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2013年06月06日

第34回:“It's enough to be alive this minute.”―「この瞬間、生きていることでたくさんだ」(リンドバーグ)

(本文3226文字、読み終わるまでの目安:8分04秒)


こんにちは! ジム佐伯です。
英語の名言・格言、ちょっといい言葉をご紹介しています。

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嵐のニューヨーク・シティ
By Damian Brandon, published on 26 March 2011. Image courtesy of FreeDigitalPhotos.net

第34回の今日はこの言葉です。
“It's enough to be alive this minute.”

「この瞬間、生きていることでたくさんだ。」(佐藤亮一訳)

これはアメリカの飛行士チャールズ・A・リンドバーグ(Charles Augustus Lindbergh, 1902-1974)の言葉です。
1927年にニューヨーク・パリ間の大西洋単独無着陸飛行に世界で初めて成功したことで有名ですね。
この言葉は彼の自伝的ドキュメンタリー『翼よ、あれがパリの灯だ(The Spirit of St. Louis)』(1953)に出てくる一節です。

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チャールズ・オーガスタス・リンドバーグ(Charles Augustus Lindbergh, 1902-1974)
By Harris & Ewing. Image from the United States Library of Congress [Public domain], via Wikimedia Commons

リンドバーグは機械工学を学んだ後、曲芸飛行士やアメリカ陸軍航空隊(United States Army Air Corps)のパイロットを経て、民間航空便のパイロットとして複葉機でセントルイスとシカゴ間の郵便を運ぶ仕事をしていました。
彼は「スピリット・オブ・セントルイス(セントルイス精神, Spirit of St. Louis)」と名付けた飛行機でニューヨークのルーズベルト飛行場(Roosevelt Field)を飛び立ち、5,810kmの距離を33時間30分飛び続けてパリのル・ブルジェ空港(Le Bourget Field)に着陸しました。

ニューヨーク・パリ間大西洋無着陸飛行には当時ニューヨークのホテル王レイモンド・オルティーグ(Raymond Orteig, 1870-1939)により2万5千ドルの懸賞金がかけられており、リンドバーグは賞金を手にしました。現在の貨幣価値では数億円と言われています。


『翼よ、あれがパリの灯だ [単行本]』, チャールズ・A. リンドバーグ(著), 佐藤 亮一(訳), 恒文社 (1991/10)

リンドバーグは当時まったく無名でした。自己資金も2,000ドルしかなかったそうです。セント・ルイスの投資家を何人も回ってやっと3人から3,000ドルの出資を得ました。
まるでベンチャ投資をつのるスタートアップ企業のようです。その後ようやくセント・ルイスの銀行の後援を得て、資金的には目途がつきました。

次は飛行機です。当時の技術では、大西洋横断には少なくとも三発複座(エンジン3機、乗員2名)の飛行機が必要だと思われていました。長距離の飛行を交代で操縦するためです。しかしリンドバーグは単発単座(エンジン1機、乗員1名)の飛行機を選びます。しかもニューヨークのベランカ社(Bellanca Aircraft Company)の飛行機の購入を望んでいましたが、ベランカ社の提示した見積り価格が高額で、資金不足だったリンドバーグはサンディエゴのライアン社(Ryan Airlines)に飛行機の製作を依頼します。
何よりも貴重な時間が失われていく中で飛行機の製作は進みました。リンドバーグはサンディエゴの工場で進捗を待ちながら、ニューヨーク・パリ間を最短で飛ぶための大圏コース(Great circle route)の航路を計算しました。もし一番乗りを逃した時のために、太平洋横断飛行の航路も計算したそうです。

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リンドバーグとスピリット・オブ・セントルイス号
Photo by Unknown, 31 May 1927. [Public domain], from the United States Library of Congress, via Wikimedia Commons

