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2017年05月13日

第429回:“It's the blue bird!” ―「青い鳥だ!」(ミチル)(メーテルリンク『青い鳥』より)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。



第429回の今日はこの言葉です。
“It's the blue bird!”

「青い鳥だ!」
という意味です。
これはベルギーの詩人で劇作家でもあったモーリス・メーテルリンク(Maurice Maeterlinck, 1862-1949)が書いた童話劇『青い鳥(The Blue Bird)』に出てくる言葉です。
主人公の一人ミチル(Mytyl)がクライマックスで発する言葉ですが、ぎりぎりネタばれにならないセリフだと思いますのでご紹介します。
何羽でもいる普通の青色の鳥なら、
“It's a blue bird!”
でよいのですが、「幸せの青い鳥」は一羽しかいない特別の存在ですので、“the”がついて
“It's the blue bird!”
となります。

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モーリス・メーテルリンク(1903年以前撮影)
By Unknown [Public domain], via Wikimedia Commons

モーリス・メーテルリンクは1862年にベルギーのヘント(Ghent)という街に生まれます。両親はフランス語を話す裕福なフラマン人で、敬虔なカトリック教徒でした。モーリスはイエズス会の高校に入り、詩や短編小説を制作します。ヘント大学で法律を学んだモーリスはパリへ移り住み、象徴主義(Symbolism)という芸術や文学における活動の活動家たちと出会い、影響を受けます。

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ヘントの街並(2005年撮影)
Zeledi at the English language Wikipedia [GFDL or CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons

メーテルリンクは1889年に最初の戯曲『マレーヌ姫('La princesse Maleine / 英題 : Princess Maleine)』を書き上げ、フィガロ紙(Le Figaro)に高く評価されて有名になります。27歳の頃です。
その後、『闖入者(L'Intruse / Intruder)』(1890年)、『盲目者(三人の盲いた娘たち)(Les Aveugles / The Blind)』(1890年)、『ペレアスとメリザンド(Pelléas et Mélisande / Pelléas and Mélisande)』(1892年)を立て続けに発表します。いずれも宿命論(Fatalism)と神秘主義(Mysticism)に基づいた象徴主義的な作品です。

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39歳の頃のメーテルリンク(1901年撮影)
By Unknown [Public domain], via Wikimedia Commons

1895年、33歳のメーテルリンクは高名なオペラ歌手で人妻だったジョルジェット・ルブラン(Georgette Leblanc)とブリュッセルで出会って恋に落ち、パリで同棲を始めます。ジョルジェット・ルブランの兄はフランスの作家モーリス・ルブラン(Maurice Leblanc)。怪盗紳士アルセーヌ・ルパン(Arsène Lupin)のシリーズを執筆したあのルブランです。
メーテルリンクは彼女のために何本も戯曲を制作し、ジョルジェットは舞台で数々のヒロインを演じます。ジョルジェットには文才もあり、メーテルリンクは彼女の文章から着想を得たものを自分の作品にしばしば使ったそうです。

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ジョルジェット・ルブラン(1902年撮影)
メーテルリンクが書いた『モンナ・ヴァンナ(Monna Vanna)』の舞台にて
By Merker Berlin (Own work (Eigenes Bild)) [Public domain], via Wikimedia Commons

1908年、メーテルリンクは童話劇『青い鳥(The Blue Bird)』を発表します。
フランス語原題は“L'Oiseau bleu(ルエズ・ブルー)”です。「死と生命の意味」を主題とした深い話で、世界中で上演されて高く評価され、メーテルリンクの名声を不動のものとします。
1911年、メーテルリンクはノーベル文学賞(Nobel Prize for Literature)を受賞します。メーテルリンクが49歳の頃です。
受賞理由は、
“in appreciation of his many-sided literary activities, and especially of his dramatic works, which are distinguished by a wealth of imagination and by a poetic fancy, which reveals, sometimes in the guise of a fairy tale, a deep inspiration, while in a mysterious way they appeal to the readers' own feelings and stimulate their imaginations”
「多岐にわたる文学活動、特に戯曲の数々を評価して。豊かな想像力と詩的な空想は、時に御伽話の形を装いながらも、それぞれの作品が神秘的な方法で読者ひとりひとりの感性に訴え想像力を刺激する間、深い創造的発想を明らかにする。」
とのことです。

