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2013年07月02日

第49回:“See Naples and die.”―「ナポリを見て死ね」(ことわざ)

(本文3447文字、読み終わるまでの目安:8分37秒)


こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉をご紹介しています。

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ナポリ湾とヴェスヴィオ火山
By Damirux, 10 June 2006, licensed under the Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported license , via Wikimedia Commons

第49回の今日はこの言葉です。
一時期ローマに関する言葉を続けてご紹介しましたが、今日はイタリアつながりです。
“See Naples and die.”
「ナポリを見て死ね。」
直訳ですが、日本でもこのまま使われますね。
「死ぬ前に一度はナポリを見ておけ」という意味のことわざです。

ナポリ(Napoli, 英語でNaples)はローマから南東へ200キロほど離れた都市で、地中海の一部であるティレニア海(Tyrrhenian Sea)に面しています。ローマ、ミラノに次ぐイタリア第三の人口を持つ街で、カンパニア州(Campania)の州都でもあります。
風光明媚な土地柄で、輝く太陽に温暖な気候、陽気な人々というイタリアのイメージはこの街が元になっています。



この言葉は、詩人で劇作家にして科学者、法律家、政治家でもあるドイツの文豪ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe, 1749-1832)の言葉とされています。
しかし、実はゲーテは当時使われていたイタリアのことわざを紹介しただけだったのです。

ゲーテの半生をふりかえってみましょう。

ゲーテは1749年にドイツ中部フランクフルト(Frankfurt am Main)の裕福な実業家の家庭に生まれました。
当時ドイツは神聖ローマ帝国(Holy Roman Empire, ラテン語:Imperium Romanum Sacrum)がハプスブルク家の支配や宗教改革を経て形骸化し、諸侯が分立して自由都市や独立した小国が入り乱れている状態でした。

ゲーテは16歳で家庭を離れライプツィヒ大学(Universität Leipzig)に入学しました。健康問題でいったん勉学を中断しますが21歳でフランス領内のストラスブール大学(Université de Strasbourg)に改めて入学、2年後に卒業します。その後ゲーテは弁護士として働きますが、次第に文学活動に専念するようになります。

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25歳当時のゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe, 1749-1832)
By Georg Friedrich Schmoll, 1774 [Public domain], via Wikimedia Commons

ゲーテは25歳の時に、自らの体験をもとにした『若きウェルテルの悩み(The Sorrows of Young Werther, ドイツ語原題:Die Leiden des jungen Werthers)』(1774年)を出版します。この作品はたちまち評判となり、すぐに各国語に翻訳されてヨーロッパ中にセンセーションをまきおこしました。ウェルテルの服装が流行したり、ウェルテルを真似て自殺する若者も多数いたそうです。作中人物のモデルが詮索されたり、ウェルテルのモデルである自殺した友人イェールザレム(Karl Wilhelm Jerusalem, 1747-1772)の墓が愛読者の巡礼地となったりしたそうです。なんだかアニメファンの「聖地巡礼」のようですね。


若きウェルテルの悩み (新潮文庫),ゲーテ (著), 高橋 義孝 (訳), 新潮社; 改版 (1951/3/2)

あのナポレオン・ボナパルト(Napoléon Bonaparte, 1769-1821)もこの作品の愛読者で、エジプト遠征にも持参して7回も読んだと自ら語っているそうです。

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ナポレオン・ボナパルト(Napoléon Bonaparte, 1769-1821)
Jacques-Louis David, 1812 [Public domain], via Wikimedia Commons

翌1775年、ゲーテはドイツ中部のテューリンゲン州(Freistaat Thüringen)にある当時のザクセン=ヴァイマール公国(Sachsen-Weimar)の若き君主カール・アウグスト公(Karl August von Sachsen-Weimar-Eisenach, 1757-1828)に招かれ、首都ヴァイマール(Weimar)へ移り住みます。18歳だったアウグスト公に兄のように慕われたゲーテは半年後にこの小国の閣僚となり、産業振興や文教政策など、政務に没頭することになります。

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カール・アウグスト公(Karl August von Sachsen-Weimar-Eisenach, 1757-1828)
By Unknown, circa 1805 [Public domain], via Wikimedia Commons

7年後の1782年、ゲーテは神聖ローマ皇帝ヨーゼフ2世(Joseph II, 1741-1790)よりフォン(von)の称号を名乗る貴族に列せられ、ヴァイマール公国の宰相となります。宰相とは日本の内閣総理大臣に当たります。そして結局ゲーテはこの地に永住することになるのです。

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ヨーゼフ2世(Joseph Hickel Joseph II, 1741-1790)
Portrait of Emperor Joseph Hickel by Unknown, second half of 18th century [Public domain], via Wikimedia Commons

