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2013年09月07日

第87回:“To err is human.”―「過ちは人の常」(ことわざ、アレキサンダー・ポープほか)

(本文4019文字、読み終わるまでの目安:10分03秒)


こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉をご紹介しています。

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By Flickr user Keith AllisonKeith Allison (Original version) Killervogel5 (Crop), August 24, 2008, cropped by Jim Saeki on 6 September 2013 [CC-BY-SA-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)], via Wikimedia Commons

第87回の今日はこの言葉です。
“To err is human.”
「過ちは人のつね。」
と訳されます。
「間違いをおかすのが人間である。」
「人は誰でも間違いをおかす。」
という意味です。

確かにそうですね。
僕もしょっちゅう間違いをおかしています。
しかしこのように言われると、少しほっとしますね。

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Image courtesy of Chris Sharp, published on 25 May 2009 / FreeDigitalPhotos.net

これは18世紀のイギリスの詩人アレキサンダー・ポープ(Alexander Pope, 1688-1744)の言葉です。
“Hope springs eternal.”
「希望の泉は枯れず。」
の第16回でもご紹介しましたね。
この人も、「ことわざおじさん」的な存在です。

【関連記事】第16回:“Hope springs eternal.”―「希望の泉は枯れず」(アレキサンダー・ポープ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年05月08日

アレキサンダー・ポープは『批評論(An essay on criticism)』(1711)で次のように述べています。
“To err is human, to forgive, divine.”
「過ちは人のつね、許すのは神のごう。」と訳されます。
“err”は「間違う」という意味の動詞です。これが名詞になったものが“error”です。
“human”“divine”と対になっていて、形容詞として使われています。
「間違いをおかすのは人間的である。それを許すのは神のような行為である。」
ということですね。
イギリスで古くからのことわざとして使われてきた言葉です。

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アレキサンダー・ポープ(Alexander Pope, 1688-1744)
Jean-Baptiste van Loo [Public domain] (1742), via Wikimedia Commons

似た言葉は、古くは古代ギリシアの昔から使われていたようです。
確認できていませんが、悲劇作家ソフォクレス(Sophocles, 496-406 BC)が書いたギリシア悲劇『アンティゴネ(Antigone)』(442 BC頃)の一節と言われます。
ギリシア悲劇の最高傑作『オイディプス王(Oidipous Tyrannos, 英語でOedipus the King)』(427 BC頃)を書いたソフォクレスです。

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ソフォクレス(Sophocles, 496-406 BC)
By user:shakko (Own work) [CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons

また、古代ローマでも使われていました。
共和政ローマ期の政治家、文筆家、哲学者であるマルクス・トゥッリウス・キケロ(Marcus Tullius Cicero, 英語読みで「スィセロゥ」, 106-43 BC)の言葉が残っています。
時の権力者カエサル(Gaius Julius Caesar, 100-44 BC)が暗殺され、アントニウス(Marcus Antonius, 83-30 BC)がその後継者の座を狙います。
しかしカエサルは生前に、後継者として養子のオクタヴィアヌス(Gaius Julius Caesar Octavianus Augustus, 63-14 BC)を指名しています。
キケロはオクタヴィアヌスを政界に召喚し、彼の人気を後ろ盾にしてアントニウスを非難する演説を行うのです。

このあたりの歴史的背景は、下記の2本の記事でもご紹介しましたね。

【関連記事】第39回:“The die is cast.”―「賽は投げられた」(ユリウス・カエサル), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年06月15日
【関連記事】第40回:“Make haste slowly.”―「ゆっくり急げ」(オクタヴィアヌス), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年06月16日

キケロによるアントニウスの非難演説は、『フィリッピカ(Philippicae)』(44-43 BC)として今も残っています。
14回にわたる演説の12回目で、キケロはこう言ったといいます。ラテン語のまま記載します。
“Cuiusvis hominis est errare.
 Nullius nisi insipientis, in errare perseverare.”

(クユースウィ・ソーミニ・セス・テラーレ。
 ヌーリウス・ニーズィ・インスィピエンテ、イン・ネラーレ・ペルセヴェラーレ)
英語にすると、
“It can happen to any human to err.
 But only a fool perseveres in erring.”
「過ちは誰もに起こりえる。
 しかしその過ちを放っておくのは愚か者だけだ。」
なるほど。人は昔から変わっていませんね。

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キケロ(Marcus Tullius Cicero, 106-43 BC)
By Glauco92 (Own work) [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons

話を元に戻します。
“To err is human, to forgive, divine.”
「過ちは人のつね、許すのは神のごう。」というポープの言葉です。
間違いをおかすのは人間よくやります。それは誰もがわかっています。
しかしそれを許すのはなかなかできないことがあります。だからポープは「神の業(神の行為)」と言っているのです。
間違いをおかすことはお互いによくあるのですから、それを許す寛容の心が必要ですね。

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Image courtesy of Naypong, published on 10 February 2013 / FreeDigitalPhotos.net

この言葉はわかりやすくてインパクトがあり、言葉遊びもしやすいので、さまざまにアレンジされています。

アメリカ建国の父の一人で、政治家で科学者でもあったベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin, 1706-1790)は次のように言っています。
“To err is human, to repent divine; to persist devilish.”
「過ちは人の常、悔いるのは神の業、押し通すのは悪魔の業」
間違いをおかしてもそれを押し通す人がいかに多いかということですね。
間違いに気づいたら、それを悔いて改めるという姿勢が大切ですが、なかなかそういう人はいない。だから「神の行為」であると言っています。
さすがことわざ大好きなベン。アメリカの徳川家康
こんなおいしい「ことわざネタ」をほうっておくわけがありません。

