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2013年07月21日

第60回:“You have to start with the truth.”―「まず事実から始めなければならない」(ジュリアン・アサンジ)

(本文5020文字、読み終わるまでの目安:12分33秒)


こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言や格言、ちょっといい言葉をご紹介しています。

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By Espen Moe (Julian Assange Uploaded by Ralgis), 20 March 2010 [CC-BY-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons

第60回の今日はこの言葉です。
“You have to start with the truth.”
「まず事実から始めなければならない。」
という意味です。
これは「ウィキリークス(WikiLeaks)」を創立したジュリアン・アサンジ(Julian Paul Assange, 1971-)の言葉です。

ウィキリークスとは、政府や企業や宗教などに関する機密情報を匿名で公開するウェブサイトの一つです。
僕がいつも記事の参考にさせて頂いているWeb上のフリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」に名前も画面デザインも似ていますが、組織や運営はまったく別のもので、関係ありません。
アサンジは2006年12月にウィキリークスを設立して機密文書のデータベース化などの準備を始め、2007年から機密文書の公開を開始しました。その行為は世界中を震撼させました。
彼の言う「事実」とは何だったのでしょうか。

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ジュリアン・アサンジ(Julian Paul Assange, 1971-)
By Andreas Gaufer (26c3 Wikileaks), 27 December 2009 [CC-BY-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons

ジュリアン・アサンジは1971年にオーストラリア北東部のクイーンズランド州の海岸部にあるタウンズビル(Townsville)という港町に生まれました。
幼い頃に両親が離婚し、母親に連れられて住居を転々とします。彼自身によると、50の異なる街に住んで37の異なる学校に通ったそうです。

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タウンズビル(Townsville)
By Sean.TownsvilleUser at en.wikipedia, January 2009 [Public domain], from Wikimedia Commons

1987年、16歳の誕生日にジュリアンはモデムを手に入れます。その後、企業や政府機関などへの不正アクセスを繰り返すようになります。
ジュリアンは“Mendax”という名前でハッキングの世界では有名な存在となります。
もっとも、「ハッキング(Hacking)」とは深い知識と高度な技術でコンピュータを操作・活用する行為を指しますので、彼のような不正アクセスなどの行為は正式には「クラッキング(Cracking)」と呼ばれます。

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モデム(イメージ画像)
By Bortzmeyer (Own work) [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons

1989年にアサンジは、NASA(アメリカ国立航空宇宙局, National Air and Space Administration)のシステムに侵入します。スペースシャトル「アトランティス(Atlantis)」の打ち上げの数日前、NASAのコンピュータの画面が“WANK”という文字を表示します。その下には、
“You talk of times of peace for all and then prepare for war”
「お前たちは平和な時代の話をしながら戦争に備えている」
というメッセージも表示されます。

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発射台のスペースシャトル・アトランティス(Atlantis)
By Svdmolen at nl.wikipedia (Transferred from nl.wikipedia), Photo by NASA [Public domain], from Wikimedia Commons

NASAのネットワーク管理者だったジョン・マクマホン氏(John "Fuzzface" McMahon)は、当時を振り返って次のように語っています。
「なんてことだ。いったいこれは何なんだ? “WANK”がどういう意味か、誰も知らなかった。」
これはアサンジが仕込んだワームというコンピュータ・ウイルスの一種の仕業でした。ワームは自己複製をネットワークに接続したコンピュータへ送り込み、感染を拡大させます。マクマホン氏によると、当時はまだ非常にまれな存在だったようです。
また、“WANK”とは、
“Worms Against Nuclear Killers”
(核の殺人者に対抗するワーム)
という意味だったそうです。

この時アトランティスには、木星探査機ガリレオ(Galileo)が搭載されていました。
ガリレオにはプルトニウムの自然崩壊熱を熱電対で電気に変える原子力電池が電源として使われています。
この3年ほど前、スペースシャトル「チャレンジャー(Challenger)」が打ち上げ73秒後に空中爆発して7人の乗組員全員が死亡するという痛ましい事故がありました。この事故によりガリレオの打ち上げは大幅に遅れていました。もし今回も爆発すれば、ガリレオの原子力電池に含まれるプルトニウムが広範囲にばらまかれることになります。
アサンジはこれに反対してアトランティスの発射を妨害しようとしたのです。

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木星探査機ガリレオ(Galileo)による木星探査飛行の想像図
By NASA [Public domain], via Wikimedia Commons

マクマホン氏によると、NASAではコンピュータにログインすると「お前は誰かに見られている」とメッセージが出たり、ファイルが次々に消去されるメッセージが出たり、パスワードを変えられたりといったことが相次ぎ、職員はパニックになりました。アトランティスも無事発射できるか心配されました。
結局、シャトルの打ち上げは成功し、探査機ガリレオの放出もうまくいきました。
しかし、最終的に世界中の30万台のコンピューターがこのワームに感染したそうです。

