 大場巧揮,ねとらぼ, 2016年03月31日

【動画】“ワンチャンワンドキ!JK用語でJKの1日を再現してみた”, by LINE Japan, YouTube, 2017/09/06
【動画】“卍ポーズ 高校生 プリクラ ポーズ 流行り 2017”, by JK TREND NEWS / JKトレンドニュース, YouTube, 2017/11/13



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posted by ジム佐伯 at 07:00 | ロンドン | Comment(2) | 呪文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
のざわさん、こんにちは。ジム佐伯です。コメントありがとうございます。そしていつもブログをご覧になって頂きありがとうございます。確かにナチスの軍服はファッショナブルなところがあるのですが、それがタブーであることは日本ではあまり知られていませんね。ただ卍という人類共有のシンボルデザインを一時期の一国の政権のせいですべて禁止してしまうのもやり過ぎのように感じます。そのあたりのバランスがなかなか難しいところですね。コメントとても励みになります。これからもよろしくお願い致します。
Posted by ジム佐伯 at 2018年01月24日 04:13
ジム佐伯様、おはようございます。記事を興味深く拝読しました。マジ卍というのも初耳でした。記事をお読みし、欅坂46のコスチュームを巡ってのSNSの炎上もびっくりでした。深い意味もなく、感覚的に使用してしまう流行語や芸能人のファッションの例は、見過ごすことのできないものですね。表現の自由に対して、それによって傷つく人の存在。前にイスラムの神を戯画化したとして、ヨーロッパでテロ事件が発生しました。豊かで、権力をもつ人達は自分の行為にいつも慎みを持たないといけないのではないでしょうか。それでも過ちを起こしてしまうのですが、ジム様の記事を拝読し、深く考えさせられました。ありがとうございます。
Posted by のざわ at 2018年01月22日 10:24
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