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2014年02月16日

第182回:“The Eskimos had fifty-two names for snow.” ―「エスキモーは雪をあらわす52の呼び名をもっていた」(マーガレット・アトウッド)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉、日常会話でよく使う表現などをご紹介しています。

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スペースシャトルから見たグリーンランド
By USGS (http://pubs.usgs.gov/pp/p1386c/p1386c.pdf), 1995 [Public domain], via Wikimedia Commons

第182回の今日はこの言葉です。
“The Eskimos had fifty-two names for snow.”
「エスキモーは雪をあらわす52の呼び名を持っていた。」
という意味です。
これはカナダの女流作家マーガレット・アトウッド(Margaret Atwood, 1939-)の言葉です。
カナダ国内だけでなくヨーロッパでも数々の文学賞を受賞する、現代のカナダを代表する作家の一人です。

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マーガレット・アトウッド(Margaret Atwood, 1939-)
By Vanwaffle (Own work), 10 September 2006 [CC-BY-SA-3.0 or GFDL], via Wikimedia Commons

エスキモー(Eskimo)とは、シベリア北東部からアラスカ、カナダ北部、グリーンランドにかけての北極圏に住む先住民族のことです。カナダではイヌイット(Inuit)とも呼ばれます。
エスキモーたちは雪や氷で作ったイグルー(Igloo)と呼ばれる家に住み、定住せずにカヤックやイヌぞりをつかった移動生活を送ります。漁や狩猟によって得た魚や生肉を中心として食生活を送っていますが、アラスカのエスキモーには最近ではアメリカの食文化が流入して、伝統的な食文化が失われつつあります。
言語はアラスカ西部やシベリアのチュコト半島ではユピック語が、アラスカ北部ではイヌピアック語が、カナダではイヌクティトゥット語が、グリーンランドではグリーンランド語が話されているそうです。

0182-inupiat_family_from_noatak_alaska_1929.jpg
アラスカのエスキモーの家族(1929年撮影)
Edward S. Curtis, 1929 [Public domain], via Wikimedia Commons

そこで本日のマーガレット・アトウッドの言葉です。実は続きがあります。

“The Eskimos had fifty-two names for snow because it was important to them: there ought to be as many for love.”
「エスキモーは雪をあらわす52の名前をもっていた。それが彼らにとって重要だからだ。
 愛にも同じ数だけ名前があるべきだ。」

確かにそうですね。
重要なことを表す言葉は種類も豊富で、重要でないことを表す言葉は数が少ないのです。
何が重要で何が重要でないかは民族によって異なりますので、言葉の豊富さも民族によって異なるのです。
「愛にも同じ数だけ名前があるべきだ。」
と付け加えたのはさすが女流作家といったところでしょうか。

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エスキモーの住まい「イグルー」
居住というよりも、一時的な避難所として使われることが多い
By Ansgar Walk (photo taken by Ansgar Walk), 2 April 1999 [GFDL, CC-BY-SA-3.0 or CC-BY-2.5], via Wikimedia Commons

調べてみたら、似たようなことを言っている人がほかにもいます。
アメリカの男性作家ブライアン・アンドレアス(Brian Andreas, 1956-)です。

“I read once that the ancient Egyptians had fifty words for sand & the Eskimos had a hundred words for snow.”
「古代エジプト人は砂をあらわす50種類の言葉を持っていて、エスキモーは雪をあらわす100種類の言葉を持っていたと読んだことがある」

なんだか数が倍増していますね。言葉はさらに続きます。

“I wish I had a thousand words for love, but all that comes to mind is the way you move against me while you sleep & there are no words for that.”
「愛をあらわす1,000種類の言葉があったらいいのに。しかし心に浮かぶのは、君が寝ている時に僕を避けてよけるやり方。そこに言葉はひとつもない。」

オチも同じですね。しかもこちらは「千の言葉」と、言葉の数もインフレ気味です。
さらに理想に対する悲しい現実が二段オチとして語られています。

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ブライアン・アンドレアス(Brian Andreas, 1956-)
By Beawe (Own work), 8 February 2004 [CC-BY-SA-4.0], via Wikimedia Commons