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打ち上げ後に上昇するスペースシャトル・アトランティス
By NASA, 18 October 1989 [Public domain], via Wikimedia Commons

1991年にオーストラリア連邦警察(Australian Federal Police)はアサンジの電話回線を盗聴し、不正アクセスの容疑でメルボルンの自宅を家宅捜索をします。アサンジはカナダの通信会社ノーテル(Nortel)やアメリカ国防総省(The Pentagon)など、31件の不正アクセスについて訴追され、25件で有罪判決を受けます。この裁判には3年かかります。実刑はつかず、アサンジは2,100オーストラリアドル(約15万円)を払って保釈になります。

その後、彼は子育てをしながらオーストラリアの初期のインターネットサービスプロバイダの一つ「サバービア(Suburbia)」を立ち上げます。フリーソフトを含むソフトウェアの開発やコンピュータ・セキュリティの仕事をしながらメルボルン大学(University of Melbourne)などで数学や物理学を学びます。世界のさまざまな国で様々な人との人脈を築いていきます。
そして2006年、彼はウィキリークスを立ち上げるのです。

0060-wikileaks.jpg
ウィキリークス(WikiLeaks)のトップページ

ウィキリークスは投稿者の匿名性を維持し、機密情報から投稿者が特定されないようになっています。また、投稿された情報はウィキリークス内部で匿名の審査員が精査をした上で公開され、公開後は公の場で様々な意見が交わされます。
また、イギリスのガーディアン紙(The Guardian)やアメリカのニューヨーク・タイムズ紙(The New York Times)、フランスのル・モンド紙(Le Monde)、スペインのエル・パイス紙(El País)といった新聞や、ドイツのシュピーゲル誌(Der Spiegel)といった雑誌など、世界の有力メディアとも協力関係を持ち、効果的な情報公開を行っています。

これまでにリークされた情報には以下のものがあります。

2008年9月、アメリカ大統領選挙中に、共和党副大統領候補だったサラ・ペイリン氏(Sarah Louise Palin, 1964-)のYahoo!個人アカウントが乗っ取られ、メールの内容などが公開されます。ペイリン氏は被害者でしたが、公務に個人メールアカウントを使って事実を不正に隠匿していた事実が公開されたため批判を受けることになりました。

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サラ・ペイリン氏(Sarah Louise Palin, 1964-)
By David Shankbone, 4 May 2010 [CC-BY-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/3.0)], via Wikimedia Commons

2010年4月、イラク戦争(Iraq War, 2003-2011)の時にアメリカ軍の攻撃ヘリコプターAH-64アパッチ(AH-64 Apache)が2007年にイラク市民やロイターの記者を銃撃し殺傷した事件の動画が公開されます。アサンジはアメリカの首都ワシントンDCのナショナル・プレス・クラブ(National Press Club)で会見を開き、この事実を「コラテラル・マーダー(Collateral Murder)」として告発します。

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イラク戦争時に撮影されたAH-64アパッチ(AH-64 Apache)の同型機
By DoD photo by Petty Officer 3rd Class Shawn Hussong, U.S. Navy. (Released), 24 February 2006 [Public domain], via Wikimedia Commons

“Collateral Murder”
とは、文字通りには「従属的な殺人」という意味ですが、
“Collateral Damage” (従属的な犠牲)
という言葉を強く意識しています。この言葉はアーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger)が主演したハリウッド映画『コラテラル・ダメージ(Collateral Damage)』(2002年アメリカ)のタイトルにも使われました。戦争やテロ対策などで、主な標的ではないのに巻き込まれた止むを得ない犠牲という意味があります。


『コラテラル・ダメージ 特別版 [DVD]』, ワーナー・ホーム・ビデオ(2011/06/15)

2010年7月、アフガニスタン紛争(War in Afghanistan, 2001-)でのアメリカ軍や情報機関の機密資料が約75000点以上公開されます。これらの情報には未公表の民間人死傷案件や、アフガン側のアメリカへの情報提供者の身元情報なども含まれています。

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アフガニスタン紛争(War in Afghanistan, 2001-)
By Spc. Daniel Love, U.S. Army, 10 April 2007 [Public domain], via Wikimedia Commons

2010年10月、イラク戦争に関する米軍の機密文書約40万点が公開されます。ウィキリークスは民間人が検問で無差別に殺されたとの報告や、連合軍部隊によるイラク人拘置者への拷問などがあったと発表します。

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イラク戦争(Iraq War, 2003-2011)
By English: Petty Officer 2nd Class Kim Smith, U.S. Navy , 6 June 2009 [Public domain], via Wikimedia Commons

2010年11月、アメリカの外交機密文書約25万点の公開が始まります。公式では公開されることのなかった外交公電や世界中の重要施設についての情報などが含まれています。