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ベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin, 1706-1790)
Portrait by Joseph-Siffrein Duplessis (circa 1785) [Public domain], via Wikimedia Commons

フランスの哲学者で医師でもあったジョルジュ・カンギレム(Georges Canguilhem, 1904-1995)も、『生命科学の歴史―イデオロギーと合理性(Ideology and Rationality in the History of the Life Sciences)』(1977)で同じようなことを述べています。
“To err is human, to persist in error is diabolical.”
「過ちは人の常、過ちを押し通すのは悪魔の業」
確かにそうですね。押し通す人、多すぎです。
“diabolical”“devil”の語源となったラテン語“diabolus”の形容詞で、意味は同じ「悪魔」です。


『生命科学の歴史―イデオロギーと合理性 (叢書・ウニベルシタス)』, ジョルジュ カンギレム (著), 杉山 吉弘 (翻訳), 法政大学出版局 (2006/03)

フランスの作家ヴィクトル・ユーゴー(Victor-Marie Hugo, 1802-1885)は、代表作『レ・ミゼラブル(Les Misérables)の作中で次のように書いています。
“To err is human. To loaf is Parisian.”
「過ちは人の常、遊んで暮らすはパリジャン(パリ男)の業。」
なるほどなるほど。
やはりパリジャンはそういうイメージなんですね。

0087-victor_hugo.jpg
ヴィクトル・ユーゴー(Victor-Marie Hugo, 1802-1885)
By Etienne Carjat (1828-1906), 1876; published in 1885 (http://www.argentic-photo.com/product-3692.html) [Public domain], via Wikimedia Commons

アメリカのコメディ作家ロバート・オーベン(Robert Orben, 1927-)は次のように書いています。
“To err is human - and to blame it on a computer is even more so.”
「過ちは人の常、その過ちをネットで批判するのはさらに人の常。」
確かにそうですね。悲しいですが当たっています。今の日本でもそうですね。

アメリカの生物学者でスタンフォード大学(Stanford University)の教授でもあったポール・エーリッヒ(Paul Ralph Ehrlich, 1932-)もコンピューターについて書いています。
“To err is human, but to really foul things up you need a computer.”
「過ちは人の常、でも本当に物事を台無しにするにはコンピューターが必要」
なかなか風刺が効いてます。
でも、ぜんぜん詩になってませんね。さすが学者です。
でも言葉のセンスが悪いわけではありません。
ポール・エーリッヒは早くから人口問題に着目し、「人口爆発(Population Bomb / Population Explosion)」という言葉を1960年代から使っていた人物なのです。

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若き日のポール・エーリッヒ(Paul Ralph Ehrlich, 1932-)
By Ilka Hartmann (eBay), 1974 [Public domain], via Wikimedia Commons

アメリカの作家ロバート・バーン(Robert "Bob" Byrne, 1930-)は次のように書いています。
“To err is human, to purr is feline.”
「過ちは人の常、喉を鳴らすは猫の業。」
何だかジョークになってしまってます。

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ロバート・バーン(Robert "Bob" Byrne, 1930-)
By Russellbyrne (Own work) 1 January 2002 [CC0], via Wikimedia Commons

「過ちは人の常」とはいえ、間違いが許されない分野もあります。
それは医療の世界です。
医療で間違いが起きると、最悪の場合では患者さんが亡くなることもあります。
できるだけ医療ミスは防止すべきです。

しかしアメリカ科学アカデミー(NAS: National Academy of Sciences)の医学研究所(IOM : Institute of Medicine)が1999年に発表した報告書は全世界に衝撃を与えました。

なんとそのタイトルに、ポープの言葉が使われています。
“To Err is Human:building a safer health system”
「人は誰でも間違える:より安全な医療システムの構築を目指して」
というものです。

【参考】“To Err is Human: Building A Safer Health System(過ちは人の常:より安全な医療システムの構築を)”, IMO (Institute of Medicine), November 1, 1999


To Err Is Human: Building a Safer Health System

この報告書によると、アメリカでは投薬ミスなどの医療過誤(medical error)で年間10万人近い入院患者が死亡しているとのことでした。同じ時期の交通事故による死亡者数が4万人、乳癌による死亡者数も4万人、AIDS(後天性免疫不全症候群)による死亡者数が2万人でした。10万人という数の大きさがわかります。
それにしても、日本の交通事故死者数1万人弱に比べて、アメリカのなんと多いことでしょう。

その後、いかに医療ミスを防止して患者安全を高めるかに重点をおいた研究開発が行われ、多くの医療ミスが防止できるようになっています。
この場合は「過ちを許す」のではなく、きちんと対策を考えたことが功を奏したのですね。

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Image courtesy of Apple's Eyes Studio, published on 17 September 2011 / FreeDigitalPhotos.net

“To err is human.”
過ちは人の常。

まずはそれを許す寛容な心を持ちましょう。
また、過ちが起きた時にどう対応するか、対策を常に考えておきたいものです。

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Image courtesy of zole4, published on 17 September 2011 / FreeDigitalPhotos.net

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第16回:“Hope springs eternal.”―「希望の泉は枯れず」(アレキサンダー・ポープ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年05月08日
【関連記事】第39回:“The die is cast.”―「賽は投げられた」(ユリウス・カエサル), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年06月15日
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【関連記事】第17回:“Honesty is the best policy.”―「正直は最善の策」(ことわざ、ベンジャミン・フランクリンほか), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年05月09日
【関連記事】第74回:“There never was a good war or a bad peace.”―「よい戦争や悪い平和はあったためしがない」(ベンジャミン・フランクリン), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年08月15日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】Popular Quotes, Goodreads.com
【参考】“To Err is Human: Building A Safer Health System(過ちは人の常:より安全な医療システムの構築を)”, IMO (Institute of Medicine), November 1, 1999

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