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2013年10月29日

第117回:“Anything that can go wrong will go wrong.”―「失敗する可能性のあるものは必ず失敗する」(マーフィーの法則)

こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉をご紹介しています。

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Image courtesy of David Castillo Dominici, published on 26 June 2012 / FreeDigitalPhotos.net

第117回の今日はこの言葉です。
“Anything that can go wrong will go wrong.”
「失敗する可能性のあるものは必ず失敗する。」
という意味です。
“Whatever can go wrong, will go wrong.”
という表現もありますが、意味は同じです。
これは「マーフィーの法則」と呼ばれる現代版ことわざ集の最も基本的な大原則として知られている言葉です。
日本語版Wikipediaでは、
『先達の経験から生じた数々のユーモラスでしかも哀愁に富む経験則をまとめたものである。多くは都市伝説の類で笑えるが、中には重要な教訓を含むものがある。』
と紹介されています。
「ことわざ集」というよりも「あるある集」と言った方がよいかもしれません。

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Image courtesy of Ambro, published on 13 May 2011 / FreeDigitalPhotos.net

「マーフィーの法則」が生まれたのは、カリフォルニア州のモハーヴェ砂漠(Mojave Desert)にあるエドワーズ空軍基地(Edwards Air Force Base)です。最近ではスペースシャトルが帰還する着陸地の一つでもありました。古くから最新の航空機の試験飛行が行われる場所で、チャック・イエーガー(Charles Elwood "Chuck" Yeager, 1923-)が1947年にベルX-1(Bell X-1)に乗って世界で初めて音速を超える飛行をしたことでも有名です。当時はミューロック空軍基地(Muroc Air Force Base)と呼ばれていました。

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飛行中のベルX-1(Bell X-1)
By U.S. Air Force [Public domain], via Wikimedia Commons

同じ1947年、このミューロック空軍基地でノースロップ・エアクラフト社(Northrop Aircraft)という航空機会社による「MX981」という実験が行われます。「ロケット・スレッド(Rocket Sled)」と呼ばれる特殊な装置を使った実験です。地上に敷設したレールの上にロケット推進のソリのような乗り物を走らせて、超高速から急ブレーキをかけて人体への影響を調べるものです。
派手な試験飛行とは違ってとても地味な実験ですが、航空機の搭乗員の安全のためには無くてはならない大切な実験です。

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ロケットスレッドの実験を行うスタップ少佐
By U.S. Air Force [Public domain], via Wikimedia Commons

この実験を指揮したのは医師でもあったジョン・スタップ少佐(当時)(John Paul Stapp, 1910-1999)です。人形やチンパンジーも使いましたが、人間が搭乗する実験には他人を危険な目に合わせられないと、自らロケット・スレッドに搭乗して危険な実験を行います。ロケット・スレッドは飛行機を除いた「地上最速の乗り物」であり、スタップ大佐は当時「地上最速の男(The fastest man on earth)」と呼ばれます。

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ジョン・スタップ(John Paul Stapp, 1910-1999)
By U.S. Air Force [Public domain], via Wikimedia Commons


【動画】“MANNED ROCKET SLED RUN(有人ロケット・スレッド走行)”, by Michael Lennick, YouTube, 2010/05/31


【動画】“Rocket Sled land speed record(ロケット・スレッド地上速度記録)”, by Tony Thai, YouTube, 2007/02/28

実験を重ねる中で、スタップ少佐はより正確なデータをとるため、最新の加速度センサをオハイオ州のライトフィールド空軍基地(Wright Field Air Force Base)にある空軍研究所(Air Force Research Laboratory)から取り寄せます。しかし、最新のセンサで得られたデータはゼロを示し、実験は失敗してしまいます。
そこで登場するのがエドワード・マーフィー・ジュニア大尉(Edward Aloysius Murphy Jr., 1918-1990)です。彼は空軍研究所のエンジニアで、最新の加速度センサの設計者でした。彼は歪ゲージの取り付け不良が失敗の原因であることをつきとめます。

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歪ゲージ(写真は本文とは関係ありません)
By Bryan Tong Minh (Own work), 14 March 2007 [GFDL, CC-BY-SA-3.0 or CC-BY-SA-2.5], via Wikimedia Commons

その時にマーフィー大尉は、歴史に残る名言を口にするのです。
“If that guy has any way of making a mistake, he will.”
「何か失敗に至る方法があれば、あいつはそれをやっちまう。」
空軍研究所の助手についてボヤいた言葉です。でも、何だかちょっと最初の言葉と違いますね。
とにかく、このマーフィーの言葉は実験スタッフのあいだで話題となります。
実験スタッフはこの言葉をさらに一般化して、
“If it can happen, it will happen.”
「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる。」
という言葉を教訓とします。

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1995年の阪神淡路大震災で倒壊した建物
By Hebi [CC-BY-SA-2.5], via Wikimedia Commons