2010年8月、スウェーデン警察はアサンジの捜査を開始し、逮捕状が発行されます。容疑はなんと二人の女性に対する性的暴行です。 アサンジは取り調べを受けますが、容疑を否定し、ウィキリークスの敵対者たちによる「でっち上げ」だと主張します。逮捕状はいったん取り下げられますが、11月にはICPO(国際刑事警察機構, International Criminal Police Organization, 通称インターポール, Interpol)を通じてアサンジは国際指名手配されます。
12月、アサンジはロンドン警視庁に出頭して逮捕されます。一旦は保釈されますが、外出は制限されて発信器も装着され、警察に一日一回報告する義務が課せられます。

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ロンドン警視庁本部ビル
By Man vyi (Own work (own photo)), 20 d'Févri 2008 [Public domain], via Wikimedia Commons

2012年6月、イギリス最高裁はアサンジのスウェーデン移送を決定します。アサンジは移送を避けるためロンドンのエクアドル大使館に逃げ込みます。さらに反米左派政権のエクアドルへの亡命を申請し、8月にエクアドル政府は亡命を認めます。
エクアドル大使館にはイギリスの司法権が及びませんのでアサンジの身柄が拘束されることはありませんが、エクアドルへ向かうために大使館の外へ一歩出たらイギリス当局に身柄拘束される可能性があります。そのためアサンジは1年以上エクアドル大使館の内部に滞在しています。


【動画】“Wikileaks' Julian Assange speaks two years on - Truthloader (ウィキリークスのジュリアン・アサンジが2年間を語る - トゥルースローダー)”, by Truthloader, YouTube, 2014/06/19

彼の行動は賛否両論です。
極端な例では、カナダのスティーヴン・ハーパー首相(Stephen Joseph Harper, 1959-)の元補佐官でもあった政治科学者トム・フラナガン氏(Thomas Eugene "Tom" Flanagan, 1944-)や、保守的なテレビ局フォックス・ニュース(Fox News Channel)のコメンテーターであるボブ・ベッケル氏(Robert "Bob" Beckel, 1948-)などは、アサンジは暗殺されるべきだと公然と発言しています。
一方で、多くの国から彼の行動を賞賛し支援する声も上がっています。彼の行動を制限することは表現の自由に対する挑戦だという声もあります。2010年12月、彼の祖国のシドニーでは500人以上の人が集まり、彼の逮捕に抗議する声を上げました。

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シドニーで行われたアサンジを支援する集会
By Elekhh (Own work), 10 December 2010 [CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0) or GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)], via Wikimedia Commons

昨日ご紹介した元NSA職員のエドワード・スノーデン(Edward Snowden)が機密情報を暴露した行為については、アサンジとウィキリークスは支持と支援を表明しています。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(The Wall Street Journal)によると、ウィキリークスはスノーデンの飛行機代や宿泊代を肩代わりしているそうです。

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元NSA職員のエドワード・スノーデン(Edward Snowden)
Laura Poitras / Praxis Films, 2013 [CC-BY-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/3.0)], via Wikimedia Commons

2010年8月に、アサンジはガーディアン紙のインタビューに答えてこのように言っています。
“You have to start with the truth.”
「まず事実から始めなければいけない。」
そして次のように続けます。
“The truth is the only way that we can get anywhere. Because any decision-making that is based upon lies or ignorance can't lead to a good conclusion.”
「事実は、目的を達成できるただ一つの道だ。嘘や無知にもとづくどんな決断もいい結果を生まないからだ。」

確かに彼の行動には賛否両論あります。
しかし彼とウィキリークスが明るみにした事実は本当のものである可能性が極めて高いと思います。

“You have to start with the truth.”
まず事実から始めなければいけない。

そしてこの言葉も100%正しいと思います。

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エクアドル大使館の窓から会見するジュリアン・アサンジ
By Snapperjack from London, UK. (File:Julian Assange in Ecuadorian Embassy.jpg), 19 August 2012 [CC-BY-SA-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)], via Wikimedia Commons

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第59回:“Truth is coming, and it cannot be stopped.”―「事実は明るみに出た。もう止められない」(エドワード・スノーデン), ジム佐伯のEnglish Maxims, 2013年07月20日

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】WikiLeaks
【参考】“Julian Assange”, KeyWiki
【参考】“We Steal Secrets: The Story of Wikileaks”, The annotated transcript of an anti-WikiLeaks documentary film directed and produced by Alex Gibney, May 23, 2013
【参考】“Julian Assange, monk of the online age who thrives on intellectual battle”, Carole Cadwalladr, The Guardian, 1 August 2010
【参考】『ウィキリークスと情報流出の全貌』

【動画】“Wikileaks' Julian Assange speaks two years on - Truthloader (ウィキリークスのジュリアン・アサンジが2年間を語る - トゥルースローダー)”, by Truthloader, YouTube, 2014/06/19



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posted by ジム佐伯 at 07:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 情報社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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