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2013年08月20日

第77回:“A sound mind in a sound body.”―「心身ともに健康に(健全な精神は健全な肉体に宿る)」(ユウェナリス)

(本文2133文字、読み終わるまでの目安:5分20秒)


こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉をご紹介しています。

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Image courtesy of photostock, published on 18 March 2011 / FreeDigitalPhotos.net

第77回の今日はこの言葉です。
“A sound mind in a sound body.”
ここでは“sound”は「健康な」「健全な」という意味の形容詞として使われています。
「健康な身体のなかの健康な精神」
というのが文字どおりの意味です。
「心身ともに健康に」
と言ってもよいでしょう。

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Image courtesy of mapichai, published on 24 May 2013 / FreeDigitalPhotos.net

しかし日本ではなぜか、
「健全な精神は健全な肉体に宿る」
という言葉が有名になっています。
「身体が健全ならば精神も自ずと健全になる」
だから身体を鍛えましょう、健康に気をつけましょう、という意味でつかわれます。
中学校や高校の運動部のスパルタ指導に使われたり、かつては各国の軍国主義的な教育に使われたりもしました。日本だけでなくアメリカやナチス・ドイツなどでもそうだったといいます。
しかし解釈によっては病弱な人や障害を持つ人への差別にもなりかねません。

現在は、多くの国では身体と精神の密接な関係とバランスを表す言葉として使われています。
確かに心と体はお互い密接に関わっています。
心が不健康では体も不健康になってしまいます。
「病は気から」
とも言いますね。
もともとは、どんな言葉だったのでしょうか。

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Image courtesy of Feelart, published on 01 March 2013 / FreeDigitalPhotos.net

これは、古代ローマの詩人で弁護士でもあったデキムス・ユニウス・ユウェナリス(Decimus Junius Juvenalis, 英語でJuvenal, 60-130 AD)の言葉と言われています。
ユウェナリスは痛烈な風刺を利かせた詩を書いたのだそうです。

彼の代表作、16篇からなる『風刺詩集 (Satvrae, サトゥラーエ, 英語でSatires) 』には、次のようなラテン語の一節があります。
“Orandum est, ut sit mens sana in corpore sano”
(オーランドゥム・エスト、ウート・スィート・メーヌ・サーナ・イン・コーポレ・サーノ)
英語に訳すと、
“It is to be prayed that the mind be sound in a sound body.”
「健やかな体のなかで心が健やかであることが願われるべきである。」
となります。

0077-juvenal.jpg
デキムス・ユニウス・ユウェナリス(Decimus Junius Juvenalis, 60-130 AD, 19世紀頃に描かれた肖像画)
By Napoleon Vier at nl.wikipedia (Transferred from nl.wikipedia) [Public domain], from Wikimedia Commons

この詩では、多くの人が神に祈るであろう事柄が一つ一つ挙げられます。
富や地位、才能、栄光、長寿、美貌などです。
しかしそれはどれも長続きせず、身の破滅に繋がるのでそんな願いごとはするべきではないとユウェナリスは説いています。
もし祈るとするならば、健やかな体のなかで心が健やかであることが願われるべきである。
ということです。

この解釈にも二通りあります。
一つは単純な解釈。
「余計な煩悩を神に願うな。心身ともに健康であることだけを祈るべき」ということです。
これがすべての基本ですし、富や名声があっても心身いずれかの健康を損なっていたら幸せではないからです。

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Image courtesy of imagerymajestic, published on 11 July 2012 / FreeDigitalPhotos.net

もう一つは皮肉をきかせた解釈。
肉体ばかりを鍛えて勉学をおろそかにする若者や世の風潮を嘆き、「精神も健やかであることを祈ろうよ」と皮肉っているというのです。
「健全な肉体には健全な精神が宿り難いもの」という認識が前提にあるという解釈です。
肉体が頑健に過ぎると病弱な人の悩みや敗者の痛みがわからず傲慢になってしまうことも多いことを指摘しています。

僕は後者の皮肉をきかせた解釈が正しいのではと思います。
単純に心身ともに健康であることの重要さを説いただけでは風刺になりません。
皮肉屋のユウェナリスなら、当時のマッチョなローマ社会を皮肉って詩を作ったかもしれません。
また、この詩には数行にわたって健全な精神についてくわしく書かれています。
ユウェナリスがローマ市民に対して、誘惑に打ち克つ勇敢な精神を強く求めていたことが窺えます。

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Image courtesy of photostock, published on 18 March 2011 / FreeDigitalPhotos.net

漫画家の小林よしのり(Yoshinori Kobayashi, 1953-)もこの説をとっています。
漫画作品『ゴーマニズム宣言』で彼は病弱だった自分の幼少時代をふりかえりながら、
「健全な肉体に健全な 魂が宿る」

「健全な肉体に健全な魂が宿れかし
(=健全な肉体の持ち主にも 健全な魂が宿ればいいのになぁ)
の誤用だったと書いています。

時代によってまるで正反対の意味に使われたこの言葉、格言が一人歩きした一例ですね。


ゴーマニズム宣言〈1〉 (幻冬舎文庫), 小林よしのり(著), 幻冬舎 (1999/04)

また、ユウェナリスの言葉は彼の独創ではないという説もあります。
古代ギリシア、ソクラテス以前の哲学者の一人であるタレス(Thales, 624-546 BC)の言葉に、ギリシャ語で、
“Νοῦς ὑγιὴς ἐν σώματι ὑγιεῖ”
英語にすると、
“A healthy mind in a healthy body.”
というものがあるという説があります。
ただ、ソクラテス以前の古代ギリシアの哲学者はすべて、本人が直接書いた著作や同時代の記録は残っていませんので、本当かどうかはさだかではありません。

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タレス(Thales, 624-546 BC)
By Ernst Wallis et al (own scan), 1875 [Public domain], via Wikimedia Commons

“A sound mind in a sound body.”
心身ともに健康に。

これはささやかな願い事ではなく、何事にもまして大事なことですね。
いつも心身ともに健康でありたいものです。

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Image courtesy of samuiblue, published on 17 January 2013 / FreeDigitalPhotos.net

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】『健全な精神は健全な肉体に宿る」とは言わなかったユウェナリス』, 世界の古典つまみ食い─エセ教養を深めよう, Tomokazu Hanafusa (花房友一)
【参考】『ユウェナリス 第10歌「願い事はほどほどに」(全訳)』, 世界の古典つまみ食い─エセ教養を深めよう, Tomokazu Hanafusa (花房友一)
【参考】『健全な精神は健全な肉体に?』, 産経新聞1998年2月2日夕刊大阪版4版5頁玉木正之「戯論」より, 世界の古典つまみ食い─エセ教養を深めよう, Tomokazu Hanafusa (花房友一)
【参考】“A Healthy Mind In a Healthy Body: Mens Sana in Corpore Sano(健全な身体に健全な精神)”, by ISTEEVE, 98.6: Dr. Pribut's Blog ― Making The Unusual Normal, JANUARY 19, 2013

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posted by ジム佐伯 at 12:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 言葉の一人歩き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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