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2016年07月01日

第335回:“The history of the telephone will never be fully written.” ―「電話の歴史がすべて書かれることは決してないであろう」(イライシャ・グレイ)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。

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By adamr, published on 05 May 2016. Image courtesy of FreeDigitalPhotos.net

第335回の今日はこの言葉です。
“The history of the telephone will never be fully written.”
「電話の歴史がすべて書かれることは決してないであろう」
という意味です。
これはアメリカの電気技術者で発明家でもあったイライシャ・グレイ(Elisha Gray, 1835-1901)の言葉です。エリシャ・グレイと呼ばれることもあります。

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イライシャ・グレイ(1878年頃のスケッチ)
Popular Science Monthly Volume 14 [Public domain], via Wikimedia Commons

イライシャ・グレイは1835年にオハイオ州の農村に生まれ、農場で育ちます。オハイオ州随一の名門オーバリン大学(Oberlin College)で電気機器の実験を重ねたグレイは、卒業しないながらも大学で電気と科学を教えるようになります。
1865年にグレイは電信用の自動調節リレーを発明し、初めて特許を取得します。30歳の頃です。
1869年、グレイは友人と共同で当時の大手電信会社だったウェスタン・ユニオン電信会社(Western Union Telegraph Company)に電信関係の機器を売る「グレイ・アンド・バートン社(Gray & Barton Co.)」を設立します。その後グレイは後援者からの資金を得て、異なる音を使って一本の電線でいくつもの電信を送れる「音響電信(Acoustic Telegraph)」の開発に力を注ぎます。奇しくも前回ご紹介したアレクサンダー・グラハム・ベル(Alexander Graham Bell, 1847-1922)が後援者の資金で音響電信を開発していたのと同じ頃です。この音響電信が電話の発明につながるのです。

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アレクサンダー・グラハム・ベル(1885年撮影)
By Not listed; part of the LOC's Gilbert H. Grosvenor Collection of Photographs of the Alexander Graham Bell Family, cropped by Jim Saeki on 25 June 2016 [Public domain], via Wikimedia Commons

グレイ・アンド・バートン社はその後ウェスタン・ユニオンやJPモルガンの出資を受け、「ウェスタン・エレクトリック製造会社(Western Electric Manufacturing Company)」となります。
グレイは会社を引退して発明に専念します。そして1874年、グレイは鍵盤で異なる音階の音を出して1本の電線で音階の数だけメッセージを送ることのできる音響電信の装置を完成させます。その年の暮れ、グレイは教会で音響電信を使った演奏を行います。2オクターブのピアノ鍵盤を使った「音楽電信(Musical Telegraph)」とも言うべき装置は、世界初の電子音楽と言えましょう。
翌1875年、グレイはこの音響電信の特許を取得します。グレイが39歳の頃です。

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【参考】“Elisha Gray's Music Telegraph (イライシャ・グレイの音楽電信)”, Evolution of Electronic Music, Wikispaces by TES

グレイはこの音響電信を応用して音声をそのまま送れる電話が実現できることに気づき、特許弁護士に「予告記載(caveat)」を作成させます。
そして1876年2月14日、グレイは液体のトランスミッターを使用した電話器に関する予告記載に署名して公証をとり、後援者がその予告記載をワシントンDCのアメリカ特許庁へ申請します。
しかしまさに同じ2月14日、アレクサンダー・グラハム・ベルの弁護士がベルの特許を申請します。グレイが提出するわずか2時間前と言われています。
アメリカ特許庁はベルの優先権を採用し、グレイは素直に引き下って予告記載を取り下げます。ベルの特許は承認されて公告されます。

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ベルの電話の特許(1876年)
By U.S.P.T.O. [Public domain], via Wikimedia Commons

公告の直後にベルは世界で初めて音声通話の実験に成功します。
しかしその方式はグレイの予告記載に記載された方法に極めて近いものです。ここからベルが実はグレイの発明を盗んだのではないかという論争がまきおこります。
翌年グレイは、いったん取り下げた予告記載に関する特許をあらためて申請します。結局これは認められず、ベルの特許が電話の初めての発明であるという判断がされます。

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中央がグレイの予告記載の図
右側がベルの実験ノートの図
By Elisha Gray and Alexander Graham Bell [Public domain], via Wikimedia Commons

その後の関係する特許訴訟でも特許法の審査官を巻き込んで調査、議論が行われます。
ベルの弁護士が特許庁の審査官からグレイのアイディアを入手して申請書に条項を書き足して再提出したなどという説もあります。特許庁の審査官がベルの弁護士に借金があったという説もあります。
特許庁への申請がタッチの差であったことがよく話題となりますが、どちらが先に提出したかは実は決定的ではありません。当時アメリカでは「先発明せんはつめい主義(First-to-invent system)」と言って、先に出願した方ではなく先に発明した者に優先権を与えられる方式だったからです。
しかしそこまで議論されても、結局はベルが電話の発明者だという評価が現在にまで定着しています。


グラハム・ベル空白の12日間の謎

しかしグレイはその後も様々な研究を続けます。
1887年、グレイは電線で手書きの文字や絵を伝送するテロートグラフ(Telautograph)を発明します。今のファックス(ファクシミリ)の原型です。
今のテレビの原型となる表示装置のアイディアを検討したりします。
1901年、音を使った水中通信装置の実験でボストンを訪問している時に、グレイは心臓発作で亡くなります。
65歳のことです。
死後に発見された手書きのメモにあったのが今日の言葉です。
“The history of the telephone will never be fully written.”
「電話の歴史がすべて書かれることは決してないであろう」


0335-telautograph-01.png
初期のテロートグラフ
By Anonymous, irrelevant due to age (The Manufacturer & Builder, vol 25(4) p. 77) [Public domain], via Wikimedia Commons

“The history of the telephone will never be fully written.”
電話の歴史がすべて書かれることは決してないであろう。

何だか意味深な言葉で、いろんな想像が広がりますね。いったい真相はどうなのでしょう。
電話の発明者としての富と名声をぎりぎりのところで逃したグレイ。
グレイは生涯で70を超える特許を取得しました。
そして発電や重電の分野で経済的にも成功をおさめました。
電話の発明の論争で敗れた後もくじけずに研究を続けたことこそが素晴らしいことだと僕は思います。

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イライシャ・グレイ(1878年撮影)
From Oberlin College Archives [Public Domain] via Wikimedia Commons

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第334回:“Mr. Watson! Come here.” ―「ワトソン君! 来たまえ」(ベル), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年06月28日
【関連記事】第294回:“Genius is one percent inspiration, ninety-nine percent perspiration.” ―「天才とは1%のひらめきと99%の努力からなる」 (エジソン), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2016年03月20日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“Elisha Gray's Music Telegraph (イライシャ・グレイの音楽電信)”, Evolution of Electronic Music, Wikispaces by TES
【参考】“Elisha Gray (イライシャ・グレイ)”, American Experience, PBS
【参考】“電話の歴史 〜電話の発明にまつわるお話〜”, by 浅瀬野さん, 電気通信主任技術者 総合情報, 2000-03

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posted by ジム佐伯 at 07:00 | ロンドン ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 発明家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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