【追記】(2015年1月31日)

これ、もともとはエスキモーの雪を表す言葉が全く別の意図で紹介された文献から数字が膨らんでいったものであると、クリーブランド州立大学(Cleveland State University)の人類学者ローラ・マーティン教授(Laura Martin)が指摘しています。

最初の文献はドイツ系アメリカ人の人類学者フランツ・ボアス博士(Franz Boas, 1858-1942)による「北米インディアンのハンドブック(The Handbook of North American Indians)」(1911年)です。本書の中で、言語というものはしばしば全く異なる語源から形成されるという文脈で、水に関する英単語とともにエスキモーの雪に関する言葉が4種類紹介されています。
・「地面の雪(snow on the ground)」は「アプート(aput)」
・「降る雪(falling snow)」は「クァナ(qana)」
・「地吹雪(drifting snow)」は「ピクサポク(piqsirpoq)」
・「吹き溜まり(a snow drift)」は「キムクスク(qimuqsuq)」
なのだそうです。情報源は記載されていません。
ただ、ここでは雪に関する言葉の多い少ないを議論してはいません。
4種類の言葉を例に出していますが、これ以外に雪に関する言葉があるともないとも言っていません。
エスキモーの雪に関する言葉がどれだけあるのかはこの文献だけではわからないのです。

それから29年後、アメリカのアマチュア言語学者ベンジャミン・リー・ウォーフ(Benjamin Lee Whorf)がマサチューセッツ工科大学(MIT)の広報誌テクノロジー・レビュー(Technology Reveiw)に載せた「科学と言語学(Science and linguistics)」(1940年)でエスキモーの雪に関する言葉が紹介されます。ここでは、英語では「スノー(snow)」という言葉を動詞や形容詞と組み合わせて
・「降る雪(falling snow)」
・「地面の雪(snow on the ground)」
・「凍った雪(snow packed hard like ice)」
・「ぬかるんだ雪(slushy snow)」
・「風に舞う雪(wind-driven flying snow)」
と表現するのに対して、エスキモーはそれぞれ個別の言葉で表していると述べています。
ここでは5種類に増えてますね。しかもボアスが紹介していなかった言葉が3つも増えています。こちらにも情報源は記載されていません。

さらに18年後、MIT在籍中の心理学者ロジャー・ブラウン博士(Roger Brown)は「言語と事物(Words and Things)」(1958年)という著作の中でウォーフの文献を引用して
“three Eskimo words for snow”
「エスキモーの雪をあらわす3種類の単語」
と紹介しています。
あれ? 今度は数が減っていますね。

それでもこの時期の数は3〜5種類とおとなしめです。
しかしさらに27年後、キャロル・イーストマン(Carol Eastman)がまとめた「言語と文化の側面(Aspects of Language and Culture)」(1975年)ではブラウンの「3種類」が引用されつつも、
“Eskimo languages have many words for snow.”
「エスキモーの言語には雪をあらわす多くの単語がある」
と主張します。今度は数字が消えて「多くの」がつきました。3種類で「多くの」とはちょっと言い過ぎのような気がしますが。
しかしこの話、知的好奇心も刺激しますし、雑談ネタとしてもキャッチーですよね。
このあたりから話の一人歩きが始まってしまったのではないでしょうか。
雪の呼び名の数は話す人によって根拠なく増えていきます。

・シカゴ・レビュー・プレスが出版したトリビア事典「ストレート・ドープ(The Straight Dope)」(1984年)では『9種類』
・ニューヨーク・タイムズ紙(The New York Times)の社説(1984年2月9日)では『たくさん』
・ピューリッツァー賞も受賞したアメリカの劇作家ランフォード・ウィルソン(Lanford Wilson)が書いた演劇「7月5日(The Fifth of July)」(1978年)では『50種類』
・タイム誌(Time)(1985年7月1日)では『100種類』
・クリーブランドの天気予報(WEWS-Cleveland)(1984年)では『200種類』

