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2017年06月10日

第436回:“There's no plan B.” ―「代替案(プランB)はない」(マクロン大統領、パリ協定)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。



第436回の今日はこの言葉です。
“There's no plan B.”

「代替案(プランB)はない」
という意味です。
これはフランスの大統領エマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron, 1977-)の言葉です。
「プランB」とは、もともとの計画(プランA)に対する代替案のことです。気候変動を抑制する国際的な取り決めとして2015年12月に採択されたパリ協定(Paris Agreement)について、代替案はなくこれを推進するしかないということです。

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エマニュエル・マクロン(2017年撮影)
Kremlin.ru [CC BY 4.0], via Wikimedia Commons

パリ協定とは、1997年に採択された京都議定書(Kyoto Protocol)以来、18年ぶりとなる地球温暖化対策の国際的なルールです。気候変動枠組条約UNFCCC: United Nations Framework Convention on Climate Change)に加盟する全196カ国全てが参加する枠組みとしては世界初。2015年12月にパリで開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議COP21: 21st Conference of the Parties)で採択されました。UNFCCに加盟していないのは内戦が続くシリアと、より厳しい基準を求めるニカラグアだけです。

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COP21に集った各国首脳たち(2015年撮影)
By Presidencia de la República Mexicana [CC BY 2.0], via Wikimedia Commons

近年、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス(greenhouse gas)の増加による地球温暖化(Global Warming)が問題視されています。石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料(fossil fuels)の燃焼などにより二酸化炭素の放出が地球規模で増加しているからです。前回ご紹介したアメリカの元副大統領アル・ゴア(Al Gore)が出演したノンフィクション映画『不都合な真実(Inconvenient Truth)』(2006年アメリカ)も、地球温暖化の危機に警鐘を鳴らしたものです。温暖化だけでなく、「核の冬(Nuclear Winter)」といった寒冷化も防がなければいけませんから、一般的にこの問題は「気候変動(Climate Change)」と呼ばれます。


【動画】“An Inconvenient Truth TRAILER | MoMA Film (『不都合な真実』予告編 | MoMA)”, by The Museum of Modern Art, YouTube, 2008/01/29

気候変動を食い止めるため、1992年にブラジルのリオデジャネイロで環境と開発に関する国際連合会議(UNCED: United Nations Conference on Environment and Development)が行われます。いわゆる「地球サミット(Earth Summit)」です。この会議で気候変動枠組み条約(UNFCCC)が採択され、各国が署名します。これにより、先進国は2000年までに温室効果ガスを1990年レベルまでに戻すという努力目標が示されます。しかしこれは努力目標にすぎず、具体的な拘束力はありません。

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リオデジャネイロ(2011年撮影)
By Rafael Rabello de Barros (Own work) [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

そこで1997年、具体的な枠組みを定める第3回気候変動枠組条約締約国会議
(COP3)
が京都で行われます。この会議で採択されたのが「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」、いわゆる京都議定書(Kyoto Protocol)です。京都議定書では、2012年までに温室効果ガスの排出量を1990年の段階からEUは15ヶ国で8%削減、アメリカは7%削減、日本やカナダは6%削減という目標が定められます。達成できなかった場合の罰則規定や、排出量枠を金銭で取引できるという規定も設けられます。
この目標は一見、EUが厳しくて日本が楽な目標に見えます。しかし今のEU諸国は、1990年当時には社会主義国だった東ドイツやチェコ、スロバキア、ルーマニア、バルト三国などを多く含んでいます。旧社会主義国はその後相次いで民主化した際に古くてエネルギー効率の悪い工場を閉鎖したため、8%削減なんて何もしなくても楽勝で達成できるのです。



一方の日本は1990年の段階でも省エネの技術がかなり進んでいたため、「固く絞ったぞうきんをさらに絞る」必要があります。以前から化石燃料の使用量を減らしてきた北欧諸国などはその努力が評価され、例えばスウェーデンはプラス4%の増加が認められます。しかし日本は省エネの努力も認められず、マイナス6%に決まってしまいます。分が悪いと見たアメリカは批准を見送り、カナダも離脱します。これにより、京都議定書ではほぼ日本だけが負担を背負い込む形となってしまいます。これは外交的な敗北と言わざるを得ません。
この条約の発効には55ヶ国が批准して全世界の排出量55%を超える必要があり、なかなか発効しませんでした。しかし2004年にロシアが批准して発効条件を満たしたため、2005年2月から京都議定書が発効することになります。しかも発効が遅れたため、より短時間で目標を達成しなければならなります。ちなみにロシアの目標値は旧ソ連時代の1990年と比較してプラスマイナス0%というゆるいものです。