1786年に、ゲーテはアウグスト公に無期限の休暇を申し出てイタリアへ旅立ちます。あまりの激務に疲れてしまったのでしょうか。ゲーテはアウグスト公に行き先も告げずに出かけたそうです。
イタリアはゲーテの憧れの地でした。ゲーテはローマ、ナポリ、シチリア島などを訪れ、2年間イタリアに滞在します。イタリアの着物を着て、流暢にイタリア語を話し、地元の芸術家と交流したり、政務で断絶していた作家活動を再開したりしました。

この時の日記や書簡をもとに、ゲーテは『イタリア紀行(Italian Journey, ドイツ語原題:Italienische Reise)』(1816-1817)を発表します。
なんとイタリア旅行から30年後のことでした。

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ローマ滞在中のゲーテ
By Angelica Kauffman, 1787 [Public domain], via Wikimedia Commons


イタリア紀行 中 (岩波文庫 赤 406-0), ゲーテ (著), 相良 守峯 (訳), 岩波書店; 改版 (1960/4/25)

ナポリは当時、南イタリアを支配していた両シチリア王国(Kingdom of the Two Sicilies)の首都として繁栄の絶頂にありました。
『イタリア紀行』でゲーテは次のように書いています。

“I won't say another word about the beauties of the city and its situation, which have been described and praised so often.”
「この街の美しさと状況を語るには、この言葉に限る。
 何度もその美しさを描写したり讃えたりしてきたこの言葉に。」

“As they say here, 'Vedi Napoli e poi muori!
  - See Naples and die!'”

「この地で『ヴェーディ・ナポリ・エ・ポイ・ムオーリ』と言われている、
 『ナポリを見て死ね!』という言葉だ。」

このようにゲーテは、自らの言葉として「ナポリを見て死ね」と語ったのではなく、既にあったイタリア語の

“Vedi Napoli e poi muori!”
「ナポリを見て死ね」

という言い回しを紹介したのです。
ゲーテは次のようにも書いています。

“Naples is a paradise;
 everyone lives in a state of intoxicated self-forgetfulness,
 myself included.”

「ナポリは楽園だ。
 誰もがうきうきとした忘我の境地にあり、
 私も例外でない。」

よほどナポリが気に入ったのでしょうね。

0049-spaccanapoli.jpg
ナポリの旧市街スパッカナポリ
By MM (Own work), July 2007 [Public domain], via Wikimedia Commons

ところが、今のナポリはとても「楽園」とは言えない状態にあるようなのです。

僕は10年ほど前にナポリを訪れたことがあります。
確かに海に面した街並はとても美しく、名物のピザ(Pizza)も最高に美味しかったです。
しかし抜群に楽しかったかというと、そうでもありません。
なぜならば、治安が悪かったからです。

10年前もナポリは治安が悪いことで有名で、観光客の夜の外出は自殺行為、夜景を見に行くことも危険だからやめておけといわれました。観光バスは客を乗せたまま名所の前を通過する「車窓観光」で、街の自由散策はできませんでした。これではまるでサファリパークです。夕食時にバスを降りて有名なピザレストランまでちょっとの距離を歩くのが、とても怖かったのを覚えています。

現在はさらに状況が悪化しています。
2007年以降、ごみの増大に処理場の増設が追い付かず、街じゅうに未回収のゴミが散乱する状態がたびたび起こっているそうです。ナポリ当局の財政難も原因の一つだそうです。下水の消毒なども追いつかず、巨大化したゴキブリが大発生するという、想像するのも恐ろしい事態も起こっているそうです。

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By Khayman (Own work), 15 June 2008 [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons
こうした状態を皮肉って、
“See Naples and die.”
「死ぬ前にナポリを見ておけ」
というのは
「ナポリが死なないうちに見ておけ」
という意味だというジョークもあるようです。(Wikipediaより。出典ありません)

ナポリのそんな現状をゲーテが知ったら悲しむでしょうね。
ゲーテは1831年にライフワークとなった戯曲『ファウスト(Faust)』の第二部を完成させ、翌1832年に燃え尽きるように亡くなりました。82歳でした。

0049-goethe.jpg
晩年のゲーテ(79歳頃)
By Joseph Karl Stieler, 1828 [Public domain], via Wikimedia Commons

“More light!”
「もっと光を!」
という最後の言葉は、ドイツ語の
“Mehr Licht!” (メーア・リヒト!)
のままでも有名です。
『ファウスト』の第二部は死後翌年の1833年に発表されました。

“See Naples and die.”
ナポリを見て死ね。

ナポリにはぜひ、美しく安全な街を復活させてほしいものです。
そしていつか、そんなナポリをまた訪れてみたいです。

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ナポリの夜景
By Finizio, 20 August 2005, licensed under the Creative Commons Attribution-Share Alike 2.0 Italy license , via Wikimedia Commons

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

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【参考】Wikipedia
【参考】『Italienische Reise(イタリア紀行、ドイツ語原文)』, グーテンベルグプロジェクト(Project Gutenberg)
【参考】『Italian Journey(イタリア紀行、英訳)』, W. H. Auden and Elizabeth Mayer. S. 訳, Helsingin yliopiston opiskelijakirjasto

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