100年以上前の文献では4種類と紹介されたエスキモーの雪を表す言葉、1975年から1985年のわずか10年の間に50種類、100種類、200種類と数が増え、話自体も拡大再生産されて有名になっていきました。
今回の記事でご紹介したマーガレット・アトウッドも、ブライアン・アンドレアスも、これらのうちのどれかを読んだり見たりしたのかもしれません。
あるいは自分で数字を多めに「盛って」みたのかもしれません。
今やこの話は、アメリカやカナダだけでなく世界中の中学高校の英語の授業や大学の言語学・心理学・民俗学の講義などでも「つかみ」として本当に広く使われているそうです。
誤引用(misquotation)ともちょっと違いますが、話の広がり方というのは面白いものですね。

※この追記は頂いたコメントの情報をもとに再調査して書いたものです。コメントで指摘した下さった方、ありがとうございました。


【動画】新沼謙治 ♫津軽恋女♫, by SuperView_part100, YouTube, 2015/01/23

【関連記事】第52回:“You'll never find a rainbow if you're looking down.”―「うつむいていたら虹が見えないよ」(チャップリン), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年07月07日
【関連記事】第76回:“The pen is mightier than the sword.”―「ペンは剣よりも強し」(リットン卿), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年08月18日
【関連記事】第77回:“A sound mind in a sound body.”―「心身ともに健康に(健全な精神は健全な肉体に宿る)」(ユウェナリス), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年08月20日

【参考】“Inuit words for snow(イヌイットの雪を表す言葉)”, Wikipedia(英語版)
【参考】“ "Eskimo Words for Snow": A Case Study in the Genesis and Decay of an Anthropological Example(エスキモーの雪を表す言葉:人類学的事例の生成と衰退のケーススタディー)”[PDF], Martin, Laura, American Anthropologist, 88(2):418 (1986)
【参考】“The Great Eskimo Vocabulary Hoax(エスキモーの語彙についての大きなでたらめ)”[PDF], Geoffrey Pullum (1991)



日本語にも雪の呼称がたくさんあります。
Wikipediaによると、「降雪に関しては、慣習的に以下の7つの分類が存在する。」とあります。
たま雪、こな雪、はい雪、わた雪、もち雪、べた雪、みず雪の7つだそうです。
細かい説明はWikipediaの「雪」の項目をご覧ください。
ただこれは「雪」とほかの言葉の組み合わせですから、独立した別単語という感じではありませんね。
また、Wikipediaの「積雪」の項目によると、日本雪氷学会では積雪を9種類に分類しているそうです。
新雪、こしまり雪、しまり雪、ざらめ雪、こしもざらめ雪、しもざらめ雪、氷板、表面霜、クラストの9つだそうです。
また、同じ日本でも雪の多い地方は雪の語彙が多く、南国はあまり多くないと言われます。
僕は雪国の生まれですので7種類の降雪についてはなんとなくわかりますが、学会が分類した9種類の積雪はさすがにすべてはわかりません。


【追記2】(2015年1月31日)

実は英語にも
・「スノー(snow)」(雪)
・「スラッシュ(slush)」(解けた雪)
・「スリート(sleet)」(みぞれ)
・「フラリー(flurry)」(小雪)
・「ブリザード(blizzard)」(暴風雪)
・「アヴァランチ(avalanche)」(雪崩)
などと雪に関する言葉がいろいろあります。
これらは僕がざっと調べただけですが、ほかにもあるかもしれません。




【追記3】(2015年1月31日)

それでは、本当のところエスキモーはどれだけ雪に関する語彙をもっているのでしょうか。
実際には3種類から5種類しかなくて、多くの言葉を持っているという話は都市伝説にすぎないのでしょうか。