0436-kyoto_protocol_participation_map_2010.png
2010年時点の各国の京都議定書への参加状況
濃い緑:数値目標付きの批准
薄い緑:数値目標なしの批准
薄い赤:批准せず(アメリカ)
濃い赤:脱退(カナダ)
By Kyoto_Protocol_participation_map_2009.png: *Kyoto_Protocol_participation_map_2009.png: Users Emturan on en.wikipedia derivative work: Emturan (talk) derivative work: ELEKHHT (Kyoto_Protocol_participation_map_2009.png) [CC-BY-SA-3.0 or GFDL], via Wikimedia Commons

日本はそれでも律儀に頑張ります。政府が「チーム・マイナス6%」というプロジェクトを立ち上げ、職場や家庭の冷暖房温度の変更アイドリングストップの奨励、エコポイントによるエコ商品の推奨、エコバック導入による過剰包装の削減、クールビズウォームビズの導入、原子力発電や風力発電、太陽光発電の推進などです。この当時は原発はクリーンエネルギーの一つととらえられています。
不可能に思えた努力目標ですが、これらの取り組みにより2008年、2009年と10%台の削減が続きます。そしてこのまま順調に行けばマイナス6%の目標は達成できるかに思われます。このあたりの日本の努力と実行力はすごいと思います。



そんな中、2011年3月に東日本大震災が発生します。福島第一原発の事故を受けて日本中の原発が停止します。その結果、温室効果ガスの排出量は再び増加に転じます。
結局、日本は京都議定書の第一約束期間(2008〜2012年)での温室効果ガス排出量はプラス1.4%の増加で終わります。排出量枠は各国間で金銭的に取引できる規定となっていましたので、日本は排出量枠を購入して「マイナス6%」を達成します。日本の血のにじむような努力は残念ながら身を結ばず、結果的にお金だけで解決したような形になってしまいます。
京都議定書の第二約束期間(2013〜2020年)でも各国が努力目標を設定します。しかしこれに懲りた日本はロシアやニュージーランドと共に数値目標を設定せずに終わります。



いろいろな問題があるように見えた京都議定書ですが、各国が目標を定めて努力した画期的な試みでした。
しかし、最大の排出国だったアメリカや、急速な経済成長によりその後アメリカを抜いて最大の排出国となった中国が参加していません。そこで各国はその後も世界的な気候変動対策を話し合ってきました。
そして2015年、パリで開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議COP21: 21st Conference of the Parties)でパリ協定(Paris Agreement)が採択されます。COP21の開催時に象徴的に使われた言葉が、
“No plan B”
「代替案はない」
です。当時の国連の事務総長だった潘基文パン・ギムン(Ban Ki-moon)もこの言葉を使います。パリのエッフェル塔にもこの言葉が浮かびあがります。


【動画】“Eiffel Tower lights up with ‘no plan B’ warning for Paris climate talks (エッフェル塔がパリ気候会議へ向けて「代替案はない」という警告でライトアップ)”, by EarthWorldSolutions, YouTube, 2017/06/01

パリ協定は、先進国だけでなく、UNFCCC加盟国すべてが参加する初めての国際的な枠組みです。前回参加しなかった中国とアメリカとインドも参加するのが大きな前進です。なにしろ2014年での排出量は中国が世界の28%、アメリカが16%、インドが8%とワースト3で、この3国だけで世界の排出量の半分を占めているからです。
パリ協定では「産業革命前からの世界の平均気温上昇を1.5度未満におさえる」という数値目標が定められ、各国がそれぞれ温室効果ガス削減値の目標と達成手段を検討するという形になります。

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孫娘をともなってパリ協定に批准の署名をするアメリカのケリー国務長官
(2016年4月撮影)
By U.S. Department of State from United States [Public domain], via Wikimedia Commons