0429-maurice_maeterlinck_1911.jpg
49歳の頃のメーテルリンク(1911年撮影)
(ノーベル賞公式肖像写真)
By Nobel Foundation [Public domain], via Wikimedia Commons

『青い鳥』の物語の舞台はとある貧しい木こりの家。主人公は少年のチルチル(Tyltyl)と妹の少女ミチル(Mytyl)。クリスマスイブに二人は通りを隔てた近所の裕福な家のパーティーを眺めています。貧しい二人はそれをただ眺めることしかできません。
そこへ現れたのが隣りのおばさんに似ている魔法使い。魔法使いは病気の娘を助けるために「幸せの青い鳥」を探して欲しいと二人に頼みます。チルチルとミチルは魔法使いに不思議な力を持つ帽子を渡されて、青い鳥を探しに旅立つのです。

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『青い鳥』の冒頭のシーン(1910年撮影)
ニューヨークのブロードウェイの舞台にて
By Internet Archive Book Images [No restrictions], via Wikimedia Commons

チルチルとミチルが訪れるのは「記憶の国(The Land of Memory)」や「夜の国(The Palace of Night)」「森の国(The Forest)」「幸福の国(The Palace of Happiness)」「墓の国(The Graveyard)」「未来の国(Kingdom of the Future)」。二人はさまざまな冒険をしながら青い鳥を探します。そして何度も青い鳥を見つけますが、捕まえられなかったり捕まえた後に色が変わってしまったり死んでしまったりと、なかなか思うようにいきません。
青い鳥は幸せの象徴。幸せは確かになかなか思うようにつかまえることができませんよね。

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『青い鳥』の主人公たち(1908年頃撮影)
モスクワ芸術座(Moscow Art Theatre)の舞台にて
By Karl Fischer (Фишер, Карл Андреевич) (http://www.gazeta.lv/story/11970.html) [Public domain], via Wikimedia Commons

『青い鳥』はモノクロの無声映画時代から何度も映画化されます。
そして1940年には、大ヒットした『オズの魔法使い(The Wizard of Oz)』(1939年)に対抗して、大スター子役のシャーリー・テンプル(Shirley Temple)をミチル役に起用した映画が制作されます。
また、1976年には母親と光の精の役にエリザベス・テイラー(Elizabeth Taylor)、夜の女王の役にジェーン・フォンダ(Jane Fonda)といった大物スター女優を惜しみなく投入した映画も公開されます。当時のソ連の現役バレリーナやバレエ関連スタッフも参加した、バレエ要素の大きな異色のミュージカル映画です。
両作品とも巨額の予算をかけた大作でしたが、いずれも興行的には赤字に終わります。


【動画】“Elizabeth Taylor singing (歌うエリザベス・テイラー)”, by Georgina Beasley, YouTube, 2015/12/14

ところで、幸せの象徴として描かれている「青い鳥」、実際にも見つけることはなかなかできませんよね。
青い鳥として日本でおなじみなのはカワセミ(kingfisher)です。アメリカでおなじみなのはルリツグミ(bluebird)です。ルリツグミはそのものズバリの“bluebird”という英語名がついています。しかしどちらもおなかがオレンジ色なので、これが「青い鳥」だと言い切るのには無理があります。
僕は青い鳥のイメージに一番近いのは、ルリツグミの一種であるムジルリツグミ(mountain bluebird)だと思います。北米大陸のロッキー山脈で見られる野鳥で、全身が真っ青で宝石のように美しい野鳥です。チルチルとミチルも青い鳥をロッキー山脈に探しに行ったらよかったかもしれません。