ところが、単なる都市伝説でもないらしいのです。
ワシントン・ポスト紙(The Washington Post)の解説記事によると、中央シベリアに住むユピック系住民は40種類の言葉を、カナダ北東部のヌナビク地域の住民は少なくとも53種類の言葉を持っているそうです。またエスキモーだけでなく、スカンジナビア半島最北部やロシア北部コラ半島の先住民族であるサーミ人(Sami people)は雪と氷に関する180種類の言葉を持っているとのことです。

事の真偽がどうなのか、僕にはわかりません。
「エスキモーの雪を表す言葉が多いという話は都市伝説」
「エスキモーは実際に多くの雪を表す言葉を持っている」
の両論があることを併記するに留めさせて頂きます。

【参考】“There really are 50 Eskimo words for ‘snow’(本当にあったエスキモーの雪を表す50の呼び名)”, By David Robson, The Washington Post, Health & Science, January 14, 2013
【参考】“Inuit Words for Snow and Ice(イヌイットの雪と氷を表す呼び名)”, By Louis-Jacques Dorais, Historia Canada, 11/23/2011

※なお、この記事で使っている「エスキモー」という言葉には差別的な意味があるとして使わない方がよいという意見もあります。しかしシベリアやアラスカで「エスキモー」は公的な用語として使われており、使用を避けるべき差別用語とはされていないそうです。また引用した英文でも“Eskimo”が使われていましたので、本記事でもそのまま「エスキモー」と訳させて頂きました。僕自身にも差別的な意図はまったくありません。



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Image courtesy of CNaene, published on 30 January 2014, FreeDigitalPhotos.net

“The Eskimos had fifty-two names for snow.”
エスキモーは雪をあらわす52の呼び名を持っていた。

たしかにエスキモーにとって、たくさんの雪の呼び名は必要なのだと思います。
愛も50種類以上の呼び名が必要かどうかは、僕にはわかりません。
純愛、親愛、博愛、敬愛、慈愛、熱愛、寵愛、溺愛、性愛、略奪愛...。
10個でネタがつきてしまいました。しかも後半あやしい言葉ばかり。
愛は重要だとは思っているのですけどね...。

0182-stone_engraved_with_word_love.jpg
Image courtesy of thepathtraveler, published on 23 May 2012, FreeDigitalPhotos.net

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第181回:“There is really no such thing as bad weather.” ―「本当に悪い天気なんてない」(ジョン・ラスキン), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2014年02月15日
【関連記事】第180回:“Let it snow ! Let it snow ! Let it snow !”―「雪よ降れ!雪よ降れ!雪よ降れ!」(ヴォーン・モンロー), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2014年02月14日
【関連記事】第109回:“Love will find a way.”―「愛に不可能はない」(ことわざ、バイロンほか), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年10月15日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“Quotes about snow (雪についての名言)”, by Kenya McCullum, examiner.com, December 29, 2011
【参考】“雪には52種類の名前、愛には..”, by 向野稔, 英語チャンネル - 英語でつかもうビジネスチャンス, 2013-01-18

【動画】新沼謙治 ♫津軽恋女♫, by SuperView_part100, YouTube, 2015/01/23

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posted by ジム佐伯 at 07:00 | Comment(4) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
ジム佐伯です。コメントありがとうございます。
ブログをご覧になって頂きありがとうございます。
いろんなコメントがありますが、どれもありがたいですよ。
今回もおかげで記事に深みと広がりができて、貴方にも興味深いと思っていただけたのですから。
コメントとても励みになります。これからもよろしくお願いします!!
Posted by ジム佐伯 at 2015年03月07日 16:14
興味深い記事でした。

ps.記事を読まずに条件反射でコメントする人の相手は大変そうですね
Posted by at 2015年03月05日 16:20
ジム佐伯です。コメントありがとうございます。
Posted by ジム佐伯 at 2015年01月31日 15:54
「イヌイットは雪を表す数百の表現がある」はガセです。
実際には4種類程度で、他の言語と変わりません。
マスメディアが誇大表現したのを、あなたみたいなバカが信じただけです。
Posted by ガセです。 at 2015年01月20日 14:57
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