しかし、つい先日の2016年6月1日、アメリカのドナルド・トランプ大統領(Donald Trump)が、アメリカがパリ協定から離脱することを突然表明します。
“In order to fulfill my solemn duty to protect the United States and its citizens, the United States will withdraw from the Paris climate accord.”
「アメリカとその市民を守るという私の厳粛な義務を果たすために、アメリカはパリ気候協定から脱退します」
トランプ大統領は続けます。
“The bottom line is that the Paris accord is very unfair at the highest level to the United States.”
「要するに、パリ協定はどんなにうまくいってもアメリカに対して不当に不利なのです」
このニュースは世界に衝撃を与えます。世界のほぼすべての国が参加すると期待された枠組みから、世界第2位の温室効果ガス排出国が脱退したのです。


【動画】“Trump decides to withdraw from the Paris climate agreement (トランプがパリ気候協定からの脱退を決める)”, by Washington Post, YouTube, 2017/06/01

この発表に先立ち、トランプは自身のツイッターで、パリ協定に関する決定を発表するとツイートします。
“I will be announcing my decision on the Paris Accord over the next few days. MAKE AMERICA GREAT AGAIN!”
「この数日のうちに私はパリ協定に関する決断を発表します。再びアメリカを偉大にしよう!」

【twitter】“I will be announcing my decision on the Paris Accord over the next few days. MAKE AMERICA GREAT AGAIN!”, by Donald J. Trump‏, @realDonaldTrump, twitter, May 31, 2017

トランプが結びに使った
“MAKE AMERICA GREAT AGAIN!”
という言葉は、大統領選以来のトランプのキャッチフレーズです。
ことあるごとにトランプはこの言葉を使ってきました。

0436-trump-pence_2016.png
トランプとペンスの選挙用ロゴマーク
By Original: Trump campaign Vector: 0xF8E8 (Trump-Pence 2016.png from www.donaldjtrump.com.) [Public domain], via Wikimedia Commons

このトランプの決断に、アメリカ国内と世界各国から多くの非難の声が上がります。
フランスのマクロン大統領は、大統領官邸から英語とフランス語でテレビ演説を行います。
“I do respect this decision but I do think it is an actual mistake both for the US and for our planet.”
「私はこの決定を尊重します。しかし、これはアメリカにとっても我々の惑星にとっても過ちそのものです」
とマクロンは語ります。そしてマクロンは次のように結びます。
“Make our planet great again.”
「我々の惑星を再び偉大にしましょう。」
これは明らかにトランプのキャッチフレーズを皮肉った言葉です。


【動画】“France's Macron Tells President Trump Paris Accord NOT Renegotiable (FULL) (フランスのマクロンがトランプ大統領にパリ協定は再交渉できないと告げる(全文))”, by President Trump, YouTube, 2017/06/01

マクロンはその後フランス語でもスピーチを行います。こちらは少し長いスピーチです。
フランス語でマクロンは次のような言葉を口にします。
“Sur le climat il n'y a pas de plan B car il n'y a pas de planète B.”
(サ・レ・クリマ、イニヤ・・ドゥ・プラン・べ、カリニヤ・・ドゥ・プラネット・べ)
英語にすると、
“On climate, there's no plan B, because there's no planet B.”
「気候については代替案(プランB)はない。第2の地球(プラネットB)がないのだから」
となります。


【twitter】“気象変動会議COP21、エッフェル塔に掲げられたスローガン「NO PLAN B」”, by ゆきまさかずよし @Kyukimasa, twitter, 2015年12月12日

ところで、日本はパリ協定よりもTPP(Trans-Pacific Partnership、環太平洋パートナーシップ協定)の審議を優先して時間をかけたため、パリ協定の批准は期限の2016年10月19日から大きく遅れ、11月7日からモロッコのマラケシュで開催された第22回気候変動枠組条約締約国会議(COP22)の開幕にも間に合わず、11月8日に衆議院で承認され、同日に批准されます。これにより日本はCOP22でのパリ協定第1回締約国会合(CMA1)には議決権のないオブザーバー参加となってしまいます。
そして肝心のTPPも、2017年1月にアメリカ大統領に就任したドナルド・トランプの鶴の一声でアメリカの不参加が決定し、TPP自体が発効されない可能性も出てきています。


【動画】“Trump Signs Executive Order to Withdraw From TPP (トランプがTPP離脱の大統領令に署名)”, by Associated Press, YouTube, 2017/01/23

“There's no plan B.”

