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2013年07月04日

第50回:“There ain't no such thing as a free lunch.”―「無料の昼食なんてものはない」(ロバート・A・ハインラインほか)

(本文5159文字、読み終わるまでの目安:12分54秒)


こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言やちょっといい言葉をご紹介しています。

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Image courtesy of piyato, published on 17 October 2011 / FreeDigitalPhotos.net

第50回の今日はこの言葉です。
“There ain't no such thing as a free lunch.”
「無料の昼食なんてものはない。」
という意味です。

“ain't”“am not”の短縮形で、英語の古語なのですが、“are not”“is not”“has not”“have not”などをひっくるめて“ain't”というスラングでもあります。
あまり上品ではない表現とされています。強調したい時や英語の歌詞ではよく見ますが、ビジネスシーンでは使わないほうがいいでしょう。

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Image courtesy of Apolonia, published on 12 May 2013 / FreeDigitalPhotos.net

“ain't no”とありますので、二重否定で
「無料の昼食なんてなくもない」→「無料の昼食はあるってこと?」
とちょっと思いますね。
しかしこの場合は肯定ではなく強い否定を表し、「無料の昼食なんてあるはずがない。」という意味になります。

“ain't no”だけでなく、英語の二重否定は肯定だけでなく強い否定も表すことがあります。
“I don't know nothing.”
「まったく何も知らないんだ。」
“I didn't do nothing.”
「まったく何もしていないんだ。」
などのように使います。いずれも文法的には正しくなく、あまり上品な言い方でもないですから、使わないことをオススメします。

したがって、
“There ain't no such thing as a free lunch”
は、
“There is no such thing as a free lunch.”
「無料の昼食なんてものはない。」
と同じ意味となります。

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Image courtesy of rakratchada torsap, published on 28 November 2011 / FreeDigitalPhotos.net

この言葉が登場したのは19世紀のアメリカだと言われています。西部開拓時代ですから西部劇の世界をイメージして下さい。
1840年頃から禁酒法(Prohibition)が施行される1920年まで使われていたそうですが、いつ頃最初に登場したかはさだかではありません。
この頃、バー(Bar)や酒場(Saloon)では“Free Lunch”と称して無料の昼食を提供するのがよく行われていました。
飲み物を一杯頼むと、昼食をいくらでも食べることができるのです。
このサービスは人気を呼びました。

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Image courtesy of Witthaya Phonsawat, published on 06 September 2011 / FreeDigitalPhotos.net

しかしここに落とし穴があります。
ここで出される昼食のハムやチーズやクラッカーにはわざと塩分の濃いものが出され、客は結局ビールを何杯も頼むことになったのだそうです。そして食事のコストは飲み物の料金に上乗せされています。
ですから、結局高くついてしまうんです。

日本にも、
「タダより高いものはない」
ということわざがありますが、同じような意味ですね。

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Image courtesy of -Marcus-, published on 27 March 2013 / FreeDigitalPhotos.net

この言葉は、アメリカのSF作家ロバート・A・ハインライン(Robert Anson Heinlein, 1907-1988)の作品で有名になりました。ハインラインはSF小説でベストセラーを産んだ最初の作家でもあり、SF小説の人気の大衆化に貢献しました。同じアメリカのアイザック・アシモフ(Isaac Asimov, 1920-1992)とイギリスのアーサー・C・クラーク(Sir Arthur Charles Clarke, 1917-2008)と並んで、世界SF界のビッグスリーとも呼ばれました。



ロバート・A・ハインライン(Robert Anson Heinlein, 1907-1988)

ハインラインの作品の中では、ロマンチックなタイムトラベル物である『夏への扉(The Door into Summer)』(1956)が日本では人気があり、僕も好きな作品です。


夏への扉 (ハヤカワ文庫SF), ロバート・A. ハインライン(著), 福島 正実(訳)

また、昆虫型異星生物との戦争を描いた『宇宙の戦士(Starship Troopers)』(1959)はポール・バーホーベン(Paul Verhoeven, 1938-)が監督して映画『スターシップ・トゥルーパーズ(Starship Troopers)』(1997年アメリカ)にもなりました。小説と映画は作風が異なりますが、いずれも風刺の効いた内容となっており、僕の好きな作品です。


【動画】STARSHIP TROOPERS - Trailer ( 1997 ), by WorleyClarence, YouTube, 2008/06/15


宇宙の戦士 (ハヤカワ文庫 SF (230)), ロバート・A・ハインライン(著), 矢野徹(翻訳), 早川書房(1979/09)

