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2017年05月01日

第426回:“Who are you?” ―「お前は誰だ?」(森首相が言ったとされる言葉 ― 捏造ジョークより)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。



第426回の今日はこの言葉です。
“Who are you?”

「お前は誰だ?」
という意味です。
基本的な英語ですが、日常会話でもほとんど使われません。日本語でもそうですが、相手に面と向かって「お前は誰だ?」とたずねるのはとても失礼なことだからです。
これは日本の政治家でかつて内閣総理大臣だった森喜朗(Yoshiro Mori, 1937-)の言葉とされています。

0426-yoshiro_mori_cropped_2.jpg
森喜朗(2015年撮影)
By British photographer David Bailey British Embassy Tokyo / Alfie Goodrich UK in Japan- FCO [CC BY 2.0], via Wikimedia Commons

この言葉が話題となったのは、2000年7月に沖縄で主要8ヶ国とEUの首脳が集まった沖縄サミットの直後です。
『週刊文春』では「嘘みたいな本当の話」として、森首相のエピソードとして次のように報じています。
もっとも、わが総理に国際センスを望むのはムリというもの。五月の日米首脳会談の際クリントン大統領に"How are you?"(ご機嫌いかが)"Me, too."とだけ言うようにアドバイスされていたが、いざ会うや"Who are you?"「あなたは誰?」 とやってしまった。大統領が苦笑いしながらも、ユーモアなのか、と思い"I'm Hillary's husband."(ヒラリーの夫です)と答えると、森首相はなんと"Me, too."と答えた−。そんな英会話能力に恐れをなしたか、首脳夫人は一人も沖縄入りしないという異例のサミットとなった。
− 「蔵出し特集 嘘みたいな本当の話 サミットで首脳夫人にも嫌われた森喜朗首相の英会話」『週刊文春』2000年8月5日
首相の側近が事前に「こう言っておけば大丈夫です」と吹き込んでいた英会話が結果的に大惨事になってしまったという話です。



それにしてもいろいろとひどい話ですね。
もともと「こう言っておいてください」とアドバイスされていたとされる挨拶もなかなか怪しい英語で、特に“Me, too.”という答え方はあまり聞いたことがなく、一国の首相がアメリカ大統領に対して使う挨拶としてはなんともお粗末です。
しかしジョークとしてはなかなかよくできています。いかにも森首相が間違って言いそうな絶妙な真実味もありますし、戸惑ったクリントン大統領がジョークで返そうとしたのもいかにもありそうな話です。最後のオチも効いています。ちょうど「神の国」発言がもともとの文脈を無視されて広められ、森首相がマスコミに叩かれていた時期でもあり、マスコミによる恰好のバッシングの材料としても使われます。
僕がアメリカに住んでいたのはしばらく後のことですが、この話は主にアメリカ在住の日本人の間でよく耳にしたものです。でも話自体がジョークとして扱われており、僕も当時は単なるジョークだとばかり思っていました。

0426-bill_clinton.jpg
ビル・クリントン(1993年撮影)
By Bob McNeely, The White House[1] [Public domain], via Wikimedia Commons

もっとも、これは『週刊文春』が最初に報道したのではありません。
『週刊朝日』の取材記事によると、これを最初に報道したのは証券専門紙大手の『株式新聞』で、『フライデー』などの雑誌が続いたそうです。また『日刊ゲンダイ』は『週刊朝日』の取材に対して「アメリカのルートから聞いた、事実でしょう」と答えます。さらに情報誌『インサイドライン』の編集長だった歳川隆雄氏は外務省の知人からこの話を聞いたと語り、「外務省は隠している」としてその隠蔽体質を批判したそうです。
沖縄サミットの期間中の森首相の失言がゼロだったため、批判材料を得られず失望していたマスコミがこのネタに飛びついたようです。
【参考】中村真理子「森首相、クリントン大統領に「フー・アー・ユー」失言の真偽」『週刊朝日』2000年8月11日)



沖縄サミットで握手をする森首相とクリントン大統領(2000年)
Pool photo by Newsmakers, Source: Hulton Archive [Rights-managed], via Getty Images

