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2017年09月22日

第462回:“Fill your paper with the breathings of your heart.” ―「心の息吹で紙を埋めよう」(ワーズワース)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。



第462回の今日はこの言葉です。
“Fill your paper with the breathings of your heart.”

「心の息吹で紙を埋めよう」
という意味です。
これはイギリスの詩人ウィリアム・ワーズワース(Sir William Wordsworth, 1770-1850)の言葉です。日本語では「ワーズワス」とも表記されます。
ロマン派の詩人で、純朴にして情熱を秘めた自然讃美の詩の数々で有名です。

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ウィリアム・ワーズワース(1798年の肖像画)
By William Shuter. (Division of Rare & Manuscript Collections) [Public domain], via Wikimedia Commons

ウィリアム・ワーズワースは1770年、イングランド北西部の湖水地方(Lake District)にあるコッカマス(Cockermouth)という町に生まれます。法律家だった父親は地元の貴族の顧問弁護士をしていて、一家は貴族の持ち家を借りて暮らします。コッカマスではひときわ大きな家です。父親は仕事で留守がちでしたが、読書好きのウィリアムに書斎を自由に使わせて、ジョン・ミルトン(John Milton)やウィリアム・シェークスピア(William Shakespeare)、エドマンド・スペンサー(Edmund Spenser)などの詩を読ませます。

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ワーズワースの生家(2015年撮影)
Photograph by Mike Peel. [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons

ウィリアムは8歳の頃に母を亡くし、父親は娘ドロシーを親戚に預けて息子たちをホークスヘッド(Hawkshead)という湖水地方中部の小さな村のグラマースクールに通わせます。この学校に寮はなく、ウィリアムは近くの民家に下宿したそうです。ウィリアムが13歳の頃に父も亡くなって叔父が後見人になりますが、その後もホークスヘッドで勉学を続けます。このようにウィリアムの孤独で寂しい少年時代を送りますが、湖水地方の自然の美しさが彼の心の慰めとなります。詩を書くのが好きで、学校の校長先生からも才能を高く見込まれたウィリアムは、自分が将来進むべき道は「詩人」だとはっきり自覚するようになります。

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ワーズワースが通ったホークスヘッド・グラマースクール(2009年撮影)
Paul Shreeve [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons

ワーズワースは17歳の時、イギリスの総合文芸雑誌『ユーロピアン・マガジン(European Magazine)』にソネットを投稿して詩人デビューを飾ります。
同じ年、ワーズワースはケンブリッジ大学(University of Cambridge)のセント・ジョンズ・カレッジ(St John's College)に入学します。夏季休暇にはホークスヘッドに「帰省」し、丘や湖畔を歩き回って美しい風景を楽しみます。また20歳の時にヨーロッパを徒歩旅行し、フランス革命下のパリやアルプスの山々を歩いて回ります。

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ワーズワースがグラマースクール卒業後も「帰省」したホークスヘッド(2006年撮影)
By User: (WT-shared) Sjbutterworth at wts wikivoyage [CC BY-SA 1.0], via Wikimedia Commons

21歳の頃に大学を卒業したワーズワースは語学の勉強などのためにパリへ渡ります。1791年のことです。
時はフランス革命(French Revolution)の真っただ中。ワーズワースは共和派の思想に共鳴して革命を支持します。しかし革命の名のもとに民衆が行った九月虐殺(September Massacres)や、それに続く恐怖政治(Reign of Terror)などを見て革命に幻滅します。
またこの頃ワーズワースはアネット・ヴァロン(Annette Vallon)というフランス人女性と知り合って恋に落ち、女児が生まれます。しかし英仏の関係悪化や経済的理由、恐怖政治の混乱などにより、1793年にワーズワースは結婚できないままアネットと生き別れとなり、一人でイギリスに帰国します。

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ギロチンで処刑される王妃マリー・アントワネット(1793年10月)
By Unknown [Public domain], via Wikimedia Commons

1795年、ワーズワースは詩人のサミュエル・テイラー・コールリッジ(Samuel Taylor Coleridge)と出会い、たちまち意気投合して親友となります。
をして1798年、ワーズワースとコールリッジは共著で『リリカル・バラッズ(Lyrical Ballads)』という詩集を発表します。ワーズワースが28歳、コールリッジが26歳の頃です。
この詩集、日本語では『抒情歌謡集』などという堅苦しい名前がついています。しかし内容は決して堅苦しくなんかありません。
アレクサンダー・ポープ(Alexander Pope)などによる従来の詩こそ様式にとらわれた堅苦しいものでしたが、ワーズワースとコールリッジは実験的な試みとして人の心情をありのままに描いた、まさに「リリカル(叙情的)」な詩を発表します。これがイギリスの詩の流れを変えるロマン主義運動の先駆けとなり、バイロンシェリーキーツなどへつながっていくのです。

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サミュエル・テイラー・コールリッジ(1795年の肖像画)
Pieter van Dyke [Public domain], via Wikimedia Commons

『リリカル・バラッズ』の冒頭の詩『発想の転換を(THE TABLES TURNED)』で、ワーズワースはこう詠んでいます。
“Come forth into the light of things,
 Let Nature be your teacher.”


