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2017年04月11日

第421回:“You have to do the same as Gaudi.” ―「ガウディと同じことをしなければいけない」(外尾悦郎)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。



第421回の今日はこの言葉です。
“You have to do the same as Gaudi.”

「ガウディと同じことをしなければいけない」
という意味です。
これは日本出身の彫刻家、外尾悦郎(Etsuro Sotoo, 1953-)の言葉です。スペインのバルセロナにあるサグラダ・ファミリア(Sagrada Família)の主任彫刻家として有名です。

Etsuro Sotoo - "Esencia Gaudí"
外尾悦郎(2010年撮影)
By UIC Barcelona via Flickr

外尾悦郎は1953年(昭和28年)に福岡市に生まれます。小さい頃から物を作ることが大好きで、粘土で何か作ったり絵を描いたりするのが楽しみだったそうです。自転車で知らない道のほうに曲がるのが好きで楽しくて、わざと迷子になって夕食までに家に帰れるかという遊びをしていたそうです。
外尾は京都市立芸術大学の彫刻科に入り、木から鉄を経て、素材として石を用いた芸術にたどり着きます。大学を卒業した外尾は、いくつかの高校で非常勤講師として働いた後、3ヶ月の予定でヨーロッパに旅立ちます。最初に向かったのはフランスですが、石造りの街が完成されすぎていてそこで石を彫る自分が想像できません。そこで外尾はドイツへ向かおうとしますが、寒い駅舎でふと暖かい陽光を浴びたくなって南のスペインへ向かう列車に飛び乗ります。ドイツ人と渡り合うためにはスペインで栄養をつけておかなければとも思ったそうです。1978年、外尾が25歳の時です。



当時のバルセロナはスペイン内戦の傷跡が残る田舎町。
夜遅くに真っ暗な駅前に立った外尾は、いい匂いに誘われてバルが雑然と立ち並ぶ飲食街へ向かいます。安くておいしい食べ物とワイン、そして人の温かさに触れた外尾はバルセロナへしばらく滞在することにします。
スペインは36年間の長きに渡ったフランコ独裁政権が終わったばかりで、外尾が訪れたまさにその年に憲法が制定されて民主化が達成されます。
翌日、外尾は町を散策し、石造りの教会の工事現場に行き当たります。工事現場には大きな石が積み上げられ、石を彫る槌音が鳴り響き、砂煙がもうもうと上がっています。トウモロコシのような4本の巨大な塔がぶっきらぼうに立っており、その正面には植物のような奇怪な装飾が異彩を放っています。
当時は無名の存在だったサグラダ・ファミリア(Sagrada Família, 聖家族教会)です。

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建設中のサグラダ・ファミリア(1980年撮影)
roadmap [CC BY 3.0], via Wikimedia Commons

サグラダ・ファミリアは1882年に着工された、すべて個人の寄付に依って建設される贖罪教会です。専任建築家はフランシスコ・ビリャール(Francisco Villar)でしたが計画主のサン・ホセ教会と意見が対立し、1年で辞任してしまいます。そこで任命されたのが当時31歳でまだ無名だったアントニ・ガウディ(Antoni Gaudí)です。敬虔なカトリック教徒だったガウディは設計を一から練り直し、生涯をかけてサグラダ・ファミリアの設計と建設に取り組むことになります。

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アントニ・ガウディ(1878年撮影)
Pau Audouard [Public domain], via Wikimedia Commons

工事は遅々として進まず、しばしば資金不足によって中断されます。完成は200年後とも300年後とも言われます。
ガウディはすべての仕事を断ってサグラダ・ファミリアの建築に専念しますが、1926年に路面電車にひかれて亡くなります。この時ガウディは73歳。サグラダ・ファミリアの建設を引き受けてから42年後のことです。
ガウディは詳細な設計図を残しておらず、スペイン内戦(Spanish Civil War, 1936-39)では聖堂の一部や模型も破壊されます。しかし弟子たちの伝承とわずかに残された模型やスケッチをもとに、時代時代の建築家たちがガウディの構想を推測する形で建設が続けられます。

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ガウディが死去した頃のサグラダ・ファミリア(1929年撮影)
By Unknown [Public domain], via Wikimedia Commons

サグラダ・ファミリアはゴシック建築の直線的に空へ延びる直線的な構造と、モデルニスモやアール・ヌーボーの曲線と曲面を駆使した有機的で生物的な装飾が見事に融合しています。
ガウディが亡くなった当時、地下聖堂と後陣アプスの壁面、東側正面の「生誕のファサード(Nativity façade)」が完成しています。また18本建てられる予定の塔のうち4本がほぼ完成しようとしています。生誕のファサードは異様とも言える有機的で生物的なデザインで、キリスト生誕から初めての説教を行うまでの逸話が彫刻によって表現されています。
ガウディは何よりもまず生誕のファサードを先に作りました。通常の順番ではありません。きっとガウディはこう考えたのでしょう。生誕のファサードさえ作っておけば、自分の思いが人々に伝わると。そして自分の死後もそれを見た建築家たちが自分のイメージを読み取って教会を完成してくれると。

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生誕のファサードと4本の塔(2004年撮影)
By Arnaud Gaillard (arnaud () amarys.com) (Own work) [CC BY-SA 1.0], via Wikimedia Commons