本日の言葉が登場するのは、ハインラインのこれまた傑作の一つ『月は無慈悲な夜の女王(The Moon Is a Harsh Mistress)』(1966)です。地球の植民地である月が独立を目指して革命を起こし、地球との外交交渉や武力衝突を繰り広げる作品です。
三部構成になっており、月と地球との武力衝突が描かれている第3章のタイトルが
“TANSTAAFL” (「タンスターフル」と発音)
です。何だか呪文みたいですね。
これがまさに本日の言葉、
“There Ain't No Such Thing As A Free Lunch”
の頭文字をつなげた言葉、アクロニム(acronym)なのです。


月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748), ロバート・A・ハインライン(著), 矢野 徹(翻訳), 早川書房; 新装版(2010/3/15)

作中、主人公のコンピューター技師マニー(Mannie)は「昼食無料(Free Lunch)」と掲示しているバーを指して、
「あれがなければ、この飲物だって半分の値段ですむはずなんだ。(略)
 どんなものであろうと無料のものは長いうちには二倍も高いものにつくか、あるいは無価値なものとなる」
「どんな物であろうと、手に入れるものは、それに対して支払うんだ」
と説明します。

無料の昼食などという甘い話は存在しないということです。まさに、「タダより高いものはない」ですね。

この言葉自体は、“TANSTAAFL”という略語も含めてハインラインの独創ではないようですが、この言葉を世界的に有名にしたのはこの作品に間違いありません。
“There is no such thing as a free lunch.”
を略して、“TINSTAAFL”(ティンスターフル)とも言いますが、“TANSTAAFL”の方が圧倒的に有名なのはこの作品のおかげです。

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Image courtesy of John Kasawa, published on 03 May 2011 / FreeDigitalPhotos.net

ハインライン以前にも、テキサス州にあるメキシコ国境沿いの街エル・パソの夕刊紙「エル・パソ・ヘラルド・ポスト(El Paso Herald-Post)」の『8単語の経済学(Economics in Eight Words)』という記事(1938年6月27日)にこの言葉がジョークとして登場します。
ある王様がお付きの学者たちに「我が国の経済を短く簡単にまとめよ」と命じました。学者たちは1巻600ページもある報告書を87巻作って献上しました。王様は怒って、学者たちは死刑になりました。
「もっと簡潔にまとめよ」という王様の命令に対して、最後に残った深い知恵を持つ経済学者はこう答えました。

“Sir, in eight words I will reveal to you all the wisdom that I have distilled through all these years from all the writings of all the economists who once practiced their science in your kingdom. Here is my text: ‘There ain't no such thing as free lunch.’”
「王様、王国のすべての経済学者の長年の実験とあらゆる著書から導きだされた英知のすべてを8単語で明らかに致します。つまり、『無料の昼食なんてものはない』ということです。」

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Image courtesy o iamharin, published on 06 February 2012 / FreeDigitalPhotos.net

アメリカではよく宣伝文句に“FREE”の文字が使われます。それだけ一目を引くのでしょう。
しかし、実質は無料でないことがほとんどです。
よくあるのが、
“Buy one get one FREE!”
「一つを買うともう一つが無料!」
という宣伝文句です。
“BOGO”や“BOGOF”とも略されます。
まあ実質半額なのですが、英米ではこういう宣伝文句が好まれるようです。

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Lyn Harper, 29 July 2003 [CC-BY-SA-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)], via Wikimedia Commons

カジノ(casino)は英語で「カスィーノウ」と発音しますが、ここでは“Free food and free drink(食事・飲物とも無料)”とされている所も結構あります。これはもちろん客のギャンブルの負け分、つまりカジノ側の勝ち分でまかなわれています。

また、ホテルの“Free breakfast(無料の朝食)”“Free Wi-Fi(無料の無線LANインターネット接続)”も、実際は料金が宿泊代に含まれていると考えてよいと思います。
まあ海外出張での旅費精算なんかではいろいろ手間が省けて有り難いんですけどね。

このように、「タダより高い物は無い」、「うまい話には裏がある」、というのは経済学だけでなく、世の中の真実として広く受け入れられています。

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Image courtesy of Paul Martin Eldridge, published on 20 March 2011 / FreeDigitalPhotos.net

