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2013年08月18日

第76回:“The pen is mightier than the sword.”―「ペンは剣よりも強し」(リットン卿)

(本文2468文字、読み終わるまでの目安:6分10秒)


こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉をご紹介しています。

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Image courtesy of hin255, published on 22 May 2013 / FreeDigitalPhotos.net

第76回の今日はこの言葉です。
“The pen is mightier than the sword.”
「ペンは剣よりも強し」
という意味です。

昨日、パキスタン人の少女マララ・ユサフザイ(Malala Yousafzai, 1997-)の言葉をご紹介しました。
“One pen can change the world.”
「一本のペンが世界を変えられる」
という言葉です。
僕がこれを聞いてまっ先に思い浮かべたのが、この
“The pen is mightier than the sword.”
「ペンは剣よりも強し」
という言葉です。


マララ・ユサフザイ(Malala Yousafzai, 1997-)
Newsweek Asia October 29, 2012 (単号), DIP; 週刊版 (2012/10/25)

【関連記事】第75回:“One pen can change the world.”―「一本のペンが世界を変えられる」(パキスタンの少女マララ)(2013年08月17日)

「ペンは剣よりも強し」という日本語の表現も固まっており、しかもちゃんと韻を踏んでいます。
「言論は武力よりも強い力を持つ」という意味のことわざとして、今やすっかり定着しています。

慶応義塾大学(Keio University)の紋章には2つのペンを交叉させた「ペンマーク」が使われています。この「ペンは剣よりも強し」という言葉から来たものです。
紋章には、「ペンは剣よりも強し」のラテン語表記、
“Calamvs Gladio Fortior”
(カラムス・グラディオ・フォルティオル)
も書かれています。
また、開成中学校・高等学校(Kaisei Junior & Senior High School)のペンと剣が交差した「ペン剣紋章」も同じ言葉に由来するのだそうです。

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慶応義塾大学の紋章「ペンマーク」
紋章の下は「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という福沢諭吉の言葉のラテン語表記
By 塾生 (Own work), May 2009. Clipped by Jim Saeki on 18 August 2013 [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons

【参考】『[ステンドグラス] 慶應義塾「ペンマーク」』, 「塾」2004年SUMMER(No.243) −慶應義塾社中特別号−掲載, 2004/07/01
【参考】開成中学校・開成高等学校(公式サイト)

この言葉、19世紀のイギリスの政治家で作家でもあったエドワード・ブルワー=リットン(初代リットン男爵, Edward George Earle Lytton Bulwer-Lytton, 1st Baron Lytton, 1803-1873)の戯曲『リシュリュー(Richelieu)』(1839)に登場して有名になった言葉です。
ちなみに国際連盟(League of Nations)の要請により1932年に満州事変や満州国の調査を行った「リットン調査団(The Lytton Commission)」の団長が、このリットン男爵の孫にあたるヴィクター・ブルワー=リットン(第2代リットン伯爵, Victor Alexander George Robert Bulwer-Lytton, 2nd Earl of Lytton, 1876-1947)です。

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エドワード・ブルワー=リットン(初代リットン男爵, Edward George Earle Lytton Bulwer-Lytton, 1st Baron Lytton, 1803-1873)
Painted by Henry William Pickersgill, National Portrait Gallery, London, circa 1831 [Public domain], via Wikimedia Commons

劇中、
“The pen is mightier than the sword.” 「ペンは剣よりも強し」
という言葉を口にするのは、カトリック教会の聖職者にしてフランス王国の政治家だったリシュリュー枢機卿(Armand Jean du Plessis, cardinal et duc de Richelieu, 1585-1642)です。
リシュリューはブルボン朝第2代のフランス国王ルイ13世(Louis XIII, 1601-1643)から重用され、1624年に主席国務大臣(事実上の宰相=総理大臣)に任じられます。

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リシュリュー枢機卿(Armand Jean du Plessis, cardinal et duc de Richelieu, 1585-1642)
Painted by Philippe de Champaigne, [Public domain], via Wikimedia Commons

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ルイ13世(Louis XIII, 1601-1643)
Painted by By Philippe de Champaigne (1602-2015) (Europicture.de), after 1670 [Public domain], via Wikimedia Commons

リシュリューはフランスの中央集権体制の確立と王権の強化に力を尽くし、後年の絶対王政の基礎を築きます。
フランスの小説家アレクサンドル・デュマ(Alexandre Dumas, père, 1802-1870)の有名な小説『三銃士
(The Three Musketeers, フランス語原題:Les Trois Mousquetaires)』(1844)にもリシュリュー枢機卿が登場します。
作中リシュリューは、王妃や三銃士と対立して策謀を巡らす悪役としての側面と、フランスの発展に尽力する優れた政治家としての側面という両面から描かれています。

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アレクサンドル・デュマ(Alexandre Dumas, père, 1802-1870)
Photo by Gaspard Félix TOURNACHON, dit Nadar (1820-1910) (Bibliothèque nationale de France), 1855 [Public domain], via Wikimedia Commons

そんなリシュリューの言葉が「ペンは剣よりも強し」というのは、何だかちょっと違和感がありますよね。
リシュリューは政治権力の中枢にあった人で、どちらかというと「ペン」よりは「剣」の側の人であるというイメージがあるからです。

しかし、今日の言葉の真の意味は、現在ことわざとして使われているものとは少し異なるのです。
リットン男爵の戯曲の中で、リシュリューの言葉は、実は次のように書かれています。
“Beneath the rule of men entire great, the pen is mightier than the sword.”
「真に偉大な人物の支配の下においては、ペンは剣よりも強い」
と、但し書きが着いているのです。
「ペン」とは「権力者のペン」のことだったのです。
そして「真に偉大な人物」とは、リシュリュー自身のことを言っています。

絶対王政の確立に邁進するリシュリューには、反対派の抵抗も大きかったと言われます。
反乱や暴動などもありました。しかしリシュリューは敵対者たちを徹底的に弾圧したり処刑したりすることも辞さない強い姿勢を通します。
いかに武力で反乱しようとも、逮捕状や死刑執行命令にペンでサインして弾圧できる。
だから「ペンは剣よりも強し」と言っているのです。

現在の一般的な解釈とは何だかまったく違う意味ですね。
これには僕もびっくりしました。
“misquoting”(引用ミス)というわけではありませんが、格言はもともとの意味を離れて一人歩きすることがよくあります。
言葉も時代に応じて変わっていくものなのでしょう。

この衝撃の事実は、筒井康隆(Yasutaka Tsutsui, 1934-)のエッセイ『アホの壁』(2010)でも紹介されています。さすが博識の筒井康隆です。


アホの壁 (新潮新書), 筒井康隆, 新潮社 (2010/02)

“The pen is mightier than the sword.”
ペンは剣よりも強し。

リシュリュー枢機卿が本当に言った言葉なのかリットン男爵の創作なのかわかりませんが、このように解釈するといかにもリシュリューが言いそうな言葉に見えてきますね。

確かに権力者のペンも強力です。
そして、言論のペンも強力です。
どちらに解釈しても正しい。
そういう意味では、まさに真実を突いた言葉ですね。

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Image courtesy of Jennifer Ellison, published on 15 November 2008 / FreeDigitalPhotos.net

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第75回:“One pen can change the world.”―「一本のペンが世界を変えられる」(パキスタンの少女マララ), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年08月17日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】『[ステンドグラス] 慶應義塾「ペンマーク」』, 「塾」2004年SUMMER(No.243) −慶應義塾社中特別号−掲載, 2004/07/01
【参考】開成中学校・開成高等学校(公式サイト)

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