外尾悦郎はそんなサグラダ・ファミリアの工事現場に積み上げられた大きな石を見て、「一つぐらい彫らせてもらえないだろうか」と頼み込みます。しかし見知らぬ外国人がすぐに雇われるはずもなく、外尾は何度も門前払いをくらいます。あきらめずに頼み続けた外尾は、所持金が尽きかけた頃に彫刻の試験を受けて何とか採用されます。常任の制作スタッフではなく、一回一回の契約で仕事をするという「請負いの彫刻家」としての採用です。

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建設中のサグラダ・ファミリア(1980年代撮影)
qwesy qwesy [CC BY 3.0], via Wikimedia Commons

当時の主任建築家はガウディの直弟子だったプーチ・ボアダ(Puig i Boada)。ボアダは外尾に「ロザリオの間(Porta del Rosari)」の彫刻の修復を任せます。ロザリオの間はガウディが完成させた後にスペイン内戦で破壊され、50年も封印されていたものです。修復はふつう新作よりも難しいと言われます。ボアダはガウディの思いを読み取って修復するという難しい仕事を一外国人である外尾に任せたのです。
外尾はガウディの作品を徹底的に調べあげ、残された模型の破片やスケッチをルーペで詳細に観察します。しかしある日、外尾は気づきます。
「ガウディの気持ちを知るには、ガウディを見てはいけない。ガウディが見たものと同じ物を見なければいけない。」と。

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ロザリオの間の入り口(2012年撮影)
By Sagrada Família (oficial) (Own work) [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

ガウディが見たもの、それは未来です。そして神が造りし自然です。外尾はガウディと同じ場所に立ち同じ方向を眺めることで、ガウディの遺志を的確に想像できるようになります。
“You have to do the same as Gaudi.”
「ガウディと同じことをしなければいけない」
というのはこういう意味だったのです。
外尾は修復のための給料を2ヶ月分しか支給されませんでしたが、観光ガイドをして生活を支えながら2年かけてロザリオの間の修復を完成させます。



さらに外尾は、サグラダ・ファミリアの象徴ともいえる生誕のファサードの天使像の彫刻を担当します。
そして2000年、15体の天使像が完成します。これらの天使たちは、「石から掘り出されるのを待っていた」と絶賛され、外尾の名声はさらに高まります。
ちなみに天使たちの中には、東洋系の顔立ちをしているものもまじっています。外尾は「天使がみな西洋人の顔をしていたらおかしいでしょう」と語ります。

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生誕のファサードの天使像(2016年撮影)
By Ad Meskens (Own work) [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons

“You have to do the same as Gaudi.”
ガウディと同じことをしなければいけない。

ガウディと同じ方向を見ることでガウディの遺志を継ぎ、現在も続くサグラダ・ファミリアの建設に最前線で取り組む外尾悦郎。
2005年、ガウディが造って外尾が仕上げたサグラダ・ファミリアの地下聖堂と生誕のファサードがユネスコの世界遺産(World Heritage Site)に登録されました。
そして2013年、外尾はサグラダ・ファミリアの主任彫刻家となり、正式な制作スタッフとして採用されました。この時外尾は60歳。サグラダ・ファミリアで働き始めてから35年が経っていました。
300年かかると言われていたサグラダ・ファミリアの工事期間は、その後の技術の進歩と入場料収入の伸びに支えられて大きく短縮され、ガウディ没後100年の2026年に完成すると公式発表されます。

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今も建設中のサグラダ・ファミリア(2016年撮影)
By Canaan (Own work) [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons


【動画】“スペインが誇る世界的な建築物に迫る!映画『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』予告編”, by シネマトゥデイ, YouTube, 2015/09/28

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。


【動画】“ネスカフェ サグラダファミリア CM 2002年”, by 懐かしいCM & 洋画劇場, YouTube, 2016/11/23

【関連記事】第420回:“My client is not in a hurry.” ―「私の依頼主は急いでいない」(ガウディ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2017年04月07日
【関連記事】第43回:“Rome wasn't built in a day.”―「ローマは一日にしてならず」(ことわざ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年06月22日
【関連記事】第319回:“God is in the detail.” ―「神は細部に宿る」(ミース・ファン・デル・ローエほか), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年05月22日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“How Etsuro Sotoo discovered Gaudi, nature and God at the Sagrada Familia (外尾悦郎はサグラダ・ファミリアでいかにガウディや自然や神を発見したか)”, By Willem de Klerk, Gaudi Barcelona Club
【参考】“ガウディの遺志を継ぐ日本人。サグラダ・ファミリアの外尾悦郎”, 英考塾, 2012年11月05日
【参考】“サグラダファミリアの主任彫刻家 「外尾悦郎」さんがカッコよすぎる!”, By benbenplusさん, NAVER まとめ, 2013年09月13日
【参考】“サグラダ・ファミリアで石を彫り続けてきた、ガウディの心を継ぐ彫刻家 外尾悦郎”, By 吉永みち子, WEDGE Infinity, 2014年10月10日
【参考】“「生誕のファサードの秘密」外尾悦郎氏との対話。”, By 辻 仁成, WEDGE Infinity, 2017/02/15

【動画】“スペインが誇る世界的な建築物に迫る!映画『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』予告編”, by シネマトゥデイ, YouTube, 2015/09/28
【動画】“ネスカフェ サグラダファミリア CM 2002年”, by 懐かしいCM & 洋画劇場, YouTube, 2016/11/23

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posted by ジム佐伯 at 07:00 | ロンドン ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 建築 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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