代替案(プランB)はない。
トランプ大統領の独断でパリ協定から簡単に脱退したアメリカ。
パリ協定は代替案のない状態でアメリカ抜きでやっていけるのでしょうか。
そして批准が遅れたためパリ協定に出遅れた日本。オブザーバー参加でのスタートとなりました。
京都議定書に続き、日本はまた無理難題を押しつけられるのでしょうか。
それでも気候変動対策はやらなければいけません。
マクロン大統領が言っているように、代替案はないのですから。
第2の地球はないのですから。


【動画】“Macron Reacts To President Trump Paris Climate Agreement Pull Out (FULL) (マクロンがトランプ大統領のパリ協定離脱に反応(全文))”, by Donald Trump, YouTube, 2017/06/01

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第435回:“It is your time to seize this issue.” ―「今こそこの問題をあなたが終わらせる時です」(アル・ゴア『不都合な真実』より), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2017年06月06日
【関連記事】第282回:“It is 3 minutes to midnight.” ―「人類滅亡まであと3分」(世界終末時計), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年02月06日
【関連記事】第285回:“You're fired!” ―「お前はクビだ!」 (ドナルド・トランプ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年02月20日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“京都議定書はなぜ失敗したのか【言論アリーナ報告】”, by GEPR編集部, GEPR: Global Energy Policy Research, Agora Incorporated, 2015年06月08日
【参考】“日本のCO2削減目標6%、国連に認められる 排出増えるもクレジット購入で達成”, 環境ビジネスオンライン, 日本ビジネス出版, 2016年4月6日
【参考】“COP21 全員参加の枠組み優先 パリ協定採択”, 毎日新聞, 2015年12月14日
【参考】“京都議定書からパリ協定へ… 温暖化対策なにが変わったのか?”, 月刊ジュニアエラ 2017年5月号より, 2017/4/26
【参考】“TPP審議してたら出遅れちゃった!?「パリ協定」とは?”, 文: 斎藤雅史/編集:佐藤拓也, SEALDsPost, December.06.2016
【参考】“パート1 地球温暖化対策の新たなステージ”, by 環境省, 平成28年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書, 2016年
【参考】“地球規模の環境問題 T 地球温暖化”, by 東京都教育委員会, くらしと環境 学習Web, 中高生向け 学習のページ
【参考】“温暖化ガスを削減する新たな国際条約「パリ協定」とは ―京都議定書とはどこが違うのか―”, by 高村 ゆかり (名古屋大学大学院環境学研究科 教授), 国民生活, 2016.4
【参考】“Paris Agreement: Macron joins world leaders in vowing to 'make planet great again' after Trump quits climate accord (パリ協定:マクロンがトランプの気候協定離脱をうけて「地球を再び偉大にしよう」と誓って世界のリーダーへ仲間入り)”, by Alexandra Wilts, INDEPENDENT, 1 June 2017
【参考】“仏マクロン大統領「地球BはないのだからプランBもない」 トランプ氏の「パリ協定」離脱表明を批判”, by Alexandre Boudet, The Huffington Post, 2017年06月05日

【twitter】“I will be announcing my decision on the Paris Accord over the next few days. MAKE AMERICA GREAT AGAIN!”, by Donald J. Trump‏, @realDonaldTrump, twitter, May 31, 2017
【twitter】“気象変動会議COP21、エッフェル塔に掲げられたスローガン「NO PLAN B」”, by ゆきまさかずよし @Kyukimasa, twitter, 2015年12月12日

【動画】“An Inconvenient Truth TRAILER | MoMA Film (『不都合な真実』予告編 | MoMA)”, by The Museum of Modern Art, YouTube, 2008/01/29
【動画】“Trump decides to withdraw from the Paris climate agreement (トランプがパリ気候協定からの脱退を決める)”, by Washington Post, YouTube, 2017/06/01
【動画】“France's Macron Tells President Trump Paris Accord NOT Renegotiable (FULL) (フランスのマクロンがトランプ大統領にパリ協定は再交渉できないと告げる(全文))”, by President Trump, YouTube, 2017/06/01
【動画】“Trump Signs Executive Order to Withdraw From TPP (トランプがTPP離脱の大統領令に署名)”, by Associated Press, YouTube, 2017/01/23
【動画】“Macron Reacts To President Trump Paris Climate Agreement Pull Out (FULL) (マクロンがトランプ大統領のパリ協定離脱に反応(全文))”, by Donald Trump, YouTube, 2017/06/01

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posted by ジム佐伯 at 07:00 | ロンドン ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 標語・標識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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