そしてついにスピリット・オブ・セントルイス号が完成し、リンドバーグはテスト飛行を兼ねてサンディエゴからセントルイスへ、そしてセントルイスからニューヨークへと飛びます。合計してもニューヨーク・パリ間の飛行距離には及ばない距離でしたが、もはや十分なテスト飛行をしている時間はありません。ライバルたちも虎視眈々と出発の機会をうかがっていたからです。

大西洋では嵐が観測されていましたが、天候は回復するだろうとの天気予報が出ました。完全に回復した後からだとライバルに先を越される恐れがあると考えたリンドバーグは、早朝の出発を決心します。準備でほとんど睡眠をとれなかったにもかかわらず、リンドバーグはパリへ向けて飛び立ったのです。

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ニューヨークのルーズベルト飛行場を出発するスピリット・オブ・セントルイス号
By Unkown, 1927. Image from National Air and Space Museum Archives, Smithsonian Institution [Public domain], via Wikimedia Commons

スピリット・オブ・セントルイス号はぎりぎりまで航続距離を伸ばすために操縦席の前にも燃料タンクが設置され、前方の窓がありませんでした。必要な観測は側面の小さな窓からおこない、前方を見るには潜望鏡のようなものを使わなければいけませんでした。軽量化のため、天測航法を行うための六分儀や無線航法を行うための最新の航空無線は使用せず、大西洋上は方位磁針と飛行時間による推測航法を行いました。パラシュートすら積まず、地図の余白さえ切り取るほど軽量化に苦心したそうです。

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ワシントンDCのスミソニアン航空宇宙博物館(The National Air and Space Museum)に展示されるスピリット・オブ・セントルイス号
Mytwocents at en.wikipedia [CC-BY-SA-3.0 or GFDL], from Wikimedia Commons

リンドバーグは上空で猛烈な睡魔や悪天候と闘います。また燃料が持つか、方向が間違っていないかという不安にも悩まされます。意識を失いかけて大西洋の海面に突っ込みかけたリンドバーグは、死を意識することで睡魔の呪縛を破り、機を上昇させます。その場面で、『翼よ、あれがパリの灯だ』には次のように書かれています。

“How beautiful the ocean is; how clear the sky; how fiery the sun!
 Whatever coming hours hold, it's enough to be alive this minute.”
「なんと大洋の美しいことよ! なんと大空のすんでいることか! 炎のような太陽!
 何事が起ころうと、この瞬間、生きていることでたくさんだ。」(佐藤亮一訳)

大西洋上での数々の困難を乗り越え、リンドバーグは夜のパリへ到着します。「翼よ、あれがパリの灯だ。」という言葉は有名ですが、これは翻訳者の佐藤亮一による邦題(実に素晴らしい邦題です!)で、リンドバーグがこの言葉を口にしたという記録は残っていません。

同書によると、彼がパリ到着後に初めて口にした言葉は、
“Are there any mechanics here?”
「整備士はいませんか?」
でした。次に、
“Does anyone here speak English?”
「英語を話せる人はいませんか?」
と叫んだそうです。
感動的な場面にまったく感動的ではない言葉を口にしているところにリアリティがあって面白いですね。

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リンドバーグの成功を報じる『ブルックリン・デイリー・イーグル(Brooklyn Daily Eagle)』紙(1927/5/22)
By Wolfgang Sauber (Own work) (19 April 2008) [GFDL or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0], via Wikimedia Commons

リンドバーグの成功の原因は、第一に何よりも危険を恐れず挑戦したということに尽きると思います。
“Nothing ventured, nothing gained.”
「危険を冒さなければ何も得られない。」
ですね。

【関連記事】第32回:“Nothing ventured, nothing gained.”―「危険を冒さなければ何も得られない」(ことわざ)(2013年06月02日)

第二に、天候が回復するきざしをつかんで、誰よりも早く飛び立った決断です。
まさに、
“Opportunity seldom knocks twice.”
「好機は二度と訪れない」
ですね。

【関連記事】第31回:“Opportunity seldom knocks twice.”―「好機は二度と訪れない」(ことわざ)(2013年06月01日)