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カワセミ(2012年撮影)
By FokusNatur (Own work) [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

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ルリツグミ(2007年撮影)
By Ken Thomas (KenThomas.us (personal website of photographer)) [Public domain], via Wikimedia Commons

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ムジルリツグミ(2006年撮影)
By Elaine R. Wilson (NaturesPicsOnline) [CC BY-SA 2.5], via Wikimedia Commons

話をメーテルリンクに戻します。
1914年、当時は永世中立国だったベルギーにドイツ軍が侵攻します。第一次世界大戦(World War I)の勃発です。メーテルリンクは祖国解放のためフランス外人部隊(French Foreign Legion)で戦うために入隊を申し込みますが、当時52歳という年齢のため許可されません。結局メーテルリンクはパリからニース郊外の別荘に移り住んで創作活動を続けます。
1919年、メーテルリンクは公私とも長年のパートナーだったジョルジェット・ルブランと別れ、女優のルネ・ダオン(Renée Dahon)と結婚して一緒にアメリカへ移住します。

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ルネ・ダオン(1910年撮影)
By The Review of Reviews Company [Public domain], via Wikimedia Commons

その後メーテルリンクは戯曲の執筆から遠ざかり、エッセイを好んで書くようになります。
1930年にメーテルリンクはフランスへ戻り、ニースで買い取った城で暮らすようになります。
1932年にはベルギー国王アルバート1世(Albert I)から伯爵位を叙爵され、メーテルリンク伯となります。
1939年、ドイツ軍がポーランドに侵攻して第二次世界大戦(World War II)が勃発します。メーテルリンクはドイツ軍のベルギーとフランスへの侵攻から逃れてポルトガルのリスボンへ行き、そこから船でアメリカへ渡ります。
戦後メーテルリンクはニースへ戻り、1949年に亡くなります。86歳でした。
祖国を二度も理不尽に蹂躙したドイツには相当恨みをもっていたようで、遺言ではドイツとその同盟国だった日本には決して版権を渡さないように言い残しています。日本、とばっちりを食ってます。イタリア、いい感じにスルーされてます。

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63歳の頃のメーテルリンク(1925年撮影)
Agence de presse Meurisse [Public domain], via Wikimedia Commons

“It's the blue bird!”
青い鳥だ!

これは『青い鳥』の物語の終盤でミチルが叫んだ言葉です。
青い鳥を探して長い長い冒険を続けたチルチルとミチル。
二人はとうとう青い鳥を見つけることができたのです。
幸せの青い鳥は、いったいどこにいたのでしょうか。
二人にとっての幸せとは、いったいどこにあったのでしょうか。
それは作品をご覧になって下さい。


【動画】“ブルーバード - いきものがかり”, by high_note Music Lounge, YouTube, 2016/10/05

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第392回:“We won’t fire if you don’t.” ―「君らが撃たなければ僕らも撃たない」(第一次世界大戦でのクリスマス休戦), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年12月25日
【関連記事】第237回:“Here's looking at you, kid.”―「君の瞳に乾杯!」(『カサブランカ』), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2015年09月15日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“The Nobel Prize in Literature 1911(1911年ノーベル文学賞)”, Nobelprize.org
【参考】“メーテルリンク翻訳作品年表”, by 榊原貴教, ナダ出版センター
【参考】“The Blue Bird(青い鳥)”, by Bunthorne, Bunthorne's Person, Place, or Thing, 16th January 2012
【参考】“0068夜 モーリス・メーテルリンク 青い鳥”, by 松岡正剛, 松岡正剛の千夜千冊

【動画】“Elizabeth Taylor singing (歌うエリザベス・テイラー)”, by Georgina Beasley, YouTube, 2015/12/14
【動画】“ブルーバード - いきものがかり”, by high_note Music Lounge, YouTube, 2016/10/05

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posted by ジム佐伯 at 07:00 | ロンドン ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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