実験スタッフの一員で、ノースロップ社のプロジェクトマネージャーだったジョージ・E・ニコルズ(George E. Nichols)は、これを「マーフィーの法則(Murphy's law)」と命名します。
そしてそういう「法則」や「格言」が大好きだったプロジェクト責任者のスタップ少佐の耳にも入ります。少佐はロスアンゼルスで行われた記者会見でこう語ります。
“We do all of our work in consideration of Murphy's Law.”
「私たちはすべての作業でマーフィーの法則を考慮しています。」
耳慣れない法則の名前を聞いた報道陣はさらに詳しい説明を求め、スタップ少佐は説明します。
マーフィーの法則が世に出た記念すべき瞬間です。
一説では、「マーフィーの法則」と名付けたのはスタップ少佐本人であるとも言われています。

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ロケット・スレッドの実験スタッフたち
中央付近の黒っぽい服がスタップ少佐、その右側がニコルズ
(マーフィーは実験スタッフではないのでここにはいない)
“The Fastest Man on Earth - Why Everything You Know About Murphy’s Law is Wrong(地上最速の男−あなたがマーフィーの法則について知っていることはなぜ間違っているのか)”, Nick T. Spark, Improbable Research(イグノーベル賞運営雑誌), 2003

時は流れて1970年の半ば、アーサー・ブロック(Arthr Bloch, 1948-)というアメリカの作家が「マーフィーの法則」の本を書き始めたというニュースが報道されます。名付け親であるジョージ・ニコルズは、誰もその由来をよく知らないことを聞いて、事の経緯を説明する手紙をアーサー・ブロックに送ります。
アーサー・ブロックは1977年に
“Murphy's Law and Other Reasons Why Things Go Wrong”(1977)
『マーフィーの法則と物事がうまく行かない他の理由』(1977年)
を出版します。「マーフィーの法則」を扱った最初の本です。ニコルズは手紙を送った縁で同書へ巻頭言を寄せます。
この本はベストセラーとなり、続編や類似本などがいくつも出版されます。今でもウェブサイトや自己啓発本などのネタに使われています。


Murphy's Law (Complete), Arthur Bloch (著)

日本でも80年代後半から90年代の初頭にかけて、マーフィーの法則は研究者や技術者の間で知られるようになります。そして1993年に日本語版『マーフィーの法則―現代アメリカの知性』が出版され、日本でも大人気となります。バブル崩壊直後の何をやってもうまくいかない経済状況が、その人気の背景にあるともされます。仲間うちで独自の法則を考えたり、それを集めた類似本が出版されたりもします。
1994年には嘉門達夫による『マーフィーの法則』『続・マーフィーの法則』という歌も発売されます。


21世紀版 マーフィーの法則, アーサー・ブロック (著), 松澤 喜好/ 松澤 千晶 (翻訳)

ここで「マーフィーの法則」とされているものをいくつかご紹介します。

“Left to themselves, things tend to go from bad to worse.”
「人に任せておくと、事態は悪い方からより悪化する。」

“Nothing is as easy as it looks.”
「見た目よりも簡単なものは存在しない」

“Every solution breeds new problems.”
「あらゆる解決法は新しい問題点を生む」

“It will start raining as soon as I start washing my car.”
「洗車し始めると雨が降る。」

“The bread never falls but on its butteredside.”
「トーストは必ずバターを塗った面を下にして落ちる。」

“The chance of the bread falling with the buttered side down is directly proportional to the cost of the carpet.”
「トーストがバターを塗った面を下に落ちる確率はカーペットの値段に比例する。」

いやー、面白いですね!
いま読んでもあまり古さを感じさせず、「なるほど」とうなづけるものばかりです。

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「トーストは必ずバターを塗った面を下にして落ちる。」
By EgoVolo (Own work), 4 October 2007 [GFDL or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0], via Wikimedia Commons

ノーベル賞(Nobel Prize)のパロディでイグノーベル賞(Ig Nobel Prize)というものがあります。“Ig Nobel” と “ignoble”(不名誉な)をかけたもので、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に与えられます。
イギリスのアストン大学(Aston University)の科学者ロバート・マシューズ(Robert Matthews, 1959-)は、マーフィーの法則にあるトーストとバターの法則に着目し、それが物理的に正しいことを証明します。そして1995年に
“Tumbling toast, Murphy's Law and the fundamental constants(回転するトースト、マーフィーの法則と基本的定数)
という論文を欧州物理ジャーナル(European Journal of Physics)に発表します。
ロバート・マシューズはこの論文で1996年のイグノーベル物理学賞を受賞します。
ちなみにマーフィー自身も、法則の名づけ親のジョージ・ニコルズや、記者会見でそれを広めたスタップ少佐と共に「マーフィーの法則」考案の功績で2003年のイグノーベル工学賞を受賞します。

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イグノーベル賞公式サイト(Ig Nobel Prize)