第三に、敢えて単独飛行を選ぶことで、自分ですべてを決めることができる状況を作り出したことです。
これは、
“Fast alone, far together.”
「一人だと速く、一緒だと遠くへ。」
の“fast”を優先したということですね。

【関連記事】第33回:“Fast alone, far together.”―「一人だと速く、一緒だと遠くへ」(アフリカのことわざ)(2013年06月04日)


【動画】“Charles Lindbergh”, by Studies Weekly, YouTube, 2016/03/08

リンドバーグには心臓の悪い姉がいたそうです。彼はフランスのノーベル賞科学者で外科医でもあるアレクシス・カレル(Alexis Carrel, 1873-1944)と共同で、1935年に世界初の人工心臓向け灌流ポンプを開発しました。これは今日の人工心臓の原型となっているそうです。彼は科学者や技術者としても優れていたのですね。

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リンドバーグが開発した人工心臓向け灌流ポンプ
By Sage Ross (Own work) [GFDL or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0], via Wikimedia Commons

『翼よ、あれがパリの日だ』は、出版翌年の1954年にピューリッツァー賞(Pulitzer Prize)を受賞しました。
前にご紹介したリチャード・バック(Richard David Bach, 1936-)やアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(Antoine de Saint-Exupéry, 1900-1944)も飛行士でしたが、いずれも文才にも恵まれており素晴らしい作品を遺しています。飛行士たちの多才ぶりには驚かされます。


【動画】The Spirit of St. Louis (1957) Official Trailer - Jimmy Stewart, Murray Hamilton Movie HD(『翼よ! あれが巴里の灯だ』(1957年)公式予告編 - ジェームズ・ステュアート、マレー・ハミルトン出演 [HD]), by MOVIECLIPS Classic Trailers, YouTube, 2014/07/31

“It's enough to be alive this minute.”
この瞬間、生きていることでたくさんだ。

死を恐れずに挑戦した人の言葉は重みが違いますね。
僕たちも今生きていることに感謝して日々を大切に過ごしたいものです。

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パリの夜景
By Benh LIEU SONG (Own work) [GFDL or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0], via Wikimedia Commons

今回はだいぶ長く語ってしまいました。それでは今日はこのへんで。
またお会いしましょう! ジム佐伯でした。

【関連記事】第27回:“Like everything else, Fletcher. Practice.”―「ほかのことと全部おんなじさ、フレッチャー。練習だよ」(かもめのジョナサン)(2013年05月25日)
【関連記事】第28回:“What is essential is invisible to the eye.”―「かんじんなことは、目に見えないんだよ」(サン=テグジュペリ)(2013年05月26日)
【関連記事】第31回:“Opportunity seldom knocks twice.”―「好機は二度と訪れない」(ことわざ)(2013年06月01日)
【関連記事】第32回:“Nothing ventured, nothing gained.”―「危険を冒さなければ何も得られない」(ことわざ)(2013年06月02日)
【関連記事】第33回:“Fast alone, far together.”―「一人だと速く、一緒だと遠くへ」(アフリカのことわざ)(2013年06月04日)

【参考】Wikipedia(日本語版英語版
【参考】『翼よ、あれがパリの灯だ [単行本]』, チャールズ・A. リンドバーグ(著), 佐藤 亮一(訳), 恒文社 (1991/10)
【参考】The Spirit of St. Louis [ペーパーバック], Charles A. Lindbergh, Scribner (2003/11/25)

【動画】“Charles Lindbergh”, by Studies Weekly, YouTube, 2016/03/08
【動画】The Spirit of St. Louis (1957) Official Trailer - Jimmy Stewart, Murray Hamilton Movie HD(『翼よ! あれが巴里の灯だ』(1957年)公式予告編 - ジェームズ・ステュアート、マレー・ハミルトン出演 [HD]), by MOVIECLIPS Classic Trailers, YouTube, 2014/07/31



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posted by ジム佐伯 at 12:00 | Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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