また、この言葉はコンピュータ・サイエンスの世界では少し一般化された別の意味に使われています。
“No-free-lunch theorem”
「無料の昼食はない法則」「ノーフリーランチの法則」
というのは、検索や組合せ最適化における法則で、NFLTと略されます。
ここでは“Free Lunch”は、万能の検索アルゴリズムの例えとして用いられています。
物理学者のデイヴィッド・ウォルパート(David Wolpert)とウィリアム・マクレディ(William G. Macready)は論文の中で次のように述べています。

“Any two algorithms are equivalent when their performance is averaged across all possible problems.”
「任意の二つの検索アルゴリズムは、すべての有り得る問題に対しては同等の性能を持つ」

つまり、ある問題に特化したアルゴリズムはその問題に対してはよい性能を示すが、別の問題についてはその問題に特化したアルゴリズムにはかなわない。したがって平均するとほぼ同等の性能になってしまい、すべての問題に優れた結果を示す万能のアルゴリズム(=フリーランチ)は存在しない、と言っています。

コンピュータ業界はなぜかこのフリーランチという言葉が好きなようです。
プログラミング言語C++の専門家であるハーブ・サッター(Herb Sutter)は、プログラミング雑誌「ドクター・ドブズ・ジャーナル(Dr. Dobb's Journal)」に次のようなタイトルの記事を執筆しました。

“The free lunch is over: A fundamental turn toward concurrency in software”
『無料の昼食は終わった:ソフトウェアにおける並行処理へむけた根本的な変化』
Dr. Dobb's Journal, 30(3), March 2005.

この記事は、コンピュータの頭脳であるマイクロプロセッサ(Microprocessor)の処理性能の伸びが物理的な限界に近付いている現状から、プロセッサのメーカーもソフト開発業者もマルチスレッドの並行処理に対応しなければいけないということを書いています。
マイクロプロセッサの処理能力が倍々で成長し、マルチスレッドを考える必要がなかったある意味「お気楽な」時代のことを「フリーランチ」に例えています。

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ハーブ・サッター(Herb Sutter)
By Microsoft Professional Developers Conference 2009, 18 November 2009 [CC-BY-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons

“Free Lunch”という言葉が登場した映画で忘れられないのが、レニー・ハーリン(Renny Harlin, 1959-)が監督した『ダイ・ハード2(Die Hard 2: Die Harder)』(1990-)です。
ブルース・ウィリス(Walter Bruce Willis, 1955-)が演じる主人公の刑事ジョン・マクレーン(John McClane)はワシントンDCのダレス空港(Washington Dulles International Airport)で2人の不審者に声をかけます。不審者は実はテロリストで、マクレーンに発砲します。空港で銃撃戦をおこしたマクレーンに対して空港警察の責任者ロレンゾ(Carmine Lorenzo)は大激怒し、職場から追い出そうとします。

マクレーンは所属していたロス警察(LAPD: Los Angeles Police Department)のバッジを見せますが、頭に血がのぼったロレンゾは次のように怒鳴るのです。

“You think that LA badge is going to get you a free lunch or something around here?”
「そのLA(ロス警察)のバッジでタダの昼メシか何かにでもありつこうと思ったのか?」

マクレーンはこの時は冷静に、

“Maybe a little professional courtesy.”
「プロとしての礼儀が少しばかりほしいだけさ。」

と答えますが、結局ロレンゾに管制塔(Control tower)から追い出されてしまいます。
ここでも、「フリー・ランチはない」という“TANSTAAFL”の原則が会話の前提になっています。


【動画】"Die Hard 2 (1990)" Theatrical Trailer #1 (『ダイ・ハード2』劇場版予告編 #1), by Forever Cinematic Trailers, YouTube, 2010/08/12


ダイ・ハード2 [DVD], 20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン(2007/06/16)

“There ain't no such thing as a free lunch”
無料の昼食なんてない。

そうそうウマい話はないということです。
地道にコツコツと働きましょう。
それでは、今日もよい昼食をお楽しみ下さい。

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Image Copyright by Igor Mojzes, Used under license from Links Co., Ltd.

それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】“Quotes Uncovered: The Punchline, Please”, FREAK NOMICS(R) THE HIDDEN SIDE OF EVERYTHING, FRED SHAPIRO, 07/16/2009

【動画】STARSHIP TROOPERS - Trailer ( 1997 ), by WorleyClarence, YouTube, 2008/06/15
【動画】"Die Hard 2 (1990)" Theatrical Trailer #1 (『ダイ・ハード2』劇場版予告編 #1), by Forever Cinematic Trailers, YouTube, 2010/08/12

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