これらの報道に対して、外務省はそのような事実はないと否定します。
『週刊朝日』が5月の日米首脳会談の現場に同行した外務省幹部に取材し、次のように報道します。
本来なら、私が個人的に話すべきではないのですが、噂が広がっているので特にお答えします。首相はこう挨拶しましたよ。『お忙しいところ、お会いしていただいてありがとう』。もちろん日本語です。
− 中村真理子「森首相、クリントン大統領に「フー・アー・ユー」失言の真偽」『週刊朝日』2000年8月11日
また森首相自身も、後のインタビューで
「いくら私が英語が得意でなくても、そんなこと言うわけがない。」
と語っています。
【参考】「マスコミとの387日戦争」『新潮45』2001年6月

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沖縄サミットでの各国首脳(2000年)
Kremlin.ru [CC BY 3.0 or CC BY 4.0], via Wikimedia Commons

森首相が退陣した後の2004年、事の真相が明らかになります。
実はこの話、毎日新聞の高畑昭男記者の創作だったのです。本人が次のように語っています。
これは元々お隣の韓国の金泳三(キム・ヨンサム)大統領が英語が苦手なのを皮肉ったジョークです。それをどこかで聞いて、外務省記者クラブで「これ森さんに替えても使えるよね」と言ったら、それがあっという間に広がってしまった。森ジョークは私が広めた張本人でございまして、森首相には申し訳ないとおもっております。これが実話のように新聞や週刊誌にも書かれて、一年くらい経った後でも、永六輔さんが講演をされた際に「これは本当にあった話だ」と話されたとか聞いております。
− 高畑昭男 「ブッシュ再選と今後の日米関係」『第141回琉球フォーラム』琉球新報社 2004年8月11日
いやー、これはひどいですね。
「創作」と言えば聞こえはいいですが、これではフェイクニュースです。もっと言うと「うそ」や「でっちあげ」、しかも森政権をバッシングするための悪意のある嘘です。もともとの金泳三氏のジョークも、あくまでジョークであって真実ではないと思います。
また、ジョークとして出た話なのに、裏も取らずに「本当の話」として報道するマスコミもいただけません。もっとも、そこはわざとなのかもしれませんが...。



金泳三大統領とクリントン大統領(1997年撮影)
By JOYCE NALTCHAYAN/AFP [Rights-managed], via Getty Images

“Who are you?”
お前は誰だ?

確かによくできたジョークです。しかしよくできた話は真実かどうかわかりません。
それでも話自体が面白いと、あっという間に広まってしまいます。言葉の一人歩きが始まるのです。
フェイスブックやツイッターなどのSNSが普及した現代ならなおさらでしょう。
いろんな話が「本当の話」としてタイムラインに流れてきますが、それを鵜呑みにしてシェアする前にいったん落ち着いて真実かどうかを疑ってみることも大事ですね。

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Image courtesy of Nutdanai Apikhomboonwaroot, published on 07 September 2012 / FreeDigitalPhotos.net

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第182回:“The Eskimos had fifty-two names for snow.” ―「エスキモーは雪をあらわす52の呼び名をもっていた」(マーガレット・アトウッド), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2014年02月16日
【関連記事】第360回:“Let them eat cake.” ―「お菓子を食べればいいじゃない」 (マリー・アントワネット), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年09月20日
【関連記事】第410回:“Pretty much every message that Trump put out was data-driven.” ―「トランプの言葉のほとんどは計算ずくだった」(アレクサンダー・ニックス), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2017年02月26日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“Farcical US / Japan Summit (ばかげた日米首脳会談)”, by Peter Martin, AM Archive - Monday, 19 March , 2001
【参考】「蔵出し特集 嘘みたいな本当の話 サミットで首脳夫人にも嫌われた森喜朗首相の英会話」『週刊文春』2000年8月5日
【参考】中村真理子「森首相、クリントン大統領に「フー・アー・ユー」失言の真偽」『週刊朝日』2000年8月11日)
【参考】「マスコミとの387日戦争」『新潮45』2001年6月
【参考】“Asia Buzz: Korean Kut-Up (アジアの話題:韓国の悩み)”, by Adi Ignatius, CNN, March 27, 2000

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posted by ジム佐伯 at 07:00 | ロンドン | Comment(0) | TrackBack(0) | 政治家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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