世界的に有名になった「マーフィーの法則」の本ですが、実際にマーフィーの言葉が本に収録されているわけではありません。
マーフィーの言葉とされている、
“Anything that can go wrong will go wrong.”
「失敗する可能性のあるものは必ず失敗する。」
という基本法則も、実際は本人の言葉ではなくロケット・スレッドの実験スタッフがマーフィーの言葉から導いた教訓です。しかも、「マーフィーの法則」の名づけ親とされるジョージ・ニコルズによると、その教訓もこのようなマイナス思考気味のものではなく、前述したように
“If it can happen, it will happen.”
「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる。」
というさらに一般化した教訓だったといいます。

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Image courtesy of Phaitoon, published on 30 August 2011 / FreeDigitalPhotos.net

なにしろマーフィー本人も、本当はどう言ったのかよく覚えていないそうです。本人のインタビューによると、
“I really have made a terrible mistake here, I didn't cover every possibility.”
「本当にひどいミスをしたもんだ。すべての可能性はカバーしきれないさ」
と言ったのだと語っています。
またまた違う言葉が出てきましたね。
まあ何十年も昔の話ですから、人間の記憶なんてあいまいなものです。

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エドワード・マーフィー・ジュニア大尉(Edward Aloysius Murphy Jr., 1918-1990)の貴重な写真
“The Fastest Man on Earth - Why Everything You Know About Murphy’s Law is Wrong(地上最速の男−あなたがマーフィーの法則について知っていることはなぜ間違っているのか)”, Nick T. Spark, Improbable Research(イグノーベル賞運営雑誌), 2003

マーフィーは軍をやめてダグラス航空機(Douglas Aircraft)で働いた後、ヒューズ・ヘリコプターズ(Hughes Helicopters)のエンジニアになります。
アーサー・ブロックが「マーフィーの法則」を扱った最初の本を出したのはこの頃です。
おかしな話ですが、マーフィー自身はそのことをまったく知りませんでした。それどころか、「マーフィーの法則」なるものが存在すること自体を知りませんでした。事の経緯を見る限り、無理もありません。
アーサー・ブロックの本がいくら売れようが、カレンダーやTシャツなどの関連グッズがいかに売れようが、何の権利も持たないマーフィーには1ドルも入りませんでした。

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ヒューズ・ヘリコプターズの代表的な軍用ヘリAH-64アパッチ(AH-64 Apache)
By U.S. Army Sgt. Stephen Proctor, 25 August 2007 [Public domain], via Wikimedia Commons

ただ、世界的に有名になったことは確かでした。
マーフィーはこれがきっかけで日本の自動車会社に招聘され、技術ライターとして自動車の英文マニュアルの監修をしたこともありました。
そして有名になる前も有名になった後も、彼が腕のよい技術者であったことに変わりはありませんでした。
本人の意思とは無関係に世界的に有名な「マーフィーの法則」の主人公となったマーフィーは、1990年に亡くなります。
そして「マーフィーの法則」を世に出した地上最速の男・スタップ大佐(退役時)も1999年にこの世を去ります。

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Image courtesy of Naypong, published on 10 February 2013 / FreeDigitalPhotos.net

“Anything that can go wrong will go wrong.”
失敗する可能性のあるものは必ず失敗する。

とても深く、真実を突いた言葉ですね。
原発問題や経済問題など、現代社会にも当てはまることが多々あります。
意外にもマーフィーは、話し好きとは程遠い、職人気質で腕のいいエンジニアでした。
そして何気ない彼の一言を世界的な名言にまで高めた実験スタッフたちがいました。
実験をまとめていたのは、医師でもある世界最速の男でした。
彼らは砂漠の真ん中で危険な実験を繰り返し、スタップ少佐は何度か骨折などの大怪我をしました。
研究の成果は自動車や航空機のシートベルトの完成度を高め、衝突や墜落による事故の死亡者の減少に大きく貢献しました。

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Image courtesy of anankkml, published on 15 November 2012 / FreeDigitalPhotos.net


それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第87回:“To err is human.”―「過ちは人の常」(ことわざ、アレキサンダー・ポープほか), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年09月07日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“Tumbling toast, Murphy's Law and the fundamental constants (回転するトースト、マーフィーの法則と基本的定数)”, R A J Matthews, European Journal of Physics, Volume 16, Number 4, July 1995
【参考】“The Fastest Man on Earth - Why Everything You Know About Murphy’s Law is Wrong(地上最速の男−あなたがマーフィーの法則について知っていることはなぜ間違っているのか)”, Nick T. Spark, Improbable Research(イグノーベル賞運営雑誌), 2003
【参考】イグノーベル賞公式サイト(Ig Nobel Prize)

【動画】“MANNED ROCKET SLED RUN(有人ロケット・スレッド走行)”, by Michael Lennick, YouTube, 2010/05/31
【動画】“Rocket Sled land speed record(ロケット・スレッド地上速度記録)”, by Tony Thai, YouTube, 2007/02/28

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posted by ジム佐伯 at 12:00 | ジョーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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