「万象の光輝く世界に出てくるがよい。
 そして、自然を師とせよ」
そう。ワーズワースにとって自然は単なる鑑賞の対象ではなく、人間や善悪についてを教えてくれる先生でもあるのです。



ワーズワースは『リリカル・バラッズ』の発表後に妹ドロシーと共にドイツへ渡り、1799年に帰国してその年の暮れから湖水地方のグラスミア湖のほとりに家を借りて住み始めます。ワーズワースは家を『ダヴ・コテージ(Dove Cottage)』と名付け、妹のドロシーと暮らし始めます。
1800年、ワーズワースは2巻からなる『リリカル・バラッズ』の第2版を発表します。2年前の初版の詩集にワーズワスが詩を論じる長い序文をつけて第1巻とし、ワーズワースの新作を第2巻にまとめたものです。
この『序文(PREFACE)』で、ワーズワースは次のように語っています。
“For all good poetry is the spontaneous overflow of powerful feelings”

「良い詩とは何といっても強い感情の自然な発露だ」
ロマン派の詩をずばりと定義した一節だと思います。

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ダヴ・コテージ(2005年撮影)
Christine Hasman [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons

ワーズワースの親友コールリッジもドイツに滞在していましたが、帰国して湖水地方の北部のケズィック(Keswick)という町に住み始め、ワーズワースとの交流を再開します。ワーズワースは以前からケズィックに住んでいた詩人ロバート・サウジー(Robert Southey)とも交流を深めます。
ワーズワースとコールリッジ、サウジーらは人々から「湖水詩人(Lake Poets)」と呼ばれるようになります。

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ロバート・サウジー(1800年の肖像画)
John James Masquerier [Public domain], via Wikimedia Commons

1802年、ワーズワースは妹のドロシーとフランスへ渡り、かつての恋人アネットと再会して娘カロリーヌ(Caroline)と初対面します。カロリーヌは9歳になっています。この後もワーズワースは二人に経済的援助を続けます。
イギリスに戻ったワーズワースは、幼なじみのメアリー・ハチンソン(Mary Hutchinson)と結婚します。32歳の頃のことです。ワーズワースとメアリーは、ドロシーと共にダヴ・コテージで暮らします。1年後、息子のジョンが生まれます。
後にワーズワースが妻へ宛てた手紙に記したのがこの言葉です。
“Fill your paper with the breathings of your heart.”

「心の息吹で紙を埋めよう」
ワーズワースの詩をよく表した言葉だと思います。手紙なので表現も難しくなくてよいですね。ワーズワースが42歳の頃の言葉です。



1807年、ワーズワースは上下2巻の『詩集(Poems)』を発表します。この作品でワーズワースはロマン派の自然詩人としての名声を不動のものとします。37歳の頃のことです。
この詩集に収録されている『雲のように孤独に(I Wandered Lonely as a Cloud)』という詩は、別名『水仙(Daffodils)』としても知られています。
“When all at once I saw a crowd,
 A host of golden daffodils”


「と、いきなりぼくの目にとびこんできたのは、
 群れをなし金色に咲きほこる黄水仙たち。」
湖のほとりや樹々の下で風にはためき踊り狂うその姿は、雲のようにさまよっていたワーズワースの孤独な心にも喜びをあふれさせます。


【動画】“I Wandered Lonely As a Cloud by William Wordsworth: Daffodils - Poems for Kids, FreeSchool (『雲のように孤独に』ウィリアム・ワーズワース:『水仙』 - 子供の詩集、フリースクール)”, by Free School, YouTube, 2015/01/19

1843年にワーズワースは「ポエット・ローリイット(poet laureate)」という「桂冠詩人」の称号を授与されます。
そして1850年にワーズワースは亡くなります。80歳でした。
その数か月後、未亡人メアリーの手によって、自伝的な作品『序曲(The Prelude)』が発表されます。ワーズワースがドイツ時代から書き始めた作品です。

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晩年のワーズワース(1842年の肖像画)
Benjamin Haydon [Public domain], via Wikimedia Commons

“Fill your paper with the breathings of your heart.”
心の息吹で紙を埋めよう。

湖水地方と自然をこよなく愛したワーズワース。
心からあふれ出る言葉で900編を超える素晴らしい詩を残しました。
春のイギリスでは、野原や花壇でいろいろな種類の水仙が咲き誇って春を告げます。
ワーズワースの心を喜びで満たした可憐な姿は、今でもイギリスの人々の心を温めているのです。


【動画】“Introduction to William Wordsworth (ワーズワース入門)”, by Providence eLearning, YouTube, 2012/07/18

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第16回:“Hope springs eternal.”―「希望の泉は枯れず」(アレキサンダー・ポープ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年05月08日
【関連記事】第87回:“To err is human.”―「過ちは人の常」(ことわざ、アレキサンダー・ポープほか), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年09月07日
【関連記事】第109回:“Love will find a way.”―「愛に不可能はない」(ことわざ、バイロンほか), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年10月15日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“ウィリアム・ワーズワース:生涯と作品”, by 壺齋散人(引地博信)さん, English Poetry and Literature
【参考】“湖水地方3(ワーズワース詩集1)”, by kokoさん, イギリス旅行記, 坊ちゃん便り
【参考】“第8回 ウィリアム・ワーズワース”, by 拓隼人, この言葉 名言に想う, 英国ニュースダイジェスト, 08 April 2017
【参考】“黄水仙に献げる詩”, by ケペル先生, ケペル先生のブログ, 2007年10月 9日

【動画】“Introduction to William Wordsworth (ワーズワース入門)”, by Providence eLearning, YouTube, 2012/07/18



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posted by ジム佐伯 at 07:00 | ロンドン ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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